第二話
「そりゃあ、恋だろ」
授業が終わり、部活も終わり、夕焼けがまぶしくなってきた頃
雷樹は、桜満ともきと並んで下校していた。
桜満と雷樹は、小学校からの長い付き合いで、今では気の置けない最高の友人となっていた。
桜満には彼女がいる。彼は案外人気で、彼女ができる前も、できてからも下駄箱にラブレターが……なんてことは数えきれない。もちろん、直で告白もある。むかつくことに数えきれないほど。
今の彼女、城ノ内くるみも、その数えきれない中に入っていた。桜満に何回も告白し、ことごとく振られ、それでもあきらめずに告白をしてきた。3か月かかり、やっと二人は結ばれた。
桜満は他人の恋愛となると物凄く勘がさえる。
だが、彼女の面前では、ヘタレでチキンで気弱で恐縮して縮んでしまって…
閑話休題
雷樹は、恋愛のエキスパート(自称)に全てを打ち明けていた。
全てといっても、そんなに大した量ではないのだが。
自分のまとまらない坂本への気持ち、泉水の行動、それを不快に感じる自分。
そして自称恋愛のエキスパートに判断されたのである。
「そりゃあ、恋だよ」、と
「恋か」
雷樹はそのまま返した。やはりそうか、という思いと、信じられないな、という思いが交差する。
「恋だ。いつでもどこでもいつまでもどこまでも冬真っ盛りのお前が、坂本に恋をしたんだ」
「一言二言余計だ、馬鹿。で、泉水もなのか?」
気になっていたのは、自分のことばかりではない。泉水の気持ちも知りたい。
「へ?お前、泉水のことも好きだったのか?うそ~ン」
わざとらしく女っぽい声を出しながら、桜満は体をくねくねさせる。
その光景は何とも言い難い気持悪さを醸し出していて、雷樹は顔をしかめた。
「ちげえよ!つうかキモいわ!」
「いやん、キモイだなんてひど~い」
「桜満、お前、マジで気持ち悪いぞ」
話が横へ横へそれていくと感じている。その場にいた全員が、そう感じたはずだ。
といっても、桜満と雷樹しかいないが。
「……」
「ハハハ、冗談だって。あれだろ、泉水が坂本を好きかどうかって話だろ」
「……わかってんじゃねえか!!!」
思わず怒声がでた。そこは親友のユーモアだとわかっていても、怒らずにはいられない。
「泉水は、お前のライバルだな。俺も聞こえてたけど、あれは坂本へのアピールとしか思えん」
今までのにやけ顔をひっこめ、嫌に真剣な目つきで桜満は言った。
「あれ、桜満って坂本たちとそんなに席近かったっけ」
「いや、雷樹より遠いぞ」
何たる地獄耳。耳の良さだけでは聖徳太子に勝てるぞ。
くだらない考えが頭をよぎる。
いや、食いつくのはそこではない。
「ライバルってことは」
「そう!泉水は、坂本のことが好きなんだ。つまりな――」
桜満はカバンからペンとノートを取り出し、ノートの真ん中に三角形を書いた。
随分と三角形がうまい。だが、なにも数学のノートに油性ペンででかでかと書く必要はないじゃないか。心の中で突っ込みを入れる。
「それぞれの頂点に、雷樹、坂本、泉水がいる」
頂点に名前を書き込む。
「お前と泉水は坂本のことが好きで――」
坂本へ集まる二本の線に、矢印を書く。
真ん中にハートマークもつけ、とても分かりやすい恋愛感情になる。
「お前と泉水は、ライバル」
俺と泉水をつなぐ線の中心に、雷のマーク。とてもわかりやすい対抗心ができあがる。
「これを見よ!!」
「見てるけど」
「そう、その通りだ
これは完全なラヴ・トライアンゴゥ!!」
何がその通りなんだ。しかも発音が耳障りである。
だが、確かにこれは、love・triangle《三角関係》なのだ。
心臓がわずかに跳ねる。
初めての感覚に、疑問が湧く。
しかし。
なにもそれを説明するために、明日提出の数学ノートを使う必要はないと、雷樹は改めて思う。