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『ザ・ファンタジーフィールズ』 第零章 LABYRINTH  作者: メル・ホワイト・プリンス・ヴェリール
ROAD 01「時と記憶の女神」
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第14話 妖精レアン・ファウ

      挿絵(By みてみん)




 マーリンの性格上、これまで過去の様々な場面でセマグルに突っかかる事が多かった。


 しかし、ここまでの話。いや、今日一日のセマグルの話を聞いて、その知見と見識、機知に富んだ用意周到さを思い返すと、抗うのも馬鹿らしく思えていた。



「で、あるんだろ? ここから先。アネモネの居る場所まで、その僅かな”時の歪み”とやらをトレース出来る、そんな都合のイイ魔法が……?」


「それはな、こうするんじゃ……」




◆・.。*†*。.・◆




 セマグルは相対して座するマーリンに掌を差し出すと、神霊力を行使した。


 すると、矢庭にマーリンの目の前、その宙空に小さな丸い光の玉が現れた。


 多少、自身が気を抜いていたが為にマーリンが言う。



「オイオイ、爺さん! 勝手に人の亜空間ポケットを開くんじゃねえっ!」



 亜空間ポケット。それは魔法呪式によって次元隔離閉鎖された、マーリンの引き出しのようなモノであった。(ドラえもんポケットではない)



「しかも、こりゃぁ、俺がヴァニラ・フィールズに帰る為のゲート・キーじゃねえかっ!」



 そのまま光は、まるで鶏の卵のように形を成すと宙に留まった。



「ふふっ、慌てるでナイ。そもそもお主。これが何なのか知っておるのか?」


「何って、ゲート・キー……、だろ?」


「そうか、知らされてはおらんのだな……」



 セマグルは微笑むと、再び指先を浮かぶ卵にかざし、優しく神霊力で刺激した。


 慌てるマーリン。



「オイオイっ! 一回こっきりしか使えないんだぞっ!」


「案ずるな。大丈夫じゃ」



 再び眩さに輝く光が卵を包み込んだ。


 やがて、その卵の殻と思われていた部分は、まるで絹の包みが解かれるように柔らかな光の翼となって広がった。


 そこには滲むように煌めきを灯す、小さくも美しい妖精の姿態が形どられていった。




 カゲロウが羽化するが如くはかなげに、その姿を現す妖精に驚きの表情を隠せないマーリン。



「えっ、レアン・ファウ!? お前っ、どうしてここに?」



 それはアイル・ダーナ”時と音楽の妖精”レアン・ファウ・シー。


 かつて、神国ブリーンを放逐されたマーリンが、辿り着く”幻影の島”アンティリアに住居を構えた時。そのヘスペリスの園で共に暮らしていた妖精であった。



「あっ! マーリンっ!」



 そう言ったかと思うと、妖精レアンはマーリンの頬に抱き着いた。



「会いたかったよォ~♪ あああ~ん、やっとアイルに帰れるのね?」


「どうなってんだ、こりゃ?」



 聖者ルゴス・ルクリウスと聖女ネヴァンの転生者。そして”炎の剣”。それらを

必ず見つけ出し、次元隔離された”白き軍勢”世界へ帰還すると旅立ったマーリン。


 その際、”柘榴の森”の直通空間転移門を強制的に開くゲート・キー。そう言われて預かったモノが、まさか自分の知る妖精だったと彼は知らされていなかった。


 マーリンは遥か時を超えた再開に喜びながらも、セマグルに疑問をぶつけた。



「オイオイ、爺さん。どういう事なんだ?」


「ほっほっほっ、どうもこうもナイわい。そういう事じゃ……」



 満面の笑顔で答えるセマグル。



「その娘が、ゲート・キーじゃ」


「レアンが?」



 抱き着く妖精レアンに、不思議そうに目をやるマーリン。


 そんなマーリンを他所に、レアンが言う。



「あれ? マーリン。ルゴスとネヴァンは? 炎の剣……、は?」



 そう言って辺りを見回す妖精レアン。


 多少、困惑気味に苦笑いを浮かべるマーリン。



「悪いけどレアン。ちょっと待ってくれ。今、大事な話……」



 その一言に機嫌を損ねてムクれるレアン。



「ナニよっ! マーリンったら!! 久し振りに会えたのにィっ!!! 一体、何年待たせたと思ってるのよっ!」


「えっ、待たせたって言われても、俺、知らないし……」


「ひっどいっ! 私がどんな想いで、百年も何十年も卵の状態で居たと思ってるのよっ! そりゃあさ、ずっとマーリンの傍に居れたから私だって嬉しいけど。でもさ、ずっと眠ったまんまで誰とも話してないんだから、久しぶりなんだから話ぐらい聞いてよっ!」


「分かった、分かった。レアンの話は、後でチャ~ント聞いてあげるから……」


「ホント?」


「ホントホント……」


「またぁ、そう言って私を丸め込もうとしてるんじゃナイ?」


「丸め込むって、オマエは俺を何だと思ってんだよ?」


「えっ、ナニ? って、そんなの……、ハズかしくて……、レアン、言えナイ……」



 そうマーリンの思いとは裏腹に、独りよがりに照れて顔を背ける妖精レアン。


 その時。改めて妖精レアンの視界に微笑むセマグルが入った。



「あれ? マーリン。このお爺さん、誰?」


「あのな、オマエ……」



 そんなマーリンとレアンの遣り取りを微笑ほほえましく見ていたセマグル。



「ほっほっほっ、元気な娘さんじゃの。どうやらお主に気があるようじゃの?」


「爺さん、アンタも余計な事言ってないで、ちゃんと説明しろよっ!」


「おお、そうじゃった、そうじゃった……」




 それから、セマグルは”柘榴の森”、その空間転移門のゲート・キーに付いて話し始めた。




 ゲート・キーとは、求める世界への通行許可証だという事。


 それは、求められる世界の神が許諾情報を神霊化し、妖精の体内に宿す事。


 ゲート・キーの触媒となるのは、その国の者(妖精)でなければならない事。


 その宿主が居なければ、求められる世界の”柘榴の森”が空間転移門のゲートを開かない事。


 すなわち”柘榴の森”に掛けられた内鍵を開く為のキーであるという事。


 そして、マーリンが卵の状態のゲート・キーを女神エタニティから受け取った時。そこに見た青紫の光は、妖精レアンの胸にも見て取れる事。




 そこで、またもマーリンには疑問が浮かんだ。



「あれ? ユランたちに預けた迷宮地図の宿主。あのリーロに見えたのは白い光。あれがヴァニラ・フィールズだろ……。じゃ、この青紫の光の行き先は?」


「鋭いのォ……」



 感心するようにセマグルが言う。そして、セマグルの代わりに妖精レアンが、自信満々に答えた。



「モチ、アイル・ダーナよっ!」


「アイル・ダーナ?」


「何よっ、不満なの?」


「いや、じゃ……、戦女神モリガンたちが持ってるゲート・キーは?」


「モリガン様? あっ……」



 思わず漏れた言葉を、両手で塞ぐかにレアンが口をつぐむ。



「レアン。もしかして、オマエ……」


「ごめんなさああいっ! イグニスに代わって貰っちゃったぁ……」



 イグニス。それは神国アングル・ブリーン”愛の妖精”。かつて”白き大地神”アルビオンに仕えていた従者イグニス・ファティウスだった。




 本来アイル・ダーナには、アイルの女神であるモリガンら自身が帰還する手筈になっていた。そのアイルにある”柘榴の森”の空間転移門に掛けた内鍵を開けるキーが妖精レアンなのである。


 そして、元々アングル・ブリーンの民であったマーリン。彼はブリーンの妖精族長アルベリヒ・オベロンが内鍵を掛け、イグニス・ファティウスがキーとなってマーリンに手渡される筈だった。


 ところが、マーリンと離れ離れになりたくない妖精レアンは、イグニスに頼んで入れ替わっていたのである。




 妖精レアンがマーリンと初めて出会ったのは、アイルの渓谷で落石に打たれたレアンをマーリンが助けた時であった。それ以来、アイルとアンティリアが近い事もあって、彼女はマーリンと行動を共にするようになった。


 その事を、妖精たちをゲート・キーとして霊質化したヴァニラ・フィールズ”愛の女神”エタニティが、承知していたか否かは今となってはやぶの中である。


 ただ、”炎の剣”を持ち帰る役目を負っていたマーリンが、アイル北方の”魔法都市”フィンジアスにおもむくであろう事を考えれば、分からなくもない結果とも言えた。




 申し訳なそうにレアンが口を開く。



「あのね、ヴァニラ・フィールズの女神様にも会ったの。そいでね……」


「もういいよ、レアン……」


「ごめんなさぁ~い。マーリン怒んナイでェ……」


「怒ってないよ。それよりレアン。オマエ、”時間の歪み”をトレースする事が出来るのか? アネモネの居場所を探せるのか?」


「アネモネ様? そうか、やっぱココントコの、この時の流れの違和感は彼女のせいだったのね……。最近、ナンか気持ち悪かったのよネ。で、彼女がどうかしたの?」


「いや、詳しい事は後で話すから、それより、出来るのか? 出来ないのか?」


「モチロン出来ますとも。アタシを誰だと思ってんの!? アイル・ダーナ”時と音楽の妖精”レアン様よっ!」


「大丈夫かな……」


「また馬鹿にしてっ! レアン、馬鹿じゃナイもんっ!」


「分かった、分かった。是非、探すのを手伝って下さい……」


「ん? 探すって??? アイルに帰るんじゃないの?」


「”時と記憶の女神”アネモネを探さなきゃならんのっ!」


「ええっ! レアンが探しに行くの?」


「馬鹿、俺も一緒だよ……」


「マーリンと一緒に旅行出来るの♡ じゃ、イクイクっ!」


「あのな、遊びに行くわけじゃ……」



 そう言いかけて止めたマーリン。ふと、ゲート世界へと旅立つユランとフィン、そしてウーゼル。彼らの顔が浮かんだ。



「ま、いっか……。他に手立てもナイし。一人で旅するよりか、暇は潰せそうだ……」



 そのり取りを聞き終えると、セマグルが言う。



「ほっほっほっ、どうやら結論は出たようじゃの。じゃが気を付けよテオゴニア。敵は、お主を待ち構えておるやもしれんでな……」


「ああ、分かってる。アネモネが信号を送れている事を考えると、危険は無いか、罠かのどちらかだ。だろ?」



 こうして、己の脳裏をよぎる幾つかの疑問をたずさえながらも、心新たに期するものを感じるマーリン。


 そんな彼に過ぎる杞憂きゆうは不要かと、セマグルも感じた。



「実はの、ヒントを教えてくれたのは彼女じゃ」


「ヒント?」


「そう、お主。いや正確に言えば、お主の亜空間から同様に時の鼓動が聞こえておった。正確なリズムがの。それでピンと来た。お主の持つゲート・キーが”時の妖精”の方じゃと。それで時の歪みに気付いたのじゃ」


「なるほど、大した爺さんだ……」


「ほっほっほっ、年の功じゃて」



 期せずして、”不死の大魔法使い”テオゴニア・マーリンは、アイル”時と音楽の妖精”レアン・ファウ・シーと共に三度旅に出る事となった。


 闇夜が駆使しているであろう”不可逆ふかぎゃく不遡及ふそきゅうの禁呪”。その秘密を探る為。それにまつわる疑問を解く為。”時の女神”アネモネを捜索する任を得たのだ。


 ただ、その先に待っている想像を超える答えに、今は気付ける由も無かった。この竜神霊セマグルを以てしでも……。






 つづく

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