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『ザ・ファンタジーフィールズ』 第零章 LABYRINTH  作者: メル・ホワイト・プリンス・ヴェリール
GATE 01「フィヨルドの騎士とセルリアの魔女」中編
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第20話 優しい想い出

      挿絵(By みてみん)




 かつてのヴァニラ・フィールズ港湾都市ノーア・トゥーンを模しながらも、悠久ゆうきゅうの時に不思議の異世界へと変貌ぼうしていた”ゲート世界”。


 それでも、彼らが安息を求める仮宿の詰所は、古の記憶の通りさん橋が正面に見える区画にあった。




 鍵も掛かる事無く、詰所はガランとして誰も居なかった。


 あっと言う間にウーゼルは部屋の中へ駆け込むと、海が見える窓辺を開き覗いた。


 ユランはランプを見つけると灯をともし、ドッカと椅子に腰を下ろした。


 別に疲れている分けでは無かったが、ここまでの事を彼なりに頭の中で整理しようとしていた。


 そんな中、詰所の扉を閉じて振り帰るメルの顔には、如実に疲れの色が見えていた。



「メル。顔色が良くないけど……」


「大丈夫。でも、どうやら……」



 そう言って、よろめくようにテーブルへ手を掛けたかと思うと、メルは気を失って崩れ落ちた。



「危ないっ!」



 慌てて抱き支えるユラン。



「メルっ!おいっ!……」


「んっ、んん……」



 うなされる様に応えるだけのメル。


 しかし、その表情は一転して穏やかなものへと変わっていった。


 おそらく、それは古の王子メルから、再び幼馴染の少女フィンへと意識が入れ替わったのだと何故なぜかユランには理解できた。


 それきり、メルもフィンも深い眠りに就いたようだった。




 ユランはフィンを部屋の奥にある小上がりに寝かせると、自らの外套がいとうも脱いで掛け与えた。


 そして、ウーゼルと共に寄り添うと、自分もしばし眠りに就くのであった。




◆・.。*†*。.・◆




 そうして


 何時しか遠く、犯されて放たれたままの窓辺。


 青くぬくもりを灯して零れ、横たわる女神の姿態。


 ただ


 時折に目を覚まして瞼を開く夜風が


 部屋の帳だけを揺らす。


 このしなやかな夜。


 それきり


 置かれただけの時間。


 しかし


 雪のように降り積もる


 幾つもの真夜中のバランスは


 音もなく消えながら無防備に傾き始める。


 微かに


 甘くオレンジに似た香りを漂わせながら……




 ◆・.。*†*。.・◆




 部屋の壁にも、窓辺にも蒼くにじむ月明かり。幾重いくえにも横たわる影だけが、気づかない程のスピードで時を刻む。


 ユランは、なかなか寝付けずにいた。


 天窓から落ちる月明かりだけでも部屋の様子がハッキリ見え、やたらと冴え渡る意識が、さっきまでの出来事を思い返させた。




 何とはなく、部屋の窓から見える夜空の月へ目を向けるユラン。


 すると、わずかに寝返りを打つフィンが、ユランの体に触れて目を覚ましたようだった。



「こ、ここは……?」



 気だるそうにフィンが見上げるそこには、優しく微笑むユランが居た。



「シっ……」



 そう人差し指の仕草とで、安らかな寝息を立てるウーゼルを起こさぬよう気遣うユラン。


 そして、外套がいとうをフィンにも掛け直すと小声で囁いた。



「もう少し、眠って置いた方がいい……」



 フィンは少し嬉しくなった。



「ありがとう……」



 カザナスに居た頃。


 女だてらに剣を振るう彼女は男勝りのお転婆で、そこいらの騎士よりも腕前が上であった。そのせいもあって、何かにつけ一人前の男のように扱われる事が多かった。


 幼馴染であるユランにしても、当然のように周りの者達同様に一人の騎士として彼女を見ていた。


 別段、それを気に止めるフィンでも無かった。ただ、騎士となる以前は、剣を持たぬ幼き日までは、彼女もありふれた幼少期の少女として過ごした。


 そんな懐かしく過ぎ去った、幼馴染として遊んだ日々の想い出の中に優しく話しかけるユランの姿があった。




 ふと、思い出した風景と記憶に、今のユランが重なって見えたのだ。


 フィンは小声でユランに話しを続けた。



「ひさしぶりだね……」


「ん? 何が?」


「こうやって、寝ながら話すの」


「そう、だっけ……」


「昔、良く二人で遊んだでしょ?」


「ああ……」


「ユランの家にも遊びに行ったなぁ」


「ウチのオヤジと君のオヤジさん。親友だったからな……」



 ふと、既に二人とも両親を亡くしている事にユランは想いをめぐらせた。



「そう言えば、フィンの家にも行ったっけ?」


「覚えてる? 初めてアルチャに来て」


「ああ、フィンの家がでっかくてさぁ……」


「家じゃなくて、物資集散場だったけどね」


「だってウチの田舎には、あんなもの……」


「あの後、ダルガ砦の河の畔で遊んだでしょ?」


「そうだっけ……」


「あの時も、寝転んで話したよね?」


「良く覚えてるな……」


「あの時、‘僕は騎士になる!’って」


「そんなこと、言ったっけ……」


「うん。そして、私も守ってくれるって」


「あっ、思い出した……」


「思い出した?」


「ああ。そしたらフィンも、‘私も騎士になって俺を守る!’ だろ?」



 そうユランが小声で答えると、二人はこらえるように笑った。


 そんな会話に誘われてか、二人の間で寝言のウーゼル。そのあどけない寝顔に癒されつつ、再び眠りに就く二人でもあった。






 つづく

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