第7話 王家の七騎士
竜神族の国スラフ・カザナス。その”柘榴の森”リュブリャナの奥深くに隠された黄金居城。
それは竜神霊セマグルは勿論、竜神王リグラフを初めとする竜の神々の住処であるキエフ神殿であった。
「どうじゃ、テオゴニア?」
流石のマーリンも、それは確かにセマグルの言う通りであると思った。
”白き軍勢”の国同様に次元壁で隔離され、しかも神々に匹敵する竜神達の巣窟では、いかな闇夜の連中でも簡単には手出しは出来ない。
出せばガイアとの約束を守って中立を建前とする、この竜神たち全てまでも敵に回す事となる。
「厄介な爺さんだな……」
「備えあれば憂い無しじゃ……」
セマグルは掌から肩に乗り移っていたリーロを優しく撫でた。
マーリンが言う。
「それにしても、エタニティまで出し抜くとは……」
「いやいや、それも正確ではない」
「正確ではない?」
「迷宮地図による道を作れとは女神も言ってはおらん。しかしじゃ、ワシにリア・ファルを預けたのは彼女。七人の魂と共にな」
「七人の魂……」
「そうじゃ、七騎士の魂じゃ」
傍らで事の成り行きを見守っていたフィンが、セマグルの言葉を繰り返し呟いた。
「七騎士……」
かと思うと、はたと大きく目を見開き、彼女の意思とは関係無く言葉が口から飛び出した。
「王家の……、七騎士……」
「思い出したようじゃの……」
それはフィンの内に眠る”白き愛の女神”エタニティの王国の記憶。ヴァニラ・フィールズの民ヴェリール族王家の一人。プリンス・メルの記憶であった。
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スラフ・カザナス。それは竜神の住むスラフと呼ばれる地に、竜神族の末裔である竜騎士たちによって建国が為された時。その王の名カザナスを取って命名された。
その地方領アルチャの当主チェレス・ウゴール卿は、後に王となるカザナスと”炎の剣”を届ける為、嘗て共に旅した竜騎士の一人であった。
女騎士フィンは、その後の内戦で死したチェレスの娘である。しかし、彼女が持つ魂はアッティカの”華と風の騎士”メルのものでもあった。
そして、古くは女神エタニティの国ヴァニラ・フィールズのヴェリール王家王子。騎士の称号”ホワイト”を持つ、メル・ホワイト・プリンス・ヴェリールの魂でもあるのだ。
思わず彼女の口を突いて出た言葉。それは古の王子の記憶から呼び覚まされたものだった。
セマグルが言う。
「ヴァニラ・フィールズ。古の騎士達の魂じゃ……」
それはマーリンにも分かっていた。
彼は厳かに、その名を口にした。
「フィヨルドの騎士ヴェラ
森の城壁メニン
母なるマーモ
眠る騎士ロウ
巨人カレバン
月の戦士ルオン
そして
雷鳴のルケ……」
その静かに語られた古の騎士達の名を聞いて、フィンの瞳からは涙が零れ落ちた。
「あれ? 涙……。どうして……?」
「フィンよ、無理も無い事じゃ。皆ガリアの戦いで、お主、いや、古の王子の為、”黒き軍勢”と闘い散っていった者達の名だ……」
フィンはヴァニラ・フィールズの古の王子プリンス・メルの転生者である自覚はあった。その魂と記憶を携え、先の内乱も戦う事が出来た。
ただ、普段その古の王子の記憶と人格は、竜神族の末裔として生まれたフィンの内に眠る様に横たわっていた。
そして、こうして時折。何かのキッカケで眠る彼の人格や感情が溢れ出る事があった。
セマグルが続ける。
「しかも、その殆どが、あのキュベレーの戦で亡くなっておるからのぉ……。それは凄まじく、悲惨な戦いだったと聞いておる」
マーリンが呟く。
「ったく、イヤな事を思い出させる……」
それは闇夜のエレボスらが”神々の盟約”を反故にし、姦計を持って”キュベレー”上陸を皮切りに”ガリアの戦い”の口火を切った時。
疑心暗鬼に落ちていたケルト四国は、まともに援軍を送る事が出来ず、その為にヴァニラ・フィールズ擁する七砦の大半が魔の手に陥落した。
あの時。逸早く闇夜の姦計に気づいたマーリンではあったが、それを食い止める手立てを彼は持っては居無かった。
結果的に”白き軍勢”の三分の一の兵力が失われ、その後の戦いに苦戦を強いられると言う苦い思いがあった。
つづく