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『ザ・ファンタジーフィールズ』 第零章 LABYRINTH  作者: メル・ホワイト・プリンス・ヴェリール
GATE 01「フィヨルドの騎士とセルリアの魔女」中編
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第21話 ドラゴン・スペル

      挿絵(By みてみん)




 それから、どれくらいの時間眠っただろうか? 深い眠りに得た熟睡感にユランは目を覚ました。隣では未だ夢うつつのウーゼル。


 夜は長く、しとやかな蒼さに部屋は包まれたままであった。


 既に目を覚ましていたフィンは、とこを離れ、窓際で夜の海を眺めているようだった。




 ウーゼルを起こさないように起き上がると、ユランはフィンのかたわらへ歩み寄った。



「グッスリ眠れた?」


「ええ。でも……」


「でも?」


「やっぱり、何かおかしいわ……」


「おかしい?」



 この”ゲート世界”である港町に来てからというもの、既に幾つもの不思議な光景や出来事、疑問に出くわした。


 元来、そう言った事には執着の薄いユラン。彼にしてみれば、旅立った時の経緯いきさつ通りであった。


 それは竜神霊セマグルの言う”奇跡の石”リア・ファルの、神のみぞ知る異世界の為せる技なのだろうと勝手に理解していた。




◆・.。*†*。.・◆




 フィンは思案にふけるよう間近の椅子に腰を降ろした。それにならうようユランもそのテーブルについた。


 そして向かい合う形でユランが改めて問うた。



「例えば?」


「ほら、あの丘から数刻は歩いたのに、全然疲れなかったでしょ……」


「まあ、そうかな……」


「それに……」



 フィンは背にする窓の外を指さして呟いた。



「あの月……」


「月? ああ、位置が変わってないってやつか?」


「うん。私も初めは、気のせいかと思ったけど……」


「そう言われてみれば、結構な時間眠ってもいたような……」


「でも、それはいいの。メルが解決してくれたから……」


「メル……。あっ、そうだっ!」


「どうやってメルが現れたかでしょ?」


「そう、それ……」



 ユランも承知していた事だが、フィンの体を借りて古の王子メルが顕現けんげん化する時。その裏へと彼女の意識は後退するが、メルが見聞きするものは、同時にフィンも体験する。

 また、メルがフィンの意識下において、その記憶をフィードッバックする事も出来た。



「メルが言うには、ここがヴァニラ・フィールズのかつての港町ノーア・トゥーンだって事は間違いないって」


「嘗ての?」


「うん。メルもハッキリとした事は分からないけれど、この詰所は”ガリアの戦い”で焼けたらしいの」


「焼けた……」


「そう。でも、この詰所の姿は戦い以前にあったままだって。たぶん”リア・ファル”の石に封じられてる騎士の記憶が、”ゲート世界”に反映されているんじゃないかって」


「騎士の記憶……」


「だから、この世界は女神達の創る世界とは違って……。んん~、うまく言えないけど、私達の居た世界とは時間の流れや物の在り方が違うみたい」


「もしかしたら疲れないのも、そのせい?」


「ええ、月の位置が変わらないのも」


「まるで止まってる時間の中にいるみたいだな……」


「たぶん、”時と記憶の女神”アネモネの力も及ばない世界だろうって。あっ、これメルの受け売りね」



 そう言ってフィンは微笑んだ。


 ”時と記憶の女神”アネモネ。それは”ガリア世界”の時を司る女神。


 その”ガリア世界”も、そこを旅立ち新たに創造された世界も、本来であればアネモネの干渉によって時の流れは一様のはずであった。


 フィンの話に、ユランは信じられぬと言うよりは、未だ上手く理解出来ずに居た。



「なんか、夢か幻って感じだな……」


「そうね。それで、メルはこうも言ってたわ。ここは神霊質に近い世界なんじゃないかって」


「神霊質?」


「そう。セマグル様やメルのように実体を持たない、そういった性質の世界なんじゃないかって」


「なんか、ピンとこないな……」



 そう言って、ユランは目の前に間違いなく存在する木のテーブル、その感触を確かめるように指でなぞって見せた。



「でもね、そのおかげでメルは自由なタイミングで私と入れ替わる事が出来るらしいの。もっとも、短い時間だけらしいけど」


「なるほど。それは頼もしいな……」



 その言葉を聞いて、フィンは両手で頬杖をつくとユランをジロリと睨んだ。



「何よ、私じゃ心細いってこと?」


「いや、そういう意味じゃなくて……」



 もともと、ユランは嫌味を言える様な性格ではなかったが、昔からフィンは何かにつけて彼に突っ掛かる事が多かった。




 その事を思い出して、ユランが慌てて取りつくろうように苦笑いを浮かべた時だった。


 獣の遠吠えにも似た低くいななく声が、再び夜空に木霊こだまするのだった。


 見上げる月の夜空に悲しげに響き渡る一筋の嘶き。狼とも違う低く幾つもに割れるその鳴き声は、確かに聞き覚えのあるものだった。



「この声……」



 フィンは椅子から立ち上がると耳を澄ました。そして、細く遠く消えて行く嘶きを記憶の中に追った。



「これって、ここに来る途中……」



 ユランはうなづいた。



「ああ、路地裏で道化師が消えた時に聞こえたやつだ。しかも、フィン。これって竜の鳴き声じゃないか?」


「私もそう思う」



 もともと、竜親族の血を引く彼らには聞き覚えのある声でもあった。


 スラフ・カザナスに於いて、竜神が人々の前に生竜の姿で現れる事は滅多になかった。


 が、あのカザナス内戦の時。ウーゼルやその父である竜神王リグラフが成竜としてメタモル・フォーゼした時。耳にした竜語、ドラゴン・スペルと同じ種類のものであった。




 ユランが言う。



「さっきは道化師に気を取られて気付かなかったけど。間違いない。これは竜神たちの声と同じだ」



 そう言いながらテーブルを回り、ユランは窓を開けると街を見回した。


 すると三度。そのいななきは遠く近く、夜の港町に響いた。


 そして、通りの東向こう。海へと嘶きが尾を引いた時。


 突然、寝ているはずのウーゼルがムクッと上体を起こし、まるで夢遊病者のようにユランたちの元へと歩み寄って来た。



「ストリが、呼んでる……」



 その瞳を灰眼から属性の一つである水竜の紺碧に煌めかせ、夢遊病者のように呟くウーゼル。



「ストリが、呼んでる……」


「ウーゼル……」


「オイっ、ウーゼル!」



 フィンとユランが問い掛けるが、その言葉は彼の耳には届いてないようであった。むしろ、未だ眠りの中に居るようでもあった。


 夜の海へと引き寄せられるように窓の外を望み、繰り返し呟くウーゼル。



「ストリが、呼んでる……」



 ユランは半ば強引にウーゼルの肩を掴んで振り向かせると、彼の頬に平手を張った。



----- !! -----



 あまりの勢いにフィンが驚く中。我に返るウーゼル。



「痛っ、イイイっってぇ~!」



 次の瞬間、涙目のウーゼル。



「何すんだよぉ~、ユラン……」


「良かった。目を覚ましたみたいだな」


「えっ、何? 僕、ナンかした?」



 張られて痛む頬を手で抑えながら、状況を飲み込めないウーゼルはキョトンと目を見開いた。


 そんな彼にフィンが問い尋ねた。



「ウーゼル、ストリって誰?」


「ストリ???」



 しばし考え込むウーゼル。



「そうだっ! ストリが呼んでる!」


「だから、ストリって?」



 ユランが聞き返す間もなく、ウーゼルは詰所の扉を開いた。


 そして、二人を手招きするように言った。



「コッチ、コッチ! 早く!」



 何はともあれ、ユランもフィンもウーゼルの後に付いてゆくしかないと、再び夜の街へと足を向けた。






 つづく

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