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異世界の機兵技師(プラモデラー)  作者: 龍神雷
第13.5話 湯煙の街
42/62

EX-1

 ノルウェストの町の周囲は火山地帯である。

 100年以上、噴火の兆候は見られていないが死火山では無く活火山である。

 そしてノルウェストから西に少しばかり進んだ所にそれはあった。

 小さな宿場町。

 町から離れてはいるが、一応はここもノルウェスト領内であるので、この宿場町はノルウェストの宿場と呼ばれている。

 はっきりと言えば、ノルウェストと聞いて大半の人が最初に思い浮かべるのは、こちらの方だったりする。

 その理由はここが保養場であるからだ。

 火山の影響による高い地熱で地下水は温められ、温泉として湧き出している。

 その温泉に含まれる成分が肌に良いという事で、立地的にそれ程良いとは言えない場所にも関わらず、貴族階級の、特に婦人達に人気がある。

 そんな宿場町にシン達は来ていた。

 今回の決闘の労を労ってアイリが手配したのだ。

 本人も当然のように付いて来ているので、恐らくは彼女自身が一番楽しみにしていたに違いない。

「へぇ~、この世界にも温泉ってあったんだな」

 宿場町の至る所にポンプのような魔動具が設置されており、地下の温泉水を汲み上げている。

 建物の屋根や道の脇には雪が積もっているが、周囲は汲み上げた温泉の湯気のおかげでほんのりと温かい。

 それはアイリが着膨れしていない事からも間違いが無い。

 シーナは湯気で眼鏡が曇って前が見えずらいらしいので、シンが手を引いている。

 ちなみにもう片方の腕は今はフィルがそのささやかな胸を押し付けながら腕組みしている。

 物珍しそうに辺りをキョロキョロとしているので、シンの言葉は届いていないようだ。

 道中の魔動馬車の中ではクレスとアイリがシンの両側にベッタリだったので、きっと今はフィルの時間というわけなのだろう。

「しかしまさかシンくんがこんな人だなんて思わなかったわ。王女様まで誑し込んでるなんて……」

「いや、まぁ、色々とあってね。あはははは……」

 あまりに正論過ぎてシンは反論出来ない。

「ふぅ~、けどこれも惚れた弱みよね」

 シーナは溜息交じりに小さく呟く。まだほんの僅かな時間しか共にしていないが、既にこの状況に彼女は慣れ始めていた。

「ん?なんか言った?」

「べ、別に何でも無いわよ!そ、それよりも今日泊まる宿って何処なんですか、王女様?」

 眼鏡を拭いながら先頭を行くアイリにシーナは声を掛ける。

「見えてきましたよ。独特な形なので一目ですぐに分かります」

 アイリが指差した先には立派な門扉のある純和風な建物だった。

「こ、これって旅館…よね?」

 シンにだけ聞こえるよう耳元で囁く。

「だな……。確かにこの世界から見れば独特ではあるよな~」

 どう考えてもこの世界の西洋風な建築様式では無い。

 外観だけでなく内装も旅館そのものだった。

 入り口脇にある受付カウンターには着物風の衣服を来た受付が立っている。カウンターの奥には土産物売り場があり、数人の客が買い物をしている。

 恐らく貴族であろうその買い物客の服装は浴衣。

 着付けが分からないのかそこにる客の男の方は私服の上からマントのように羽織り、女の方はまるでコルセットのように胸の下から腰にかけて帯をグルグル巻きにしている。

 シンは着付けを指摘したい気分になるが、相手がどこの貴族か分からないし、指摘して問題に発展したら面倒なので黙って見過ごすことにした。

 多分、従業員の着ている着物と同じようなものだと勘違いしているのだろう。

 そして従業員の誰も指摘しないのは、恐らくシンと同じ理由なのだろう。

 さすがにマッサージチェアは無かったが、貴族御用達の割にあまりに庶民的だった。

 いや、それはシンとシーナが日本人だからそう感じるだけなのかもしれない。

 実際、フィルとアイリは好奇心を抑え切れず、目を輝かせてあちこちを見て回っているし、その他のメンバーもあまりの珍しさの前に呆然としている。

 まるで日本観光に来て初めて旅館を見た外国人のようだった。

 どうやらこの旅館の創設者はシン達と同じ世界の人間である事は間違いなさそうだ。

 受付の従業員に聞いてみると創設150年という事なので、流石に創設者は死んでいて会う事は叶わないようだ。

「ひ、一先ず、部屋へ行こうか」

 まず受付で武器を預ける。

 護衛であるアークスとソーディは当然渋ったが、この宿は貴族御用達という事もあり、安全面においては王都をも凌ぐらしいので、それで納得させられたようだ。アークスなど決闘の怪我で足の骨を折って松葉杖だというのに護衛の任を忘れないのはある意味立派な騎士と言えたが、その事で逆アイリにこっぴどく怒られていた。

 従業員に案内された部屋も当然、和室。

 しかも畳敷き。

 この世界で畳を見るのは初めて。何故か無性に感動を覚える。

 少し大きめな木目調のテーブルの上には急須と茶碗が盆に乗せられているくらいで、内装は至ってシンプル。

 部屋の隅に小さいながらも“レーゾー”があるので、高級旅館には違いないようだ。

 そしてその隣には折り畳まれた浴衣一式が置いてある。

 シンは早速、浴衣に着替え、男性陣に浴衣の着付けを教える。

 女性部屋の方にはシーナがいるのできっと大丈夫だろう。

 というか従業員が浴衣について教えないのはどういうことだろうか。

 日本人だったから分かっただけで、もしシンとシーナがいなかったらどんな着方をしたことか。

 それはそれでちょっと面白いかもと思ってしまう。

 もしかすると従業員はそういう面白い着方をするのを楽しみにしているのかもしれない。


 一方その頃女性部屋では……

「こんな布一枚だけですと、やっぱり下着は着けておいた方がいいですよねぇ。これじゃあ見えちゃいますよ」

 クレスがシーナに教わった通りに浴衣に着替えるが、着方がおかしいのか何故か腰スリットのあるチャイナドレスのように左足が露わになっている。

「にゃ~!この帯っていうのがキレーに結べない~!!」

 フィルは腰帯をぐちゃぐちゃに絡ませている。

 唯一、ちゃんと着ていそうなミランダがアイリにも着せている所だが

「2人ともそれじゃあ、前後ろが逆ですよ~」

 王侯貴族の衣服は大体が侍従に着替えさせる為、背中側が開いている事が多い。その為に勘違いしたのだろう。

「通りで首元が苦しいと思いました」

 まだ会って間も無いが、生来の委員長体質のせいで、シーナはついついあれやこれやと口を出してしまう。

 けれどこうしていると頼られている事を実感する。

 アルザイル帝国に居た時は英雄として世話をされる立場であったので、まるで自分が人形のように思えていただけに、今の状況は大変ながらも充実していた。

「もう。ほら、全員直してあげるから、そこに並んで下さい」

「はい」

「分かりました」

「ほいほ~い♪」

「姫様だけならず私まで。恐縮です」

 返事はそれぞれ違うものの4人は素直に返事をする。

(シンくんが選べないっていうのが何となく分かったかな)

 純心といっても良い彼女達にシーナも好感を抱いていた。

 シーナはようやくこの世界における本当の居場所を見つけたような気分だった。



 *



「おおっ、皆、キレイだなぁ~」

 浴衣に着替えた女性陣はとても綺麗で色っぽかった。

 これから温泉に向かうという事で、髪の短いフィル以外は髪を結い上げ、項が見えているので、更に艶めかしさが増している。

 最近では大分女性慣れして来ていたアークスとソーディだったが、流石にこれは許容量を超えていたらしい。

 2人とも鼻を押さえて背中を向けている。

「あ、あの…変じゃないでしょうか?」

「ええ。とても似合っていますよ」

 その向こうでは顔を赤くしたミランダとそれに微笑むユウの姿がある。

 向こうは向こうでどうやら進展しているようだ。

「シーナさんのおかげです。彼女がいなかったらどのように着て良いか分かりませんでしたから」

 クレスがシーナに笑顔を向ける。

「うんうん。ただの布切れだって最初は思ったのに、シーナ姉が着せてくれたらちゃんと服に見えるんだもん。凄いよねぇ~♪」

「べ、別に私が凄いんじゃないわよ。浴衣ってのは最初からそういう風に出来てるんだから!」

 フィルにまで絶賛されて、シーナは顔を背けながら言う。

 その顔が照れで真っ赤になっていたのは言うまでも無い。

 まだ出会った間も無いが、どうやら仲は深まっているようなのでシンは安心する。

「そんじゃ、温泉に行きますか」

 ぞろぞろと温泉へと向かう途中、きっちりと浴衣を着こなしたシン達一行に従業員は少し驚いたような視線を向ける。

 どうやシンの思った通り、従業員達は浴衣の着方をあえて教えないので、その着こなし方を楽しんでいたようだ。

 多分、こんな辺鄙な所ではそれくらいしか楽しみが無いのだろう。

 少々、優越感に浸りながら、一行は温泉へと向かった。


「うわ~、ひっろ~い!!」

「これが温泉ですか。初めて来ましたけど凄いですね」

 脱衣所を抜けるとすぐに外だった。天然の岩を滑らかに研磨して、敷き詰めた石床はほのかに温かみを帯び、その奥には湯気が立ち昇る温泉が広がっている。

 50人くらいが同時に入っても十分余裕がある広さだ。

 周囲は覗きと外敵から守る為に高い壁が囲っているが、魔動機兵の操縦席に使われている素材と同じなのか、壁の一部は向こう側が透けて見えていて、雪景色を眺める事が出来るようになっていた。

 ちなみに温泉は当然のように男湯と女湯に分かれているのでここに居るのは女性5人だけ。他の客もいないので独占状態だった。

「ううぅぅ~、ははは早くつつ浸かりましょう。こここのままでは凍死しししてしまいますすすす」

 いくら温泉の湯気で外気が高くなっているとはいえ、極度の寒がりのアイリにとっては冬に裸になっている時点で凍死しかねない程の寒さを感じていたので、王女の気品の欠片も無く温泉に飛び込んでいく。

「あ、姫様。はしたないですよ!」

 後ろからミランダが慌ててやってくる。

「あの子って本物のフォーガン王国の王女様……なのよね?」

 シーナは決闘の際に彼女の凛とした姿を見て、本人に間違いが無いという事は分かっているのだが、防寒着の着込み過ぎで丸くなっている姿や今のような姿を見ていると、全員で騙しているようにしか思えなくなっていく。

「私の教育が至らないばかりに、大変申し訳ありません」

「あ、いえ、そういうつもりじゃないんです。ただ王女様でも普通の女の子なんだなぁって思ったんです」

 アルザイルの貴族、皇族と言えば権力を嵩に威張って椅子にふんぞり返っていて、庶民の事を税金を納める家畜程度にしか考えていない節があったので、まるで身分の垣根が無いアイリを見ていると、どうしても王族と思えないのだ。

「ほらっ、ミランダもシーナさんも早く早く!とっても温かいですよ~♪」

 寒さから解放されたアイリは緩み切った表情を浮かべている。

「あ、はい分かりました王女様」

 アイリに誘われシーナとミランダはゆっくりと湯の中に入る。

「あ、そうだ、シーナさん。その王女様というのは止めて、あなたも私の事はアイリと呼んで下さい。王女とか亡命者とかそういうのは関係無く、ただ同じ人を好きになったな者同士なんですから」

 アイリが天使のように微笑む。

「は、はい。分かりました、アイリさん」

 王女であるアイリでは無く、1人の恋する少女であるアイリとして扱って欲しいという願い。

 同じ思いを経験しているシーナには彼女の気持ちが痛い程分かったので、素直にそう呼ぶ。

 シーナがそう言うとアイリは満足そうに頷く。

 そしておもむろに視線をシーナの胸元に向ける。

「シーナさんはおいくつですか?」

「え?え~っと今年で18だけど」

 なんとなく視線が気になって胸を両手で隠しながら答える。

「後4年ですか……」

 自分の胸とシーナの胸に交互に視線を送る。

 シーナの胸は大き過ぎず、小さすぎずで程良く膨らんでいる。大き過ぎると肩が凝るらしいがシーナは肩凝りに悩まされた事が無いので、大きい部類には入らないだろうが、アイリから見れば十分に大きなサイズだった。

「やっぱり男の人って胸が大きい方が好きなんでしょうか?」

「え、あ、いや、ど、どうなんだろう?人それぞれだって聞いたことあるけど……」

 大は小を兼ねるなんて言葉もあるが、小さい方が好きだという人がいるという話も知っているのでシーナには答えようがない。

「やっぱりシンさんも……」

 アイリは自分の胸に手を当てる。

「ほら、アイリさんはまだまだ成長期だし、きっと大丈夫よ!私だって4年前はそんなに大きかった訳じゃないし」

「にゃはははは~!おっぱいならクレス姉の方がおっきいよ~♪」

「えっやっ、ちょっとフィルちゃん、いきなり。あぁっ」

 自分のささやかな胸など気にしない風のフィルが突然話に割って入る。

 しかもクレスの背後から手を伸ばし、その胸を鷲掴みにしている。

「うわぁ~、すっごい柔らかい。クレス姉はこれでシンを誘惑したんだね~♪」

「えっ、違っ。やっ、あん。そ、そんなに揉まな、いやん」

 クレスの胸はシーナのそれより二回り近く大きい。

 フィルの手によってまるで粘土のように形を変えている。

「うぅ~、やっぱり大きい方が……はっ、そういえば大きくなるよう3回願いながら胸を揉むと大きくなるって魔動王国の伝説にありましたよね!」

 アイリは大きくなれと願いながら自分の胸を揉み始める。

 一体魔動王国はどんな伝説を残しているんだか……。

「姫様……その伝説に信憑性はありませんから」

 ミランダがふぅと大きく息を吐きながら呟く。

 そして全員の目がミランダに釘付けになる。

「ミ、ミランダ姉の方が大きい……」

 それを目にした途端、クレスの胸を揉んでいたフィルの手がピタリと止まる。

「な、何を食べたらこんなになるの……」

 シーナも呆然とする。

「はぁはぁはぁ、ミ、ミランダさんって着痩せするタイプだったんですね……」

 フィルの魔手からようやく逃れたクレスも息も絶え絶えにミランダのそれに注目する。

「あ、あの、なんで皆さん、こちらを見てるんですか?!」

 4人の視線はミランダの胸元で湯にぷかぷかと浮く巨大な2つの果実に注がれている。

「う…う…う……」

「ひ、姫様?」

 顔を俯かせて呻くアイリ。

「裏切り者ぉぉぉ~~~~~!!!!!!」

 アイリの絶叫が響き渡る。

 理不尽な憤りをぶつけられ、ミランダはオロオロとする事しか出来なかったのであった。


 女湯が喧騒に包まれている一方。

「はぁ、気持ちいいなぁ~」

 そんな事など露知らず、男4人はゆったりと温泉を堪能しているのであった。

番外的な温泉回。

定番の1つである胸談義でした。

覗きを止めようとした方が誤って女湯に落ちるとか、夜中に目が覚めて1人で温泉に浸かっていたらそこに女性陣がやって来たとか、色々とお約束のものは考えましたが、新しく仲間入りしたシーナをメインに据えた結果、こうなりました。


次回より新章開始となります。

キリが良いのと私事で忙しくなり、このままでは週1更新を続ける事が出来なくなる可能性がありますので、少しだけ書き溜めたいと思います。

本編再開は約1ヶ月後の9/6(日)0:00を予定しています。

それまでの間は、機兵技師の合間や過去に書き溜めていた別作品を定期的に更新していく予定ですので、そちらの方を読んで再開をお待ち頂ければと思います。


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