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『ザ・ファンタジーフィールズ』 第零章 LABYRINTH  作者: メル・ホワイト・プリンス・ヴェリール
GATE 01「フィヨルドの騎士とセルリアの魔女」中編
21/45

第17話 眩暈

      挿絵(By みてみん)




 まとわりつくような人混みへと分け入ったウーゼル。


 黒い雑踏にまれながらも、彼はい出るように見物人の足の隙間をった。


 ようやく開けた視界に瞬き映える白黒のモノクローム。


 珠玉の仮装舞踏の行列が目の前を過る。



「ぅゎぁああ……」



 改めて心を奪われ、見()れるままウーゼルは、その目がくらむほどに燦爛さんらんたる行列へと歩み寄っていった。




◆・.。*†*。.・◆




 その時だった。


 めくるめく演舞を目で追う彼の背後に、小さく円を描きながら踊り舞う一群の

中から踊り子が、一人出くわすようにぶつかった。



「わっ!」



 突然の衝撃に、前のめりに両手を地べたに突いたウーゼル。


 そんな彼の目の前に、白と黒を交錯させながら踊り子の仮面が弾け飛んできた。


 不意の転倒に驚いたウーゼルであったが、目の前に落ちる仮面を手に拾うとしげしげと眺めた。


 そして、大きくあしらわれた鳥の羽に付いた土(ぼこり)を払うと、立ち上がって仮面の主を探した。


 バランスを失ってよろめいた踊り子は、一群の後方へと置き去りにされていた。両手を膝に突き、背を向けてうな垂れる踊り子。


 ぶつかったショックで眩暈めまいでも起こしたのかと、慌てたウーゼルは行列を避けるように駆け寄った。



「ご、ごめんなさいっ。コレ……」



 そう謝りながら仮面を差し出すウーゼル。


 すると、踊り子はスローモーションのようにゆっくりと無言に振り返った。


 しかし、その踊り子に顔は無く、いや顔は愚か頭すら無く、首から下の服の中も暗く空洞だった。


 予想だにしない踊り子の正体に驚愕きょうがくの奇声を上げるウーゼル。



「うっ、あああああああああっ!」



 その声が行列の前方で押し出され、惑っていたユランとフィンに届く。



「あの声っ!」


「ウーゼルだわ!」



 叫び声に振りかえると、そこには腰を抜かしてぼう然とするウーゼルの姿があった。



「何やってんだっ! あのバカ!」



 ウーゼルが居る行列の後方目掛け、ユランとフィンは駆け出した。




 首の無い踊り子の在らぬ視線を、にらむような恐怖を背筋に感じたウーゼル。


 後先を考える余裕もなく彼は、さっきい出したばかりの雑踏へと再び逃げるように飛び込んだ。



「ウーゼルっ!」


「チクショッ、なんてこった……」



 再度、見物人の群れに行く手を阻まれるフィンとユラン。


 しかし、躊躇ためらう間もなくユランは、意を決して瞳をフィンに向けた。



「行くぞっ!」


「えっ!?」



 ユランは離れ離れにならぬよう、今度はフィンの手を力強く握りしめ人混みの中へ突入した。


 そして、ウーゼルが抜け出るであろう方向めがけ、無我夢中で人波みを掻き分けた。


 やがて、群衆の壁を突きぬけると、一目散にウーゼルが裏路地へと駆け込むのが見えた。



「いたっ! あそこだ!」



 後を追いながら繰り返し名を叫ぶユランとフィン。



「ウーゼルっ!」



 路地に入り、少し下りの石畳を曲がった所で、転げ倒れるようにウーゼルが息を切らせた。



「ウーゼルっ!」



 フィンが駆け寄る。


 そこでウーゼルも二人の姿を見て我へと返ると、半分泣きそうな顔で体を起こした。



「ふぃ~んっ!」



 抱きすがるウーゼル。



「もぉう、勝手に離れるからよ!」



 それでも優しく抱きしめるフィン。



「でも良かった……」



 やれやれと言った面持ちでユランは呆れた。



「あれっ? そう言えば、リーロは?」



 すると、ウーゼルが斜め掛けしていた革の鞄の隙間から、リーロが鼻先を突き出すように顔を見せた。



「リーロっ!」



 今度はウーゼルがリーロを抱きしめる。



「ったく、人騒がせなヤツだな……」


「ホント、でも良かった無事で……」


「そうだ、一体何があった? ウーゼル」



 そうユランがウーゼルに問い尋ねようとした時。


 安堵あんどの表情を浮かべていたフィンが、突然眩暈(めまい)のようにひざを落とし、掌を額にかざすとその場にうずくまった。






 つづく

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