第11話 謎
「俺も最初にアネモネの事は考えたが、あの”黒き軍勢”の侵攻の早さに、途中で忘れちまってたな……」
「無理もない。キュベレーは僅か三日の事じゃったからのぉ……」
「話を戻そうか……」
今度はマーリンが柘榴茶の器を静かに置いた。
◆・.。*†*。.・◆
「近々で言えば、やはり”魔の帳の三騎士”だろう。
”アッティカの風の国”でカザナスが葬った筈のヒュプノス。なぜか奴は、この”スラフ・カザナス”に現れた。
”ガリアの戦い”でもそうだ。モリガンが切った筈のオネイロス。なぜか奴も、”アッティカの風の国”に現れた。
なぜ奴らは、元通りの体で復活出来る? 俺同様に”黄金の柘榴”で不死なのか? そんな都合よく幾つもの”黄金の柘榴”を何処から手に入れる。
確かに”神殺しの神器”が必要という事にはなった。が、そもそも奴等は神では無い筈」
多少興奮するように、マーリンは立ち上がって話し始めた。
「それと、華の国で王子RUTOに掛けられた”流転の禁呪”。そして、風の国に現れたパンドラ。あれは誰かに操られた人形師が、”傀儡の禁呪”で木偶を人に生まれ変わらせた」
更にマーリンは捲し立てる。
「”柘榴の木”で出来た人形を、戻らない筈の”カオス元素”に戻し、人間の肉体に変えるわけだ。驚きだろ。明らかに”不可逆と不遡及の禁呪”だ。
それら全てを魔女エリスが行ったとされているが、”流転”の禁呪程度であればそうかもしれない。だが、ガイアの摂理を書き換える程の禁呪となると、そんな力、始祖神でもないエリスにあるのかね? 確かに”復讐の女神”とも言われてはいるが……」
マーリンは大きく一つ息を吐くと椅子に座り直した。そして、両の掌を組むとテーブルに肘を立て、神妙な面持ちで言った。
「それとあと一つ。禁呪とは直接結びつくか分からないが、あの”ガリアの戦い”以来、どうも解せない事がある……」
「解せぬ事?」
「ああ……」
「言うてみよ」
「”神器”。”神殺しの神器”の数が合わない……」
「ほお……」
セマグルは感心するように、また、己が望む以上にマーリンが向ける話の矛先を心地よくも感じた。
「テオゴニア。いや、人間とは実に面白い。人間とは世の理を求めて止まぬ生き物なのかのぉ」
そう言って、無邪気な子供のように笑顔を見せるセマグル。そんな彼にマーリンは多少なりとも違和感を覚えた。
確かに自身も”黄金の柘榴”によって不死の体を手に入れ、神の力をも得たと感じてはいたが、根本的に人族と神族とでは決定的な何かが違うのだと。
「そりゃぁ、ホメてんのかね?」
「勿論じゃ。で?」
「爺さんも知っての通り、この世界にはキサルピナ(内ガリア)とトランサルピナ(外ガリア)合わせて幾つかの神器がある。
カルヤラ雷神の分身”神槍ブリューナ”は、戦の乙女ヴァルキュリアらがヴァルハラに持って行っちまったが
”白き軍勢”が持つ、ガリア天空神の分身”聖剣カレト・ブルッフ”。ケルト光の神の分身”神剣クレイヴ・ソリッシュ”の半身”である”ミスティル・テイン”。
対して”黒き軍勢”が持つ、ガリア闇の魔神エレボスの分身”死灰の剣フォール・アウト”。ケルト光の神の分身”神剣クレイヴ・ソリッシュ”のもう半身、”レーヴァ・テイン”。つまり”炎の剣”だ。
これで五分の筈だが、何故か”ガリアの戦い”に”炎の剣”は投入されなかった。
可笑しな話だ。軍勢の数の上でも劣勢。”封神の指輪グレイプニル”の事も考えると、秘密を握ったとはいえ”炎の剣”を使わない意味が分からん……」
「なるほど」
「それにだ、何故に始祖神で神器を作る事の出来る、”夜の女神ニュクス”の分が存在しないのか?」
”神器”。それは創造神たる始祖神の力の分身と、神々の神霊力の源である”黄金の柘榴”によってのみ造られる。
つづく