第五話
「ふーりんてさ、坂本のことだよな」
例によって下校時、例によって桜満との会話。というか、会話の始まり。
朝のことで衝撃を受け、授業もまともに頭にはいらないし、桜満も気を遣ってか何も言わない。沈黙の下校時間で、雷樹が開口一番発した言葉がコレだった。
一ノ瀬は、あんなことを言われても泉水のことを諦められないそうだ。どういう精神してんだか、と思ったら、一ノ瀬と泉水は幼馴染で、一ノ瀬は初めて会った時から泉水のことが好きだったらしい。
生憎、雷樹には泉水のどこがいいのかがわからない。そのことを考えただけで、今日58回目のため息が出る。
「ん~、まあ、そうだよな。『坂本さんが~』って言ってたし」
そこは、桜満も同意するしかない。
ただし、あくまでも楽観的に。
「あいつらさ、どこまで進んでるんだろうな。関係」
対してネガティブ全開な雷樹。
「ん~~、まあ、席近いし、話しかけまくってたからな~。泉水が一方的にだったけど」
あくまでも楽観的に答える桜満。
雷樹にとっての一番の問題はそこだった。
あれは、泉水が一方的に話しかけていただけじゃないのか?
『僕は、坂本さんが、ふーりんが好きだから』
ふーりん=風梨。
あだ名で呼んでいる。もしかしたら、呼び合っている。
「泉水に、先、越されたな。」
「ああ」
隣に座り、少なくとも授業中は話しかけることができる泉水に対して。
俺はどう対抗できるんだ?
なにをすればいいのか。チャンスはどこにもないのか。
頭が破裂しそうになる。
「それはそうと」
「ん?」
桜満が唐突に言った。
「三角関係、崩れたな」
「次はラヴ・スクエアになるとでも?」
なんだかうんざりする。でも、話題が明るくなった。これだからこいつの友達はやめられないと、雷樹は内心で笑う。
「そのとおおおおおおおり!!!!!!」
「その通りなのかよ!!!」
「よし、書き加えるか!」
数学はやめておけ、と言おうとした矢先。書き加えるってことは、また数学なんだな。
馬鹿かこいつは。内心の笑いを、雷樹はひっこめる。
そう思うが早いか、桜満は早々と数学ノートを取り出した。油性ペンも取り出した。
以前書いた三角の横に、四角と名前、雷とハート。
「これで、ラヴ・スクェアァだ!!」
相変わらず耳障りな発音。
せめてこれが、五画関係にならないことを、雷樹は祈るしかない。
それ以前に、三角関係以上のものが存在するのかって疑問があるのだが。
多分、ないだろうな。
無駄に興奮する桜満を横目に、雷樹はため息をついた。