06:家案内
「それじゃあ早速聞きたいことがあります」
「は、はい」
「ここの二階にある部屋か隣の建物の一室、どちらに住みたいですか?」
聞かなければいけないこと、それは住む場所だ。
相手は女性だからな。俺とひとつ屋根の下が嫌だというかもしれない。そういう場合は俺が嫌じゃなくて男性が嫌という言葉を聞きたいところだ。
ともかくそれによってはベッドとか準備をしないといけないからな。
「その、優斗様はどちらにお住まいなのですか?」
「俺はこの家ですね。隣のアパートという建物は今のところ誰も住んでません」
「それなら、こちらでよろしいでしょうか……?」
「はい、大丈夫ですよ」
あーよかったー。天然で刺されるのかと思ったー。
「どの部屋なのか案内しておきますね」
「はい」
俺とエイルさんは二階へと上がる。
二階では三部屋あり、前の世界では俺、父と母、物置部屋、みたいな感じの割り振り方になっていた。
今は物置部屋にある荷物を別の場所に作った倉庫に移して空き部屋にしている。
父と母の部屋はそのままにしているしなんか生々しいものが出たら嫌だから放置している。
だから今使える部屋は二階では一室だけになる。
「ここです」
扉を開ければ急いで生み出したベッドとテーブルといった簡単なものが置かれている。
「こ、こんなきちんとした部屋をお借りしてもよろしいのですか……?」
「大体同じような感じですから気にしなくて大丈夫です」
部屋に入ってテーブルに置いてあるエアコンのリモコンを持つ。
「これがエアコンのリモコンです」
「エアコン?」
「あの壁についているもののことです。エアコンは空気を冷やしたり温めたりして気温を調整するものです。一階で部屋が涼しかったのはエアコンのおかげです」
「あれはそういうことだったのですね! てっきり体が変になったのかと思っていました」
変ってなんだよ。
「魔道具ということでしょうか?」
「魔道具……」
魔道具ってたぶん魔力を入れて動かす道具だよな。
家電は電気で動かす。でもここでは魔力を電気に変えてから動かすから……魔道具であることに間違いはないのか。
「まあ大体そうですね」
「そのようなものがついている部屋なんてお借りできません……!」
「いや全部の部屋についていますよ?」
「全部ですか!?」
前の世界ならそれが普通だったからなー。ここまで驚かれるのは面白くなってしまう。
「そ、そんな家なのですね……」
「ちなみに隣の部屋が俺の部屋なので用事があれば気軽に入ってきてください」
「はい……あ、あの、このベッドも使っていいのですか……?」
「はい。ここにあるものは何でも使ってください。それから必要なものがあれば用意します」
「い、いえ大丈夫です!」
そこまで遠慮することはないだろうに。
まあ必要以上に遠慮するのならまた神の名前を出してやろう。
とりあえず一階に降りてから面白そうだから家電の説明をする。
「今からこの家にある魔道具を説明します」
「ま、まだあるのですか!?」
「はい。ほとんどが生活に使っているものなので遠慮なく使ってください」
何度も遠慮なくって言わないとエイルさんは家電を使わなさそう。
「まずはキッチンです」
家電が多そうなキッチンに移動する。
「これが冷蔵庫。開けてみればどんな魔道具なのか分かります」
「は、はい」
俺の言う通り冷蔵庫の扉を開けるエイルさん。
「ひゃっ! さ、寒いです!」
「この魔道具は食材を冷やして品質を長持ちさせたり安全に食材を保存するものです」
「氷魔法を使っているのかと思いました!」
文句を言ってもいいのにエイルさんは感激している。
「ちなみに上が冷蔵庫で下が冷凍庫です。冷凍庫はアイスや食材をより長持ちさせるために使います」
「アイス……氷ですか?」
分からないのなら仕方がない。味わってもらうしかないな。
俺は冷凍庫からカップのバニラアイスを取り出した。そしてスプーンも持ってくる。
「はい、これがアイスです。食べてみてください」
「こ、これは……?」
俺もカップバニラアイスを取り出して椅子に座る。
エイルさんも訳も分からないまま俺に続いて俺の正面の椅子に座る。
カップの蓋を開け、ビニールの蓋もはがす。
エイルさんは俺の真似をしてバニラアイスとご対面する。
「これが……」
「これはバニラアイスです。まあ食べてみればどんなものか分かりますよ」
俺はバニラアイスをスプーンですくって食べる。
あー、やっぱりエアコンの中で食べるアイスは最高だなー。
エイルさんも意を決してスプーンを使ってバニラアイスをすくおうとする。
「か、硬い……?」
「アイスは凍らせて食べる冷たい食べ物です。ですから基本硬いです」
まあ歯を折りに来るアイスバーがあるからそれはさすがにレベルが高い。
俺の説明を受けてしっかりとバニラアイスをスプーンにすくったエイルさんはパクっと食べる。
「つ、冷たい……でも……甘いです……!」
「行ける感じですか?」
「は、はい!」
どうやらアイスは行ける口みたいだな。
異世界人が、というよりもエイルさんがどういう好みなのか分からないから試してもらうしかない。
でもまあ鉄板は行けるような気がするんだよなー。あと食べ過ぎてお腹を下さないように注意しないと。
「そのアイスは食べ過ぎるとお腹が痛くなるので気を付けてくださいね」
「えっ……!?」
「さすがにそれ一個は大丈夫だとは思いますよ。体が冷えるのはあまりよくないですからね」
「な、なるほど……禁忌の食べ物ということですか……」
「まあそういう感じですね。リスクがあるからこそ食べれるものがあるということです」
現代の食べ物はそういうものが多いからな。お菓子とか。
でもそれは食に肥えた人類にとっては通るべき道だと思っている。仕方がないことだ。
アイスを食べ終えて頭が痛くならなかった様子のエイルさん。
「じゃあ次行きますよ」
「はい」
続けて紹介するのは料理には欠かせない火を使う場所。
「これはIHコンロ。食材を加熱するためのものです」
「加熱? こ、これから火が出るのですか……?」
「火は出ません。電気が流れることで加熱されるようになっています」
「電気というのは……?」
「雷のことですね。電磁波とか雷を含んだものを電気といいます。まあ要するにこれは火を使わずに安全に加熱できるということです」
「す、すごいですね……!」
そういう反応が見たかったんだよ。俺が説明したことはほぼ分かってもらっていないんだろうけど。
「でもこれは火が出ないですから直接加熱みたいなことはできません。専用の器具じゃなければ使えないところが欠点ですね」
「それでもすごいです」
かなり目を輝かせているエイルさんがまた面白く思えてしまう。
「あとこれは電子レンジ。簡単に温めるためのものです」
「簡単に?」
「この中に温めたいものを入れて分数を指定すれば自動で温めてくれます」
「そ、そんなことが!?」
「でも本格的に温めたいのならコンロを使う方がいいですね。向き不向きというものがありますから」
「……すごいです。用途を細かく分けて使い分けるなんて……」
現代人の俺にとっては当たり前でも異世界人のエイルさんにとってはそう見えるのか。
「あとで使い方は教えます。次はリビングに行きましょう」
さて次なるものは大本命でどんな反応をするのか楽しみなものだ。
リビングで説明するものはテレビくらいしかない。
あぁ、そう言えばドライヤーとかもあった方がいいか。一応後で説明して使うかどうかはエイルさんの判断に任せよう。
他はゲーム機ならあるけどそれはエイルさんの興味が向けばだな。家電ではなさそうだし。
あー、前の世界で今話題のインディーゲームがやりてー。あれってネットでしか発売されていないから買えないんだよなー。
それはさておきエイルさんの反応を楽しもう。
「リビングはこれです」
「これはいったい……?」
「これはテレビです」
「鏡、ではないのですね」
「違いますよ」
まあ反射はしているからそういう風に見えなくもない。
「今からこのテレビを使ってみますね」
俺はリモコンでテレビをつけた。
すると今の時間帯では午後のドラマをやっていて、殺人事件が起こった現場で刑事たちが現場を見ている場面だった。
「ひ、人が倒れて!」
それを見たエイルさんはテレビに手を向けて光を出した。
淡い光で優しい光。たぶん聖女の力……聖女の魔法か。治癒魔法だな。こういう感じなのか。
魔法を見るのが初めてだからもう少し見てみたいがさすがに止めなければいけない。
「エイルさん、これは劇です」
「げ、劇……し、しかし……これほど鮮明で……人が入っているとしか……」
エイルさんは信じられない感じでテレビを見ていたからドラマは場面転換する。
「このテレビというものはテレビ局という発信源から送られてくる情報なんです」
「……ここに閉じ込められているわけではないんですよね?」
「そうですよ。壊しても意味ないですからね」
そんなことはしないとは思うが一応言っておく。
そしてエイルさんはテレビの裏を見るという感動する行動をとってくれた。
もうこれはあれだな。テレビで猿や犬がどういう反応をするかみたいな企画を見ている感じで面白い。
別にエイルさんをバカにしているわけではないからこう思っても大丈夫だろう。




