3話 商談内容が無茶振り
『拝啓、アグノリアス・オーラム様。陽の光が照り付ける昨今、作物の実りが良く、市場に活気が溢れております』
(それ、僕に関係無いよね)
『アグノリアス様も、良く分からない物を売らず、そう言った作物などを売れば、人並みの生活が出来るのではと、進言致します』
(あれっ? 僕、手紙で嫌味言われてる?)
『さて本題ですが、中央大陸にある小国、ウェスベルドのサリア姫より、商談の申し出が御座いました』
(しっ、商談相手の名前出すとかっ……超絶厄介商いじゃんか! そんなん僕に回すなよ!!)
『国を麻痺させ、隣国オームウェルの属国となる様、取り計らって欲しいとの事』
(小国と小国を混ぜろと!?)
『貴女なら出来ると、信じております。商業ギルド長、パネラム・ゼスタより』
ガタガタと揺れる、馬車の荷台で寝そべり、商業ギルド長からの御手紙を、何度も何度も何度も何度も読み返す。
「……超絶厄介商い乙っ」
この商談、小国を大国の属国とするよりも、遥かに手間暇がかかる、厄介商い。しかも、商談相手の名前出し。
(あのババアっ、僕に押し付けやがったな)
腐った小国を潰すのは、正直簡単だ。
その国の商会を乗っ取り、物流を停滞させ、他国とのバランスを崩せば、あっと言う間に内部崩壊を起こす。
死に体の国で有れば有る程、楽に進む。
後は、影響力の有る者を諭し、大国との交渉を進めさせ、着地点を誘導すれば、完了。
(肝は、大国との交渉と言う、重要な旗振り役を、真面な人にやらせる事だ)
真面な者程、現実を見る。
このまま国が弱体化し、いざ戦となってしまったら、属国どころの話では無くなると、そう思わせる。
(そこが一番、疲れるんだよなぁ)
真面な人は往々にして、頑固。
本当に頑固。
表情筋で分かる程に、頑固。
但し、一度信頼を得れば、今までの苦労は何だったのと、言わせんばかりに、こちらの言う事を聞いてくれる。
「今回は、小国と小国……」
ウェスベルド王国、オームウェル王国共に、中央大陸に残る、数少ない小国である。
この2カ国の周りを囲む様に、東西南北に大国が存在しており、絶妙なバランスで均衡を保っている、地理的にも厄介な国。
(ウェスベルドを、オームウェルの属国に……となると、大国を一つ増やせと?)
「無茶言うなっ!?」
「お客さん、どうされたんで?」
僕の声にビックリして、御者の爺さんが、心配そうに声をかけて来た。しかもその顔、『面倒な客を乗せたなぁ』とか思ってる顔だ。
「何でも無いよ。前見て前」
(先ずは、情報収集からかな。出来れば2カ国共、中身が腐ってて欲しい)
2カ国の腐った部分を取り除き、真面な者どうしを組み合わせ、あっと言う間に商談成立。
それが出来れば、どれ程楽だろうか。
事はそう単純では無い。
何故小国が、大国に囲まれながらも、未だに存続出来ているのかを考えれば、分かる事だろう。少なくとも、両国の外交官は腐っておらず、世渡りが上手だと言う事だ。
(ならば何故、ウェスベルドの姫が、オームウェルの属国になどと、商談を持ちかけたのか)
最良のパターンは、ウェスベルドの内部が腐っていて、国の先行きが地獄と悟った、姫からの商談で有る事。
それで有れば、いくら外交官が真面でも、幾らでも付け入る隙は有る。
最悪のパターンは、姫の道楽。又は、御乱心であった場合だ。
その場合だと、姫以外の者達は優秀であり、どの様な手段を講じようとも、付け入る隙は皆無であろう。
(最良と最悪は、こんなもんかな。幾つかのパターンを予想して、身なりはどうするか……)
商人は情報が命。何故なら、その情報の正確性でもって、商いをするのが"商人"だから。
ならばどうやって、その情報を集めるのか。
その場所に、溶け込めば良い。
その場所に呑まれたら、一巻の終わりだけど、そうしなければ、情報は手に入らない。
勿論、時と場合によるけどもだ。
(期限は一月……それ以上かかると、失敗だね)
商業ギルドの裏の商いには、明確な期限が定められている。その期限を過ぎると、自動的に商いは失敗。今後一切、裏の商談を受ける事が出来ず、露店の損失を補う事が、出来なくなってしまう。
「ぬぐぅぅぅっ、それは嫌だぁぁぁっ」
荷台の中を、頭を抱えて転がっていたら、御者の、物言いたげな目線が飛んで来た。
コホンっと咳払いをして、座り直す。
(ギルドを確認して、市場調査から始めようか。出来ればっ、楽な商談でありますようにっ)
今まで一度たりとも、楽な商談は無かったのだけれど、祈らずには居られない。
何に祈るのかって?
商売の神様にだよっ!!




