07:異世界文化
「……優斗様はいったい何者なのですか? これほどの技術を見たことがありません」
やっぱりそういうことを聞かれるか。
ただ警戒しているわけではなく、単純に疑問を持っているように思える。
だから俺は素直に答える。その方がこのテレビについても説明がしやすいからな。
「俺はこの世界とは別の世界からやってきた異世界人です」
異世界作品だと地球からやってきた異世界人を知っていたり知らなかったりする。この世界はどちらだ?
「異世界人……まさか実際にお会いするとは思いませんでした」
知っているパターンだったか。
「異世界人は少しいるんですか?」
「はい。危機的状況の際に異世界から勇者を召喚する国があります。それから神の加護を持ちこちらに飛ばされてくる異世界人もいるようです」
なーんだ、少しカッコつけながら言うんじゃなかった。恥ずかしくなってきた。
ていうかエイルさんの説明で言うなら俺は後者ってことか? いや俺は加護を持っていないからそれではなさそうだな。
「優斗様は召喚されたのですか?」
「召喚はされていないですね。たぶん後者だと思います」
「それにしては加護の力は見受けられませんが……」
「得体の知れないやつにこの世界につれてこられただけです。この力も元々持っていた力かもしれません」
やっぱり俺に加護はないな。
「そうなのですね……そういう形での召喚もあるのですか」
「そこら辺はどうでもいい話ですよ。俺の能力は今のこの空間を自由自在にするというものでそれで前の世界の文明を再現しているわけです」
「……すごい力です。まさしく、神のごとき力ですね」
まあ神をも超越する箱庭だから神以上の力ではある。
「この文明に違和感を覚えるのなら言ってください。普通の家も作ることができますから」
「いえ、お気遣いだけで大丈夫です。優斗様が触れている文明に私も触れて生活をしたいですから」
ぐはっ! すごく攻撃のレベルがたけぇ……! ノーガードだと好意的な攻撃はえぐい。
「わ、分かりました。それならあとはトイレに案内しますね」
忘れてはいけないのはトイレだ。女性相手とはいえ文明が違うトイレを説明しないわけにはいかない。
「ここがトイレです」
「……これが、トイレですか?」
ん? あぁ、そうか。文明レベルが低いとぼっとんトイレとかになるのか。
「そうです。ここに座ってします」
便器の蓋をあげて説明する。
「えっ……こ、ここに溜めていくのですか?」
「溜めませんよ。出し終えたらこうやって流すんです」
俺は流しのレバーを操作して流す。
「ひゃっ!?」
聞き慣れない音に驚くエイルさん。
「こうやって流して下水道に流すんです」
「す、すごいです! これなら排泄物を処理する手間がなくて衛生面でもいいですね!」
えっ、この聖女トレイのことで今までで一番大きな声をあげているんだけど。
「この世界って衛生面はあまりよくないですよね」
「……はい。私や修道院が危険性について話してもあまり聞いてくれませんから」
あー、そうだよな。ペストとかそういう病気が流行らないことにはインフラ整備がされなかったり常識が覆ったりしないか。
「俺の世界ではそういう歴史を経て綺麗な場所になっていますね」
「あの、そういうお話がもっと聞きたいです」
たぶん聖女だからこそそういう歴史が気になるのだろうな。
俺がいいですよと言おうとした瞬間、誰かのお腹の音が鳴った。しかもかなり大きな音だ。
俺ではないことは分かっている。だから目の前のエイルさんであることは俺とエイルさんは分かっている。
そしてエイルさんはそのお腹の音を聞かれて顔を真っ赤にしていた。
「あー、まだお昼を食べてなかったので俺のお腹の音が聞こえちゃいましたか。一緒にお昼を食べますか」
「……はい、ありがとうございます」
せめてものフォローがこれしか思い浮かばなかった。
リビングに戻ってきてエイルさんにはリビングに待っててもらい俺はキッチンに向かった。
俺が一人ならお昼にファストフードを食べるのが主流ではあるがさすがに異世界文明に触れ始めてまもないエイルさんにそれはやめておいた。
だから日本食というものを振る舞うことにした。
俺的にはエイルさんがどんなものを食べているのか知りたいのだがエイルさんはこちらの文化に興味津々だからな。
俺は一人暮らしをしている時にお金を節約するためにちゃんと料理を覚えた。
まさか異世界で振る舞うことになるとは思わなかったけど。
作ったものを出すのは簡単だがエイルさんがこちらの様子を見ているからちゃんと料理をする。
「……料理、なさるのですね」
「一応できますよ。エイルさんはするんですか?」
「……いえ、私は料理を覚えるよりもやるべき仕事がありましたから」
あぁ、なるほど。聖女の役割はそれだけ重要ということか。
「料理、明日にでも教えてくれませんか?」
「はい、大丈夫ですよ」
意外、ではないな。こういう女性は覚えようとするものだ。
ずっとエイルさんに見られながら料理をすることに少しむず痒さを覚えつつ料理を完成させる。
「どうぞ、鮭定食です」
鮭定食である焼き鮭に白飯、味噌汁を二人分作った。
プラスαは思い付かなかったからこの三種類だけになった。
味噌汁は日本人としては当たり前のようにあるが、海外ではそれが当たり前ではないから好き嫌いが別れるという。
「これは、異世界の料理ですか?」
「異世界の俺が住んでいた国の料理ですね。この世界で同じような料理があるかもしれませんけど」
異世界作品でもそういう国があって日本料理を作るみたいな話はつい最近見た。
まあそんなことがあるのかと思ってしまうのが俺だ。そんな近しい国があったとしても魔法という概念がある以上別の文明進化を遂げそうではある。
「エイルさんの口に合うのかは分からないので遠慮なく素直な感想を言ってください」
というか言ってくれた方がエイルさんに何が合うのかが分かる。
「はい、分かりました」
分かりましたって言ってもエイルさんの顔を見ておかないと素直に言わない可能性がある。だからちゃんと見ておかないとな。
エイルさんは料理を前に祈り始めた。
こういうのは前の世界でも宗教別にあったな。エイルさんの国では食べる前に祈るのだろう。
そしてエイルさんが祈るのを終えると俺も食事の前の言葉を言う。
「いただきます」
「その言葉は……?」
「俺のいた国では食べる前にすべての命に感謝を込めてこう言うんですよ」
「それはいいことですね。私も、いただきます」
あぁ……エイルさんっていい女性だなぁ。だからこそ神がここまで導いてくれたんだろう。
俺にはお箸を、エイルさんはナイフとフォークとスプーンが用意されている。
「その道具で食べるのですか?」
「はい、お箸で食べます。エイルさんがどの食器で食べるのか分からなかったので一通りは持ってきました」
さすがにここでお箸を出すほど鬼畜ではないからな。
そして俺は味噌汁から食べ始めるとエイルさんも真似をして味噌汁をすする。
見逃さないようにエイルさんの顔を見れば、問題はなかったようだ。
「……美味しいです」
「口に合ってよかったです」
さらに焼き鮭と白飯を食べても全く問題なく美味しそうに食べているエイルさん。
やっぱり地球と異世界人の舌は大体同じなようだな。食の好みは人や国ごとに違うのは当たり前だがそれでも舌が同じなら異世界文明が受け入れられないわけではないようだ。




