表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ザ・ファンタジーフィールズ』 第零章 LABYRINTH  作者: メル・ホワイト・プリンス・ヴェリール
GATE 01「フィヨルドの騎士とセルリアの魔女」前編
5/45

第1話 セルリアの丘

      挿絵(By みてみん)




 暗く霧深い森の小川。ゆっくりと流されるゴンドラの中。何処いずことも知れぬ長い夢の中から目覚め、ぼんやりと瞼を開く竜騎士ユラン。


 フラッシュバックのように流れた見知らぬ戦場。そして、城や祭壇。


「今のは……? あの赤毛の女騎士、どこかで……」



 横たわる彼の胸の上で妖精リーロが、せわしなく辺りを見回してはキツネリスのような尾で頬をでていた。



「おはよう、リーロ……」



 故郷である竜神族末裔(まつえい)の国スラフ・カザナスから旅立つ時。神霊セマグルから預かった柘榴ざくろの森の妖精。


 未だ、その柘榴の森の中なのか? 


 辺りは夜のようにひっそりと暗く、鬱蒼うっそうと湿度を帯びる白いもやに包まれていた。




◆・.。*†*。.・◆




 ユランは覚めやらぬ夢を思い返していた。


 見た事も無い燃えるとりでの風景。


 また、会ったこともない騎士たちの戦い。


 怪しげにいばらの魔力を行使する赤毛の女騎士。



「……」



 竜王カザナスと神霊セマグルに”炎の剣”を託されたユラン。


 彼は次元壁じげんへき隔離かくりされた旧ガリア世界のアイル・ダーナ。その北方にある魔法四都(しと)フィンジアスに剣を届ける為、仲間と共に旅に出た。


 それは”ガリアの戦い”が終結した時。いつか”白き軍勢”の元に転生てんせいした聖者が帰還きかんする為。その用意された”ゲート世界”を旅するというものだった。




 いつの間にか眠りに就いて、どのぐらいの時間が経ったのだろう。


 スラフ・カザナスの”柘榴ざくろの森”リュブリャナ。


 その奥底に隠されたキエフの黄金神殿。


 そこに掛かる”竜の橋”。


 その下を何処いずことも知れない異世界へと繋がる大河が流れていた。


 そこで仲間と共にゴンドラに乗り込み、彼らは暗闇へと入った。



「ナカマ……」



 何か大切なものを忘れているようにつぶやいたユラン。



「そうだっ!」



 そこでユランは我に返った。


 共にゴンドラに乗って旅に出た幼馴染でもある女騎士フィン・ウゴール。竜神王リグラフの子ウーゼル。彼らの存在を思い出した。


 ただ、彼らはユランのかたわらでいまだ夢の中にいた。



「フィン! おいっ、ウーゼル!」



 眠い眼をこすりながら体を起こすウーゼル。



「あれ? ユラン……。まだ暗いよ……」


「なぁに寝ぼけてんだウーゼルっ!」



 そんな二人を余所よそに、次第にもやを抜けて行く舟先ふなさき。そこに現れた景色に見()れるフィン。



「ユラン。ここは……?」


「分からない……。でも、俺よりもヴァニラ・フィールズの、ヴェリール族の転生者である君のほうが分かるんじゃないのか?」



 そこには夜空の下に広がる丘陵きゅうりょう一面を埋め尽くすよう、萌黄色もえぎいろほのかな光をたたえてセルリアの花が咲き乱れていた。




◆・.。*†*。.・◆




 黒い薔薇ばらの花びらのように打ち寄せる波が


 泡立つあおい鎖につながれる入江いりえの海岸。



 漆黒しっこくの空にもえるセルリアの花は


 灯台の見える海沿いの丘で


 萌黄もえぎの花びらと赤紫色の花冠かかん


 ほのかな光をたたえ咲き乱れる。



 熱を奪いり抜けてゆく夜風。


 ふれる花びらのなびき。


 氷のように溶けてゆく瞳は


 涼やかにともる光のうずに埋もれる。



 そして


 その頬をも濡らすぬくもりに


 ゆったりと全てが染められる時。


 (そのあらがいもせぬ間に)


 なげきのささやきは忍び込む。



 果てようの無いなめらかな


 例えようも無い全て。



 やがて


 それは胸の内をさらい


 そっと


 想い出の中へと閉じ込める……。




◆・.。*†*。.・◆




 花咲き乱れる美しい幻想郷にしばし見()れるユラン達。ここはすでに故郷であるスラフ・カザナスから遠く、はるか異世界に足を踏み入れているようだった。


 優しい河の流れは、知らぬ間にゴンドラを岸へと寄り添わせていた。


 船べりをまたぎ降り、岸から丘陵へと向かうユラン達。


 そして、ゆるやかに広がる萌黄色もえぎいろ絨毯じゅうたんを登り切ると、星降る夜空にまぎれた。




 開ける視界。


 そこには遠く、ぼんやりと横たわる港町の明かり。そして、暗く沈む入江の海岸が見えた。



「灯台……」



 フィンが静かにつぶやいた。


 闇の中。何処どこを照らす訳でもなく、入江の小高い先端に蒼くにじんだ灯が浮かんでいる。


 その岸壁の陰影手前にゆるやかな曲線を描いて、オレンジ色に明るく土色の港街が横たわっている。


 黄色や淡い緑色にも見えるまたたきのふくらみは、幻想的な異国のおもむきたたえていた。



「街まで、結構あるな……」



 セルリアの花が途絶える先。かすかに道らしきモノは見えたが、遠く街まで暗さの生い茂る森が広がっていた。


 そんなユランの言葉に、好奇心に満ちた顔でウーゼルが言う。



「とりあえず、行ってみよおっ!」



 実際、他に何か当てがある訳でもない。


 ユランたちは星降るセルリアの丘を下り、港街へと向かうのだった。






 つづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆
∎∎∎続きと改稿執筆中♪もうチョットまってね♪∎∎∎
◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆
∎∎∎twitter∎∎∎
◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ