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『ザ・ファンタジーフィールズ』 第零章 LABYRINTH  作者: メル・ホワイト・プリンス・ヴェリール
GALLIA エピソード ”零”「トランサルピナの奸計」
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第29話 失われるブリーンの大地

      挿絵(By みてみん)




 ”魔のとばりの騎士”タナトスは、アイル皇女ネヴァンの体を貫く神剣フォール・アウトを抜き去ると更につぶやいた。



「そして彷徨さまよい人となり、我らがかてとなれ……」



 タナトスの足元に崩れ落ちるネヴァン。


 誰もが信じられぬと言った表情に呆然自失となった。


 が、壇上のダグザ元帥げんすいが叫ぶ。



「衛兵っ! 何をしているっ! その者たちを捕らえよっ!!」



 その一喝いっかつに止まっていたかのような時が動き出す。


 皆が我へと返る中、激痛をこらえるヌアザが痛恨の念を吐き出す。



「エリスっ! キサマ、はかったなっ!」


「馬鹿めっ、あまいわっ!」



 その言葉を合図に、再度タナトスが左手でマントをひるがえした。


 すると、群れ飛ぶいなごのように”死の灰”が沸き上がり、彼とエリスを包み込んだ。


 二人を含む黒き灰の一軍は、つむじ風を巻くとうねる様に宙へ跳ね上がった。


 飛散する”死灰”から皆を守る為、魔法防御壁を放つ大神官ディアンと魔法使いミディール。


 ただ、その時既に、黒き塊は霧散するようにノーグ宮殿から逃げ去ってしまった。



 ヌアザが唸る。



「森だっ! 奴等はエマニアのアイル・ゲートからウェルへ逃げるつもりだっ! 向こう側の扉が閉じられる前に、閉じられる前に捉えるのだっ!」



 ヌアザは首に巻いたスカーフで切断された右腕の止血をすると、その怒りに強張こわばる瞳でダグザとアイコンタクトを交わした。


 そして、取るものも取り敢えず衛兵らをまとめ上げると、エリスとタナトスの後を追うのだった。


 だがしかし、ネヴァンがアリアン・ロッドと結んだ”空間転移門”は、魔女エリスが行使する”不可逆ふかぎゃく不遡及ふそきゅうの禁呪”で無効解除され、何人たりとも通すことは無かった。




◆・.。*†*。.・◆




 同時刻。

 

 神国アングル・ブリーン”神の都”ロンデニウム。その”柘榴ざくろの森”ドルインに囲まれるリンディン神殿では、”白き大地神”アルビオンが座する王の間に青紫のかすみが棚引いていた。




 普段、晴れた日であれば明るい陽射しがあふれる王の間”Rooseveltローズベルト”。


 しかし、この日は昼日中だというのに薄暗く、神殿に働く者の気配すら消えていた。ただ、その静寂の中。招かれざる者の怪しげな気配だけが、忍び込むように漂っていた。



「何者か? 我が眠りを妨げる者は……?」



 この世界にいて神霊体として存在するアルビオン。彼は玉座に人化すると、王の間ローズベルトの巨大な入口の扉へと目をった。



「これは失礼をした、ケルト王よ……」



 ゆっくりと開かれる扉。


 なんと、その視線の先に現れたのは、戦いの黒装束を全身にまとったアイトリア”闇の王”エレボスであった。



「貴様、なぜ此処ここに?」



 アルビオンが驚くのも無理はない。エレボスは”神々の盟約”約定通り、すでにガリアを去っているはずだった。


 アイル・ダーナ監視前衛艦隊の将軍ヴァハ同様、アルビオンもガリア世界から消えるエレボスの気配を一度は感じ取っていた。


 しかし、目の前に居るのは正真正銘、始祖しそ神たる神霊力の気配をまとってたたずむエレボス。


 正確に言うならば、それは存在する驚きというよりも、どうやって気取られずに神殿へと足を踏み入れたのか? その疑問による驚きであった。




 それは、アイル監視艦隊前衛旗艦ブルーナ・ボーニャに、その指揮官である将軍ヴァハの元に、”夜の女神”ニュクスが訪れた日の夜の事である。


 ”闇の王”エレボスは”闇夜の皇子”アイテールを伴い、数騎のワイバーン竜騎兵を警護にドドナを飛び立った。勿論、行き先は神国アングル・ブリーンである。


 しかし、そこには一つ問題があった。それは始祖しそ神たるエレボスの強大な神霊力から発する気配である。




 その気配を消す為、先導したのが”魔のとばりの騎士”ヒュプノスであった。


 彼がまとう青紫の煙は、”不可逆ふかぎゃく不遡及ふそきゅうの禁呪”によって生み出される。その魔力は”黄泉よみの眠り”の異名通り、生ける者全ての活動を停止させる。


 そして、ガリア世界の”女神ガイアの理”に沿って発せられるエレボスの気配をも相殺した。


 加えて言うなら、”夜の女神”ニュクスが望んだアイル前衛艦隊の南西への移動。それも彼らがアングル・ブリーンへと侵入するのを助けた。


 前衛艦隊の将軍ヴァハは、コリントスのドドナ、その”柘榴ざくろの森”が。後ろに控える女王モリガンは、スクォーラのファイフ、ブリーンのドルイン、その”柘榴の森”が。


 経度を連ねる其々の”柘榴ざくろの森”が、残る微かな気配をも消し去ってしまったのだ。




 そうとは知らぬアルビオンをあざ笑うかにエレボスが答える。



「何故? アルビオン。お前に別れを告げる為、わざわざ出向いたのだ……」


殊勝しゅしょうだな、エレボスよ」


「たわけっ。お前は今日、ここで死に果てるのだ……」


「愚かな……」



 そう言って、アルビオンは左手の薬指に嵌める”封神の指輪”グレイプニル・リングをエレボスに誇示した。


 すると、その姿を見たエレボスが苦笑に返す。



「やはり貴様の手にあったか……。愚かなのはアルビオン、お前の方だ!」


「何……?」


「アイテールっ!!」



 エレボスの呼ぶ声に、ここで初めて”闇夜の皇子こうし”アイテールと”魔のとばりの騎士”ヒュプノスが姿を現した。


 エレボスの背後から前へと歩み出るアイテール。また彼もあざ笑うかに薄笑いをたたえていた。


 その姿を見てアルビオンが、彼らの企みをし量る。



「何のつもりか?」



 そうアルビオンが言い終わらぬ内に、アイテールは左手を差し出すと呪文を唱えた。



「指輪よ、ガリアの新たな王たりうる者の下へ……」



 すると、今の今までアルビオンの指に嵌められていたグレイプニル・リングが、瞬時にアイテールの手へと乗り移った。



「お前たち、何故それをっ?」



 驚きに目を見開くアルビオン。しかし、そんな彼を置き去りアイテールが詠唱えいしょうを続ける。



「女神ガイアの名の下に命ずる。おきてを破る者、永久とわの時を持ってあがなうべしっ!」


「愚かなっ!」



 再度、驚愕きょうがくするもあわれみの声を上げるアルビオン。




 そんな彼らの輪郭りんかくをも消し去るかに指輪が輝く。そのまばゆぼう大な光は辺りを白く塗りつぶしたかと思うと、全てを飲み込むように黒く反転し渦巻き始めた。


 地響きが神殿を揺らし、空間は捻じ曲げられ、時すらも砕くかに吹き荒れる指輪の力。


 想像以上の戦慄わななきは、当のアイテールやエレボス、ヒュプノスをも震(かん)させた。


 そして、ただ一人。全てを悟ったようにアルビオンが、三度憐あわれみを口にする。



「愚かなりエレボス……」



 すると、その言葉通りアルビオンは愚か、神霊体であるエレボスの肉体とも言うべき霊質までもが、”封神の指輪”グレイプニル・リングへと吸い込まれ始めた。



「ナ、何っ!?」



 吹き荒れる嵐の中。苦痛に顔をゆがめるエレボス。



「ぬおおおおおっ!」



 それを見て、アイテールが口を開く。



「ど、どういうことだっ!?」



 アルビオンが言う。



「”封神の指輪”。それは我が神器。我が力なり。エレボスよ、我と共に無に帰するのだっ!」


「何だとっ!」



 ”封神の指輪”グレイプニル・リング。それは女神ガイアから授かった”黄金の柘榴ざくろ”から造られしアルビオンの神器。


 不死である神々を封じるには、心臓に当たる神霊核を滅するか、同等の神霊量で相殺するしかない。


 そして、本来神器の力の源は、始祖しそ神の”力の分身”とされた。


 が、しかし。この指輪は、始祖神さえも封じる為に用意された故に、その力の源は始祖神自身とされた。 




 大地母神である女神ガイアがガリア世界を去る時。人の世を託されたケルト神アルビオンとカルヤラの女神エタニティは、やがて自らも”命の雫”となって消えるごうを背負った。


 今、その約束をアルビオンは果たそうとしている。それは、己が神霊力とエレボスの神霊力を相殺し、まさに消えようというのだ。


 ”封神の指輪”の効力発動要件である資格と呪文の秘密。それを手に入れた闇夜ではあった。ただ彼らは、その力の行使者がアルビオン自身である事を知らなかった。


 いや、これは”時と記憶の女神”アネモネの抵抗によって知らされなかったと言う方が正しい。その秘密を唯一想定していた一人を除いて……。




 次の瞬間。アルビオンとエレボスの姿は、微塵みじんに砕け散った岩砂のように消えた。


 それは”封神の指輪”の中に、その神霊力を相殺し切るまで二人の始祖神が閉じ込められた事を意味する。


 何事も無かったかのように、王の間ローズベルトで吹き荒れた嵐が凪いでゆく。



「ぐ、ああっ!」



 が、そこでアイテールは血を吐くと、左腕を押さえ苦(もん)の表情に悶絶した。


 浮き上がる体中の血管。血走る瞳。みるみる顔色もドス黒く変わってゆく。それは明らかに左手の薬指に嵌められた”封神の指輪”による影響であった。


 半神半人であるアイテールの体が、二つの始祖しそ神の神霊力が凝縮された指輪に耐えきれないのだ。




 そんなアイテールを見下ろすように屈むヒュプノス。



「オイオイ、大丈夫かよ?」



 意識も朦朧もうろうなアイテール。ヒュプノスの声は届いていないようだった。



「ったく。完全にパワー・アレルギーだな、こりゃ……」



 ヒュプノスは共に来ていた竜騎兵を呼んだ。


 一人には、ブリーンまで乗ってきたワイバーンを王の間の庭先に連れてくるように。他の者たちには、紫の煙に眠るリンディン神殿に火を放つよう指示を出した。



「オイッ、アイテール、大丈夫かぁ? 用が済んだら、サッサッと逃げるぜっ!」



 返事は無い。



「ったく、しょうがねえなっ……」



 細身の割には骨太長身な体格のヒュプノス。彼はアイテールを肩に担ぎ上げるとワイバーンの待つ庭へと出た。


 そんな彼を迎える竜騎兵のオークが、意識を失ったアイテールを受け取ろうとした時。



「オイッ、むやみに触んじゃネエっ! オマエら、焼け死ぬぜっ!」



 ヒュプノスは、そう言って彼らを遠ざける仕草を見せた。その証拠に、アイテールをかつぐ彼の肩は、ブスブスと音を立てて焦げ臭い煙を立てていた。


 それは指輪から発せられる神霊力の摩擦からくる熱によるものであった。逆に、半神半人のアイテールだからこそ、まだ死なずにいれるようなものなのだ。



「ったく。エリス様も、冗談がキツイ。コイツに別動隊として遊撃なんて出来んだろうに……」



 そう不敵に笑みを浮かべるヒュプノス。


 彼は紫の煙でアイテールを包み込むと禁呪に熱をさえぎり、自分が騎乗するワイバーンの前部に連座する形で座らせた。


 そして、この時既に闇夜の兵力がわずかとなったコリントスを置き去り、アイトリアの南にかつてあったリュコレイアのとりで跡を目指すのだった。




 そして、残るは”参の正面”のみとなる……。






 つづく

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