見よ、我が神速
「みぃー、みっ、にゃうっ」
よしよし、すっかり元気になったなエミリーよ。それ毛繕いを受けるがよい。
「みゃうっ、ぅみー」
どうした、お前が私の毛繕いをしてくれるのか?パパに、ありがとう?おお、なんとういやつよエミリー。お前が良い子で私は嬉しいぞ。
「にゃおっ!?にゃっ、にゃー!しゃー!」
おや、エリザベス嬢、ご機嫌よう。急に威嚇などされていかがしたのかね。パパ?いつの間に?泥棒猫?よく分からぬことを言うなエリザベス嬢。
「みゅ?にー?みゃお」
パパのお嫁さん?ママ?まったく何を言っておるのやら。
「にゃおんにゃおん、ぺろぺろぺろ」
「んみっ!」
エリザベス嬢、急に猫撫で声でエミリーを舐めるでない。驚いているではないか。もっと淑女としての嗜みをだね。
「しゃー!ふしゃー!しゃーっ!」
おやアーノルド、お前も威嚇をしてどうした。まさか私の知らぬ最近の流行りなのかね。違う?いつの間にエリザベス嬢との子供を?
やれやれ誤解だぞアーノルド。この子は先日私が拾い育てている子だ。名をエミリーという。ほら、自分で挨拶をしてごらんなさい。
「みっ!みゃうみゃう、にゃうん!」
よしよし、よく出来たな。ほれご褒美のすりすりをくらえ。すりすりすりすりすりすり。
「にゃお〜ん、にゃっ、くるるるる」
うん?ああ、よく知っているよエリザベス嬢。改めて自己紹介などせずとも、君と私の仲じゃないか。今日も艶やかで優美な毛並みだ。君ほどの毛並みの猫は私以外にそうそうおるまい。
「うにゃんうにゃん」
どうした今度はくねくねと、ま、まあよい。ともかく、エミリーをよろしく頼むよ。見かけたら面倒を見てやってくれ。
「にゃお〜ん」
ありがとうなエリザベス嬢。アーノルド、お前も頼むぞ?
「にゃっ……」
仕方ねえな?ふふっ、悪ぶっておるがなんだかんだで引き受けるお前のその善性、私は気に入っておるよ。
「ふしゃー!」
照れるな照れるな。お前が近所の仔猫の世話をさりげなく焼いておるのを、私は知っておるぞ?
「にゃっ!?ううぅ、にゃおー!」
おやおや、逃げていきよったわい。まだまだ若いなアーノルドよ。その様子では、私に勝つのはまだまだ先だろうよ。
時にエリザベス嬢、今日は下僕を連れてはおらぬようだが、よろしければ私とエミリーに付き合わぬか?
我らは誇り高き種族、猫である。己の食い扶持程度、己で確保できなければならぬとら思わんかね。ゆえにエミリー、今からお前に教えるのは、私の経験から確立した狩猟法である。お前にこれを受け継ぐ覚悟はあるか?
「みぃ、にゃうっ!」
よい返事だ、さすが我が子。エリザベス嬢、よければ君も学んでゆくがよいぞ。君にならば技を披露するのも悪くない、君にならばな。何やら余計なのも着いてきたようだが。
「えっ、なになに、アタシのこと呼んだ?ねえ呼んだ?シスターに教えを受けてるおかげかな、最近アタシも猫ちゃんの言ってること分かってきたかも、なーんて……いたっ!」
呼んでおらんわたわけ!一朝一夕で我が深謀遠慮を見透かせると思うなよ騎士娘!まったく、ヤツの弟子でなければ問答無用で追い返しているところだ。まあいい、そら目的地に着いたぞ。
「どこに遊びに行くかと思ったら、川?水遊びするの?でも猫って水嫌いだったよね」
普通の猫であればそうだろう。しかし私ほどの猫になれば水など克服済みよ。エミリー、そしてエリザベス嬢よ、心して聞け。よいか、川には、魚がいるのだ!
「みっ!?」
「にゃうっ!?」
ふふふ、驚いているな。つまり、川での狩猟法を会得すれば、お魚食べ放題なのだ!
「みゃー!?」
「にゃー!?」
さあよく見ておけ。まずは浅瀬に入る。この際、できるだけ草の陰になっている場所がよい。魚は陰や隙間に隠れていることが多いのだ。
そして、弛緩する。誰かが言った、猫は液体だと。その通り、私は今水と一体化し、狩猟者の気配を消しているのだ。ああ、しかしあまりやりすぎてはいけない。水の精霊が同調した意識に驚いて波を立ててしまうからな。それでは魚が逃げてしまう。あくまで己の境界は保ったままだ。
ここまできたらやることは一つ。視界に入った魚を、一撃で仕留める!くらえ我が神速の一撃!
「えっ、こわっ、一瞬背筋がひゅっとしちゃった。本気の師匠より鋭い気配がした気がする」
当然だ騎士娘よ。ヤツに神速の武技を仕込んだのはまさにこの私なのだからな。我が神速は、風の神ですら一目置くほどであるぞ。そら獲物を見てみろ、食いでのある魚だろう。
「にぃ〜!みゃおぅ!」
感じる、感じるぞ!尊敬の眼差しを!なにエミリーよ、お前も修練を積めばいずれできるようになるさ。私がしっかりと教えてやろう。エリザベス嬢、どうだったかね?
「にゃおん、にゃおん、ぐるるるるにゃあああああ」
ど、どうしたエリザベス嬢!?素敵?カッコいい?オスの頂点?う、うむ、褒められるのは嬉しいが、なんだか息が荒くないかね?まるで発情期のような声ではないか。落ち着きたまえエリザベス嬢。ほらっ、この獲物は君にあげよう。
「ふしゃっ、はぐっ、はぐはぐっ」
お、そうか、そんなに腹が減っていたのか。なるほど、であれば獲物を前に息を荒げるのも納得だ。気付かなくてすまなかったな。
さあエミリーよ、お前もやってみるのだ!己の食い扶持を見事狩ってみせるがいい。なぁに安心しろ、誰でも初めては上手くいかぬものだ。私がサポートしてやるゆえな。
「みっ!」
ふふっ、励め励め。最悪こっそりと風の精霊に頼んでサポートしてやろうて。




