第9話 理の禁忌
竜神族の国スラフ・カザナス。その王城キフラでカザナス王らとの謁見を終えた竜騎士ユランやフィン、そして竜王子ウーゼル。
彼らは”柘榴の森の迷宮/ゲート世界”を通り、”炎の剣/レーヴァ・テイン”を届ける旅に出る事となった。
今は次元壁で隔離された旧アイル・ダーナ北方の魔法都市フィンジアス。古の”聖者”ルゴス・ルクリウスの、その愛剣”宿り木の剣/ミスティル・テイン”が保管される教会を目指してであった。
目的が達成されれば、長きに渡って二つの半身に分かれていた神剣が一つになる。それは神をも滅殺する神器、”神剣クレイヴ・ソリッシュ”を”白き軍勢”が手に入れる事を意味していた。
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ユランたちは、”柘榴の森の迷宮”の最初の入り口である”黄金の竜神殿”キエフへと導かれた。
そうした中。明日の朝の旅立ちに備え、皆が眠りに就いた深夜。魔法使いマーリンは、竜神霊セマグルの部屋を訪ねていた。
精霊によって灯される柔らかなランプの明かりが揺れる中。マーリンが単刀直入に口を開く。
「で、爺さん。昼間の、俺に行って貰わねばならん所ってのは、何の話だ?」
「相変わらずせっかちじゃのう……。久しぶりに茶でも御馳走しようと思うての……」
そう背中越しに静かに微笑んだセマグルは、炒った翠柘榴の実を煮出した紅茶のような飲み物をマーリンに差し出した。
「ホレ、体に良いぞ……」
「爺さんと茶飲み話をしに来た訳じゃナイんだがな。ったく……」
そうは言ったものの、流石にセマグルの言う通り、それ程事を性急に問う必要も無いと思い直すマーリン。
彼はテーブルの椅子に腰を降ろし、セマグルは脇に置かれた揺り椅子へ歩を進めた。
それから暫し、二人は柘榴茶に時間を費やした。
この時まではマーリンにも余裕があった。
やがて、おもむろにセマグルがポツリと零すようマーリンに問いかけた。
「ところでお主。”理の禁忌”の研究は進んでおるのか?」
その言葉に思わず柘榴茶を吹き出しそうになるマーリン。彼には思い当たる節があった。
「ああ、アレねぇ……」
そう惚けたマーリンではあったが、その存在は勿論、既に研究として幾つかの実験に手を出していた。
若くして数多の魔法や呪法の奥義を極めたマーリンは、タブーとされていた神霊力の謎の解明を図ろうと考えていた。
それは生まれ持っての人間の性か? あるいは天性の才に溺れての傲慢さなのか? 踏み込んではいけない禁断の領域を彼は犯した。
そもそも、マーリンが祖国であるケルト四国の一つアングル・ブリーンを放逐されたのも、その罪を”白き大地神”アルビオンに問われたからだった。
明後日の方向か、斜め上の方向に話題を変えたいマーリンであった。
「いやぁ、このお茶おいしいわぁ。古傷にも効く効く。こりゃ、明日は絶好調だなぁ……」
そんなマーリンに視線を合わせる事もなくセマグルが続ける。
「ま、そう隠さんでもよかろう……」
”理の禁忌”。それは、このガリア世界を創造した大地母神ガイアが定めた摂理。
この世の全ての構成元素である”カオス”。それらは奇石”リア・ファル”によって霊質変化の力が与えられ、女神ガイアによって空間と時間軸の法則が与えられた。
それは天地を育み。そこからガイアに連なる神々すらも生み出し。そして、あらゆるものに”不可逆と不遡及の理”を与えた。
つづく