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第九話

 『そろそろ俺も行動に移さなければ』


 例の喧嘩まがいがあった日。

 そのことを、雷樹は一層強く思うようになっていた。


 うっすらとアピールはしている。でも、こんなことで風梨が彼の感情に気付く可能性は、限りなく0に近い。

 雷樹には泉水のような行動はできない。それなら、どうすりゃいいのか。

 授業中に考えるのはそのことばかり。こんなんじゃ、期末の成績が悪いことは確定だ。

 

 大胆な行動はできない。でも、今のままじゃだめだ。


 どうすればいい。


 

 頭に浮かんだのが、金髪ぼさぼさ頭の桜満だった。


 そうだ。自称でも恋愛のエキスパートならアドバイスはしてくれる筈。

 自分の力で何もできないなら、他の力にしがみついてすがって力吸い取るだけだ。

 1―3で一番目立つ髪を持つ人物の元へ、雷樹は直行した。


 

「おい桜満」

 ダンっと机に手をつく。

 いきなり現れた驚きからか、桜満は椅子をひっくり返してしまった。

「うぉっ!!どした急に。告白か?」

「誰がお前にんなことすっか!そうじゃなくて――」

「違う違う。坂本にだよ」



 流石は恋愛のエキスパート。もう自称は外してもいいだろう。

 一瞬そんな考えが脳裏をよぎる。


「いやまだ告白はしないよ?でもそろそろ行動しないとさぁ。

 俺、やっぱ坂本好きだ。あいつらには負けたくない」

「ほう」


 桜満の顔に、法律事務所の職員的な笑みが浮かぶ。


「いよいよ、す、しゅ、出陣のときが来たな」



「いやそこで噛むなよ」


 いつもの雷樹だったら、そんな大げさな、とか言って突っ込んでただろう。

 それか、自分の言葉の恥ずかしさに嘆いていたか。 

 それがなぜか、頷いてしまった。



「その出陣のために、お前の恋愛のエキスパートとしての脳を借りたいんだが」

「いいだろう。ただし貸出期限は今日の23:59までだ」

「ああ」


「それで、どんな作戦を立てる」

「それにお前の頭を借りたいんだ」


 二人して黙ってしまった。

 やはり自称はつけておこう。雷樹はそんなことを考えた。


 

 しかし、転機はやってくる。

 

 五時間目に突入しようとするときだった。

 

 風梨が、帰り支度を始めた。

『家庭の用事』で、早退するらしい。



 どうするどうするどうするよ!!!!!!


 雷樹の思考回路は、半混乱状態に突入した。

 桜満の頭が借りられるのは今日まで。

 そうじゃなくても早いところ行動を起こさないと、


 

 

 ここで、桜満が手助けをした。

 風梨の弁当を、雷樹の近くに落としておいたのだ。

 どうやったのかとか何をしてるんだとかそんなことは置いておこう。

 桜満に気付かされ、いよいよ出陣のときが来た。




「先生、坂本さんの弁当落ちてるんですけど」

「あぁ……坂本が落としていったんだな。多分。浅間、お前届けてきてくれ」


 泉水が雷樹を見た。

 雷樹は気付いていない。そんなこと考えている場合じゃない。

 雷樹は全速力で教室を出た。


 三階、二階と階段を駆け下りる。 


 二階の階段の途中で、風梨に追いついた。

 心臓がバクバクしているのは、走ったせいだけではないだろう。


「坂本……あの、弁当……忘れてたから……」

「あ……忘れてた。ありがと」


 ここで会話を終わらせたら、雷樹にもうチャンスはない。

 せっかく桜満が作ったチャンスを、無駄にしてはいけない。



「あ、あああのさ」

 必死で声をかけた。

 階段を下りかけていた坂本が振り返る。

 冷や汗が半端じゃない。やばい。やばいとしかいいようがない。



「坂坂坂本さ、くく黒田と泉水に告白されたたけど」

 歯ががちがち言いそうになってきた。動機。過呼吸になりそう。

 雷樹の頭の中は、真っ白だった。



「え……う、うん」

 風梨は不思議そうな顔をした。これがかなり可愛かった。

 いや、今は関係ない。




「お前のことを好きでいるのは、あの二人だけじゃなくて、

 あの、その、うん。

 それだけ」




 このままでいるのはきつい。


 なんか息が詰まりそうで、来た時よりも全速力で、教室に帰った。

 泉水が雷樹をにらんでいたが、彼は気付かない。

 過呼吸を抑えるのに必死で、周りがよくわからなかった。

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