表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/21

第二話

「そりゃあ、恋だろ」



 授業が終わり、部活も終わり、夕焼けがまぶしくなってきた頃

 雷樹は、桜満(おうま)ともきと並んで下校していた。


 桜満と雷樹は、小学校からの長い付き合いで、今では気の置けない最高の友人となっていた。

 桜満には彼女がいる。彼は案外人気で、彼女ができる前も、できてからも下駄箱にラブレターが……なんてことは数えきれない。もちろん、直で告白もある。むかつくことに数えきれないほど。

 今の彼女、城ノ内くるみも、その数えきれない中に入っていた。桜満に何回も告白し、ことごとく振られ、それでもあきらめずに告白をしてきた。3か月かかり、やっと二人は結ばれた。


 桜満は他人の恋愛となると物凄く勘がさえる。

 だが、彼女の面前では、ヘタレでチキンで気弱で恐縮して縮んでしまって…


  


  閑話休題


 雷樹は、恋愛のエキスパート(自称)に全てを打ち明けていた。

 全てといっても、そんなに大した量ではないのだが。

 

 自分のまとまらない坂本への気持ち、泉水の行動、それを不快に感じる自分。


 そして自称恋愛のエキスパートに判断されたのである。



「そりゃあ、恋だよ」、と



「恋か」

 雷樹はそのまま返した。やはりそうか、という思いと、信じられないな、という思いが交差する。

「恋だ。いつでもどこでもいつまでもどこまでも冬真っ盛りのお前が、坂本に恋をしたんだ」

「一言二言余計だ、馬鹿。で、泉水もなのか?」

 気になっていたのは、自分のことばかりではない。泉水の気持ちも知りたい。

「へ?お前、泉水のことも好きだったのか?うそ~ン」

 わざとらしく女っぽい声を出しながら、桜満は体をくねくねさせる。

 その光景は何とも言い難い気持悪さを醸し出していて、雷樹は顔をしかめた。

「ちげえよ!つうかキモいわ!」

「いやん、キモイだなんてひど~い」

「桜満、お前、マジで気持ち悪いぞ」


 話が横へ横へそれていくと感じている。その場にいた全員が、そう感じたはずだ。

 といっても、桜満と雷樹しかいないが。

 

「……」

「ハハハ、冗談だって。あれだろ、泉水が坂本を好きかどうかって話だろ」



「……わかってんじゃねえか!!!」

 思わず怒声がでた。そこは親友のユーモアだとわかっていても、怒らずにはいられない。


「泉水は、お前のライバルだな。俺も聞こえてたけど、あれは坂本へのアピールとしか思えん」

 今までのにやけ顔をひっこめ、嫌に真剣な目つきで桜満は言った。

「あれ、桜満って坂本たちとそんなに席近かったっけ」

「いや、雷樹より遠いぞ」


 何たる地獄耳。耳の良さだけでは聖徳太子に勝てるぞ。

 くだらない考えが頭をよぎる。


 いや、食いつくのはそこではない。


「ライバルってことは」

「そう!泉水は、坂本のことが好きなんだ。つまりな――」


 桜満はカバンからペンとノートを取り出し、ノートの真ん中に三角形を書いた。

 随分と三角形がうまい。だが、なにも数学のノートに油性ペンででかでかと書く必要はないじゃないか。心の中で突っ込みを入れる。


「それぞれの頂点に、雷樹、坂本、泉水がいる」

 頂点に名前を書き込む。


「お前と泉水は坂本のことが好きで――」

 坂本へ集まる二本の線に、矢印を書く。

 真ん中にハートマークもつけ、とても分かりやすい恋愛感情になる。


「お前と泉水は、ライバル」

俺と泉水をつなぐ線の中心に、雷のマーク。とてもわかりやすい対抗心ができあがる。



「これを見よ!!」

「見てるけど」


「そう、その通りだ



 これは完全なラヴ・トライアンゴゥ!!」

 

 何がその通りなんだ。しかも発音が耳障りである。

 

 だが、確かにこれは、love・triangle《三角関係》なのだ。

 心臓がわずかに跳ねる。

 初めての感覚に、疑問が湧く。



 しかし。


 なにもそれを説明するために、明日提出の数学ノートを使う必要はないと、雷樹は改めて思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ