第一話
浅間雷樹は、自分の二つ前の席に座る女子を、先程からずっと眺めていた。
授業というのは、こういう時だけ便利だ。特に、教科書をよく使う教科は。教科書を盾にすれば、誰をどう眺めようと、先生にも周りのやつらにも気づかれない。
とはいえ、歴史の授業は教師が板書し、皆がそれをノートに写すというつまらなすぎるもの。誰もかれもがこっそりと会話をし、自分の世界から出てこないため、もはや何をしようが勝手という状況が築かれていた。
別に、変態な意味を込めて見つめているわけではない。ただ、なんとなく、なんとなくだ。言い訳がましいとは思う。だが、変態は断じて違う。さっきから彼の頭の中では、その言葉だけが再生されていた。
たまーにノートをとりつつも、この歴史の授業中、雷樹の集中力は彼女だけに注がれた。
視線の先に座る彼女の名前は、坂本風梨
彼の彼女に対するまとまらぬ想いは、きっと風梨が今置かれている状況に関係があるのだ。
坂本には、彼氏がいる。隣のクラス、四組の黒田なんとかという男だ。黒田の下の名前を、雷樹は知らない。
これは噂を聞いただけだが、その黒田がひどい女ったらしで、坂本と付き合っていながら様々な女と遊び歩いているそうだ。だから、坂本は真剣に黒田と別れようとしているらしい。
坂本は美人だ。可愛いとも言えるけれど、それよりは美人に近い。ファンは多いが、その中でも、それ以外でも坂本は「無理目の女」として通っていた。
艶やかな肌、黒く長い髪、高1とは思えない美しさに、やはり高1らしい子供っぽさが混じる顔。どこをとっても学年どころか学校№1といえる彼女が、なぜ黒田と付き合い始めたのかは誰にもわからない。もしかしたら、本人にもわかっていないのかもしれない。
皆が知っているのは、黒田が告白して風梨がオーケーした、ってことだけ。
以上が、雷樹の手に入れた坂本に関する情報だ。
ちなみに、情報源は全て彼の親友である。
もはや授業など聞いていない雷樹の視界に、ふと気になるものが入ってきた。
彼女の隣に座る男子――名前を、確か泉水白都とかいった――が、数分前から教師にばれないように風梨に話しかけていた。
目障りである。
風梨にぺちゃくちゃ話しかけ、何とか風梨に近づこうとしているようで、見苦しい。雷樹にはそう感じられた。
あいつ、風梨に気でもあるのか?
風梨が黒田と別れそうだって話を聞いて、風梨を狙ってでもいるのか?
そう考えると、無性に腹が立った。
風梨のことが好きだとか、そういう気持ちはどこかにあるのかもしれない。だが、はっきりとは分からない。心の中で、頭の中で、風梨に対してどんな感情があるのかがわからない。
『もしや俺は、風梨のことが好きなのか・・・!?』
疑心暗鬼に陥った雷樹は、授業終了のチャイムを聞きのがした。