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ゆるり気ままなお猫様  作者: 一般通過純愛スキー


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行き倒れ勇者

 世界は広い。およそ一般の生物では回り尽くすことなど叶わぬほどである。世界どころか、自分の村から出ることもなく生涯を終える人間もいるし、小さな縄張りしか持たぬ猫もいる。しかし、そんな閉鎖的な世で嘯くやつらが現れる。

 俺は俺にしか出来ないことをやりたいんだ、俺はもっとビッグになるんだ、俺にはきっととんでもない才能が眠っている。根拠のない自信と夢想に溺れて現実を見れぬ者達は、無謀にもその命を散らすことすらある。

 エミリーよ、私はそんなお前を見たくない、見たくないのだ。分かってくれるな?


「みっ!みゃぉ!」


 なに?パパとずっと一緒?おぉ世界よ見るがいい、これが我が子だ。この尊さに震撼するがよい。

 おっといけない、話が逸れてしまった。まあそういうわけでだ、今日は街の外に出かけるぞ。




 我々が暮らしている街は比較的大きな街である。平地にあり、四方に街道が敷かれ、交易も盛ん。法神教会、魔神教会、聖猫教会と主要な教派も揃っており、およそ人が暮らすに不足はない街であろう。人あるところに猫もあり。猫への供物の多い街には、必然猫も多いのだ。

 しかし時には街の外に出ることも必要なのだエミリーよ。我々は自由な種族。どこにいるもよし、一所に留まらず様々な場所を見て回るのも乙なものである。


「みゃう?」


 ふむ、よくわからんか。ははは、まあよいだろう。お前はまだ幼い、いずれ理解すればそれでよい。ああ、随分街から離れたな、疲れてはおらんか?


「みゃお!んにっ!」


 そうかそうか、疲れたら言うんだぞ。私が運んでやるでな。そうだ、ただ歩いてるだけでは味気ない。気になったものがあれば言ってみるがいい。私が教えてやろう。


「みゃ?」


 それはアトレ草だな。この季節小さく可憐な花を咲かせる。これは赤いが、白や黄色のものもあるぞ。今度群生地に連れて行ってやろう。一面鮮やかな花で埋め尽くされて壮観だぞ。


「みゅ?」


 あれはラビコーンだな。角が生えたウサギのような魔物だ。不用意に近づいてはならんぞ?今のお前さんでは角の一突きでやられてしまうからな。もう少し大きくなったらヤツの狩り方も教えてやろう。肉が中々うまいのだ。


「みょ?」


 それは人だな。行き倒れともいう。気をつけろ。こういった輩は生き物と見れば見境なく食おうとしてくるやもしれぬでな。これ、ツンツンするでない。


「ぐぉぉ……なんかとてつもなく失礼なこと言われた気がする……」


 なんだそれなりに元気そうではないか。放っておいても構わんだろう。ほれ、行くぞエミリー。


「待て待て待て!待ってくれよぉ!もう猫でもなんでもいいから助けてくれって!頼むから俺を街に連れて行ってくれよぉ!」


 なんだ、迷っているのか?ここは街道から逸れた森だぞ?なぜこんな所に迷い込む。街道沿いに進めばいずれどこぞ街でも村でも辿り着こうに。コイツは阿保なのか?


「うぅ……猫にすら冷たい目で見られてる……」


 大の男がみっともなく鼻水なんぞ垂らしおって情けない。やれやれ、仕方あるまい。エミリーよ、探検は終いだ。


「うぅ、そうだよなぁ、猫にこんなこと言っても仕方ねえよなぁ。俺はなんて馬鹿なんだ」


 おい阿保、はよ来い。別に私は見捨ててやっても構わんのだぞ。


「んにぃ、みゃっ!」

「どうしたちっこいの、そんなに引っ張るなよ。うん?おっきいのがこっち見てるな。まさか、どっか案内してくれるのか!いやしかし猫に着いて行ってもいいものか……でもなあ、ここでじっとしててもどうにもならねえもんなぁ。よし頼むぞ猫、どこでもいいから人のいる所まで連れてってくれ!」




「なるほど、街道でウルハウンドの群れに襲われてた商人を助けて、逃げたウルハウンドを追いかけて巣を壊滅させたはよいものの、気付けば森の中で道が分からなくなり、数日彷徨って行き倒れていた所をこの子達に救われた、と」

「おうよその通り!いやぁ、助かった助かった!まさか目的地までたどり着けるとはな!」

「まあ、信用してもいいわね。騎士団の方で、ちょうど数日前にこの街に来た商人からそんな報告を受けてたわ」

「あの商人、無事にたどり着けたんだな」

「ええ、半月ほど街に滞在して商いをするそうよ。中央市場の一角に行商用の場所があるから、多分そこにいるんじゃないかしら。貴方のこと気にしてたみたいだし、顔を出してあげて」

 

 なんだこいつ、阿呆だがいいヤツだったか。人を助けるのはいいが、それで自分を危うくしているようではまだまだ精進が足らんの。他者を救って自分も守る、それでこそ本物といえるでな。


「ところで貴方、調書にあるこの職業……職業なの?これ本気で言ってるの?」

「おうよ!これでも勇者やってるぜ!」


 勇者は職業ではなく称号なのではなかろうか。しかし、勇者か。行き倒れていた姿はとてもそうは見えんかったが、なるほど確かに、身に付けた軽鎧は使い込まれ良く手入れされている。何より剣から、覚えのある力の波動がビンビンと伝わってくる。法神の剣だなこれは。しかも大分強力な祝福がかけられているぞ。


「勇者、御伽話に出てくるような存在ね。かつて世界を支配した魔王を倒して世界を救ったってやつ」

「それそれ!俺は魔王を倒すべく旅をしてるってわけ。でさ、ある時剣からお告げが伝わってきたのさ。この街を目指せってね。正直何でかは分かってないんだけどな」

「ふーん、魔王ねぇ。でも残念ながら、騎士団でもそれらしい情報は入ってないわよ。そもそも魔王ってなんなの?」

「俺も詳しくは知らねえんだよ。剣から伝わってくるのは、ある神の手下ってことだけ。何をしたかも知らないし、そもそも本当に倒す必要があるのかも分かんねえ」


 勇者、法神、魔王、神……魔神か?うむむ、やつらまたぞろ妙なことを始めたのではなかろうな。


「まあ法神教会にでも行ってみるのがいいんじゃない?その剣、なんかすごい加護を感じるから、無碍に追い返されるってこともないと思うわよ」

「そうしてみる。剣が伝えてきた以上この街に何かがあるんだと思うんだ。それを掴むまでは滞在させてもらうよ。じゃあな、助かったよ騎士さん」

「アタシは何にもしてないよ。お礼を言うならこの子達にね」

「そうだな。あんがとな、おかげでどうにかなりそうだ。今度美味え魚でも持ってくるからよ。それでチャラにしてくれや」


 ほう、私からの施しに誠意で応えるか。うむうむ、よかろう。また来るがよいぞ。


「みぃ……くぁ〜」


 おやエミリー眠いのか。確かに今日はよく歩いたし、そろそろ昼寝も悪くない。日の当たる場所に連れて行ってやろう。


「みゅっ……」


 ほうら温かいだろう。私も傍で眠るゆえな、安心して午睡を貪るがよいぞ。

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