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異世界の機兵技師(プラモデラー)  作者: 龍神雷
第14話 量産機
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14-2

 麗らかな春の日差しが差し込む中、キングス工房は慌ただしい雰囲気に包み込まれていた。

「フィルはそっち脚部の調整!シンは調整の済んだ箇所の駆動チェック!!」

 ユウが大声で指示を出す。

「シーナさんは不具合のある箇所の制御回路の見直し…ってシン!腕はまだ魔動筋が足りなくて調整が済んでないから腰部の方をやってくれ!!ちゃんとチェックリスト通りにやれよっ!!」

 工房にはシルフィロ-ドと、その隣にシルフィロードに似た白い魔動機兵が並ぶように立っている。

 全体的なフォルムは似ているが、シルフィロードに比べると手足は太めで、頭部には飾り角は無い。

 丸みを帯びた鎧甲はシンプルで特徴が少ない。

 鎧甲が少ない所を見ると、シルフィロードと同じ高機動型なのだろうが、丸みのせいなのか、素早く動けるようには見えない。

 シルフィロードを騎士と例えるならば、こちらは兵士と言った所だろうか。

 ユウはシルフィロードの調整を行いながらも、隣の魔動機兵で作業をするシンとフィル、そして工房の隅で作業をするシーナへ気を配りながら、それぞれに対し指示を出している。

「王国祭までもう時間が無いんだから急げよ!」

 今年の王国祭まで後1ヶ月足らず。

 時間はあるように見えて1ヶ月などあっと言う間に過ぎてしまう。

 それに王都までの移動時間もあるので、実質は1ヶ月を切っている。

 確か1年前も似たような状況だったと思い出す。

 慌ただしいが充実した日々。

 急ピッチで作業を進めながら、ユウはもう1機の白い魔動機兵に視線を注ぎ、ついニヤけてしまう。

 誰もが扱えるようにと最高速度を落とし、魔動制御回路に手を加えて操作性を重視したシルフィロードのマイナーダウン機。

 名前のまだ決まっていないこの機体を造る事となった切欠をユウは思い返していた。


 *


 決闘を終えヴァルカノの町に戻ってから1週間。

 シンはユウと共に領主館にいるアイリに呼び出されていた。

 普段はアイリの方から工房の方へ来る事の方が多く、私事の場合は別館へ呼ばれていた為、今回わざわざ彼らを領主館の本館に呼び出したという事は王族としての公務に違いないのだろう。

 その為、2人は略式ながら魔動技師の正装に身を包んでいる。

 領主館本館の大広間ではドレスで着飾ったアイリが2人を迎える。

 その脇には領主を始めとした数人の地元貴族が控えている。

「決闘の戦後処理に色々と手間取り、時間が掛かってしまって申し訳ありません。少々遅くなりましたが、改めて此度はお疲れ様でした。そして王国を勝利に導いた事に父王に代わり感謝を述べさせて頂きます」

 アイリは王女として言葉を述べる。

「この決闘の結果、王国はアルザイル帝国領の鉱山採掘権を得ました。ですが、帝国の食糧事情を鑑みて、一方的な強制搾取ではなく、王国で採れた米や麦などの食糧となる穀物と鉱山資源とで貿易を取り行う事となりました。取引価格はこちらが有利になるような内容の協定になっていますが、これで少しでも帝国の食糧事情が緩和出来れば、今後、侵略行為が行われる事は無くなるでしょう」

 いくら決闘が正当なものとはいえ、負けたアルザイル帝国の事情に変化が無ければ、再び侵略行為や決闘を挑んでくる場合がある。

 その為の妥協案だった。

 また大国であるフォーガン王国の懐の深さを見せつける事で、周辺各国や同盟国にも良い印象を与えるという目的も少なからずあった。

「ですがシーナさんから聞いた話によれば、新しく皇帝となったフォルテ皇帝は野心家だという事です。いつまで大人しくこの協定に従っているかは分かりませんので注意はしておきたいと思っています」

 アルザイル帝国がどれほどの魔動機兵を有しているかはシーナさえもその全てを把握はしていないが、今回の決闘で魔動機兵イルディンギアを2機失い、また英雄と槍聖という帝国内でも最強と言って良い称号を持っていた2人も失っている。おまけに前皇帝が崩御して間も無い。

 注意するに越した事は無いが、そうすぐには体勢は整わないだろう。

「それとシーナさんの事に関してですが、サイヴァラス聖教国と私達の方で便宜は取り計らっておきました。ですので、今後、アルザイル帝国からの圧力や追及などは無いでしょう」

 その言葉にシンは胸を撫で下ろす。

 サイヴァラス聖教国の高司祭ミルスラと口裏を合わせ、シーナは死亡した事になっている。

 もしあの場にアルザイル帝国副大臣が居たならば、色々と問題が出て難しかったかもしれないが、その彼は決闘の途中で逃げ出して結局戻ってこなかった為に、すんなりと事は運んだのだ。残されていたアルザイル帝国の技術者や侍従達がシーナの死体が無い事に何の疑問も唱えなかった事も大きい。

 まぁ、悪夢という狂気に曝されてしまっては冷静な判断が出来なくても当然だと言えよう。

 これでシーナは対外的にはこの世に存在しない事になる。

 戸籍や住民票がある訳ではないが、これで彼女を知る人間が居たとしても他人の空似で通せるし、アルザイル帝国から帰国要請などが来て、それを無視しても外交的な問題には発展しなくなるのだ。

「決闘に関しての報告は以上です」

 アイリが締め括る。

 流石に領主達が居る前では悪夢については語らなかった。

 シン達は直接、目にして知ってしまったが、本来はサイヴァラスの高司祭以上の一部の人間と、各国の王にしか知らされない事実なのだ。

 それに実際に見た事が無ければ、あれをにわかには信じる事は出来ないだろうから、この判断は正解なのだろう。

 国王やサイヴァラス聖教国に固く口止めされているというのもある。

 無用な混乱は避けるのが賢明だ。

「さてそれでは本題に移りたいと思います」

 どうやら決闘の件は前置きというかついでだったようだ。

「前回の王国祭でのグランダルクの暴走を止めた功績、秋の凶悪な山賊団壊滅への助力、そして今回の決闘での活躍。多くに広まっている訳ではありませんが、シルフィロードとキングス工房の名は王都や貴族、そして魔動技師達の間で少なからず囁かれるようになっています」

 何故か傍で聞いていた領主の方が誇らしげな表情を浮かべている。

 キングス工房が有名になれば、自分やこの領地も有名になるとでも考えているのだろう。

 確かにヴァルカノの町を含むこの辺りは観光名所となるような場所があまり無い田舎だ。

 どんな理由にしろ、この町の名が有名になれば、人が集まるかもしれないと思っているのだろう。まるで町起しのようだ。

 実際、この町にアイリが駐留しているおかげで、1年前に比べれば観光客や移住者は増えているという。

 アイリがこの町に駐留しているのもキングス工房のおかげでもあるので、領主にとってはキングス工房様様といった所であろう。

「王国祭での出来事、そして皆さんのこれまでの活躍のおかげで、恐らく今度の王国祭では魔動機兵の出展が多くを占める事でしょう」

 昨年の王国祭でグランダルクとシルフィロードが出展され、そこに使用されている技術は王国の魔動技師に広まっている。

 それ以前から魔動機兵の開発を進めていた技師や、大きな工房ではそれらの技術のおかげで新たな魔動機兵を造り出しているだろう。

「つまり、次の王国祭までにそれらに負けないような新しい魔動機兵を造れってこと?」

 何となくアイリが言いたい事が分かり、シンが口を挟む。

「はい…と言いたい所ですが、そう簡単に新しいものを造れない事は私も何度も拝見しているので知っています」

 王国祭までは約半年。

 現在のシルフィロードを改修したものであれば、決闘の際に2ヶ月程で組み上げた実績があるから問題無く出展出来るだろう。

 主要部分である操縦席周りが無事だった事、そして開発書という下地と一度造り上げた実績があったからこそ、短期間で改修する事が出来たのだ。

 だが全く新しいものを造るとなると、数年あっても難しいかもしれない。

「ですので、シルフィロードを基に、あれよりも操作しやすいものを造って欲しいのです」

 高速機動型であるシルフィロードは操縦がシビアだ。

 加減速による押し潰されそうな圧力を常に受けながらの操縦は体力の消耗が激しい。

 そして動きが速い分、思考力と判断力もかなりの早さを求められる。

 かつてソーディに試しに乗ってみて貰った事があるが、最大速度の半分程度のスピードで10分動かすだけで体力と精神力を使い果たしてしまった。ちなみにシンが操縦した場合は、全速機動で20分は動かす事が出来たりする。

 どんなに強力な力を持つ魔動機兵でも、動かす人間が少ない、あるいはいなければ、ただのガラクタと一緒である。

 だからアイリは言ったのだ。

 シルフィロードを量産する為に、万人にも扱いやすいようにして欲しいと。

 そしてそれはシルフィロードを知り尽くしているキングス工房にしか出来ない事だった。

「これは父王からの要望でもあり、王立魔動研究所からの要望でもあります」

「それはどういう事?」

「王立魔動研究所では今、グランダルクの量産体制を進めています」

 昨年の王国祭の時点で既にグランダルクは量産を前提に設計されていた。

 決闘の際にグランダルク1機しか出せなかったのは、同時進行で量産化の準備を進めていたからだった。

「ですが、研究所はグランダルクという防御機の製造ノウハウは豊富ですが、それ以外の知識はまだ浅く、試作段階にさえ至っていないのが現状です」

「そこで高機動機を造り上げた実績のある僕達に白羽の矢が立ったという訳ですね」

「はい、そうです。さすがに今のままでは乗り手が限られてしまいますので、どうにかして欲しいという訳です」

「相変わらずの無茶ぶりですね。けどマイナーダウン化については僕もずっと考えていた事でもあります。ですのでこのお話、お受け致します」

 ユウは頷く。が、1つだけ問題があった。

「けれど1つ問題がありまして、それさえ解決すれば王国祭にはなんとかギリギリ間に合うと思います。ですが、もしそれが解決しない場合は間に合わないでしょう」

「その問題とは一体何ですか?」

「操縦席です。あの部分だけは魔動機兵の制御を行う全てが入っていますので、一から造ろうとすると1年、既存品を使用したとしても、魔動制御回路の調整と各部とのマッチングだけで3ヶ月近くは要します」

 機体を組み上げるのに2ヶ月、機体と操縦席の調整で3ヶ月。この期間も大まかなユウの予想でしかない。

 寝ずに作業を続け、一発で調整が上手くいけば期間の大幅な短縮にもなるが、そんな長い期間を寝ずにやる事は体力的に不可能だし、調整も大体2、3回は不具合が発生する。

 半年という期間でも本当にギリギリ間に合うかどうかだ。

「分かりました。魔動研究所からの要望でもありますしグランダルクの操縦席を1つ手配して貰いましょう」

「ありがとうございます」

 その後、予算などのいくつかの項目を確認した後、2人は領主館を後にする。

 そしてこの日から修羅場な日々が始まった。


 *


 決闘、そして悪夢との戦いで傷付いたシルフィロードだが、今回は五体満足だった事もあり修理は容易に思えた。

 だがそれは甘い考えだった。

 アダマス鋼で表面を加工していた為に分からなかったが、フレーム内部の魔動石はヒビ割れ、場所によっては砕けてしまっている。

 特に脚部は高速移動の要である事もあり、損傷が激しい。

 膝や足首の魔動筋も半分以上が断ち切れている。

 よく最後まで保ったものだと感心してしまう。

「う~ん、やっぱ根本的な耐久力を見直さないとなぁ」

 フィルは工房を見下ろすように立つシルフィロードの各部の状態をチェックしながら、今後の課題を洗い出していく。

 実戦を経験する事で見えてくるものもある。

 一応、全力稼働のテストは行っているが、テストと実戦では色々と異なる。

 実戦では思いもしないような動きをすることも多々あるので、実戦データはテストでは判明しない有益なデータが取れる事が多いのだ。

 現にテストでは衝撃吸収に十分な本数だった脚部の魔動筋が半分以上も破損しているのは、予想以上の負荷が掛かっていた証拠だ。

「フレームが砕けるのは多分、魔動石とそれを包むアダマス鋼の強度差。補強の意味があったけど、逆にコーティングが硬すぎて柔軟性が無くなったのが原因かな。となると間に緩衝材を挟めば……」

 ブツブツと独り言を呟きながら新たな作製案を練り始めるフィル。

 こうなってしまうと暫くは何も耳に入らない。

 魔動技師は基本的に研究や開発好きが多い。既存のものの改良や新しいものを造る事に楽しささえ覚えているのだ。

「あ、あの~、フィル…さん?」

 おずおずとフィルの背後からシーナが声を掛ける。

「魔動筋は材質的に他で代用できないから、これ単体では耐久度は上げられない。太くすると今度は重量が嵩むし、本数を増やしても切れたら結局意味無いし……あっ、多重構造にして衝撃を分散させたらイケるかなぁ?」

「あの~、聞こえてる?」

 自分の世界の没頭しているフィルにはシーナの声は届いていない。多分、声どころかその姿さえ目に入っていないだろう。

「お~い、フィルさ~ん」

「そういえばアドモントさんも言ってたよね。硬さだけが重要じゃないって。場合によっては柔軟さがある方が壊れにくいって。とすると……」

「こら、ちょっと!返事をしなさいよ!!」

 ついシーナは声を荒げてしまうが、それでもフィルが気付いた様子は無い。

「ああ、ユウもそうなんだけど、こうなっちゃうと殆ど反応しなくなっちゃうのよねぇ」

 声を荒げたシーナに気付き、背後からクレスがやって来る。その顔にはやれやれといった表情を浮かべている。

「けど、大丈夫。この子の場合はすぐに反応する魔法の言葉があるから。任せて下さい」

 クレスはシーナに笑みを向けた後、そっとフィルに声を掛ける。

「ご飯が出来ましたよ」

「…長さを変えて二つの圧力を……えっ?ご飯!今日のおかずは何?!」

 思考に没頭していたフィルが一瞬でクレスの方へ満面の笑みを向ける。

 クレスが「ほらね」とシーナに苦笑じみた笑顔を向ける。

 フィルの欲求の多くが食欲で占められているからこその魔法の言葉。

 もしこれがユウだった場合は実力行使するしかない。

「今日はグラタンにしてみました」

「グラタン!?クレス姉のグラタンって美味しいから好き♪」

 フィルの目がキラキラと輝いている。

 ちなみにフィルの場合、グラタンに限らずクレスの作る料理はどんなものでも好きだったりする。

「はいはい。もうすぐシンとユウも帰ってきますから、それまでに体の汚れを落として来て下さいね」

「ほらほら~、早く行かないとグラタンが冷めちゃうよ~♪」

 クレスの言葉などもう聞いていない。

 気が付けば2人を置いてフィルはあっと言う間に工房から姿を消してしまった。

 恐らく既に料理の並べられたテーブルの前に座っているだろう。

「もう!まずは先にお風呂に入りなさ~い!!」

 クレスがフィルを追い掛けていく。

 その様子に何となく釈然としないものの、シーナはフィルの扱い方を1つ理解すると同時に、温かな雰囲気に心を癒されるのであった。

量産機初お披露目。

まだ触り程度ですが。


次回、9/20(日)0:00に更新

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