2話 金欠だから仕方が無い
『号外号外っ! 小国パルシムスがっ、大国ダートの属国となったぞーっ! 号外だーっ!』
そんな元気な声を聞きながら、今日も今日とて、閑古鳥が鳴いております。
そりゃあね、露店の前で、号外配りなんてされたら、お客さんこっち見ないよね。
(このブン屋……蹴り飛ばそうかなぁ)
そう思ったけど、止めました。
ブン屋が居ようが居まいが、僕の露店は毎日毎日、閑古鳥さんいらっしゃーい。
ここは巣じゃ無いよ?
あっ、居心地が良いんだね。
(飛んでけーっ!)
飛んで行かない閑古鳥。
こんなにも、良い商品を取り揃えているのに、誰も彼もが素通りです。
「看板娘が居るんだよ♪」
(あっ、来そうだった客が逃げた……解せぬ)
眩く輝く銀髪ロングに、同じ色の瞳を持つ、超絶美少女ちゃん。そんな僕の笑顔を見て、何故逃げるのだろうか。
(可愛い過ぎて、近寄り難いのか?)
町行く人を眺めて、ぼーっと胡座をかく。
人、犬顔、人、豚顔、人、馬顔と、多種多様な種族が行き交い、時間潰しには丁度良い。
商業国家バナチスタ。
海に面した大国であり、このバーツ大陸において、各国間との協定で唯一、不戦が約束された国である。
だからこそ、町行く人は皆安心して、笑顔で商売に励み、更にこのバナチスタを、繁栄させるのである。
「僕は繁栄しないけどね♪」
(あっ、また逃げられた……)
このままだと、今日のお昼代が稼げ無い。
またお昼抜きで、夕飯に雑草かな? 朝も雑草食べたんだけど、可笑しいよね。
(昨日も雑草だったし、そろそろ何か食べないと、お腹の虫さんが煩いなぁ)
何か無いかなと、鞄の中を確認したら、一月前に買ったであろう、若干変色した、干し肉のカケラを発見した。
(むぅ……お昼これで良いや)
念の為水で洗い、口に入れて、飲み込まずにひたすら噛む。
(若干塩が薄れてるけど、十分満足!)
それをモグモグと咀嚼していたら、遠くから見知った顔が走って来る。しかもなんだか、怒り顔だし。どうしたのだろうか。
「リアスっ! また変な物食べたでしょ! お腹痛くなるから、吐き出しなさい!」
(あんたは僕のオカンなの?)
「聞いてるのっ!」
「聞いてるよポポン。食べたのは、普通の干し肉だから、大丈夫だって」
「そう言って前にも、腹痛で寝込んだじゃない。リアスの大丈夫は、信用出来ないわ」
このオカン臭漂う女の子は、ポポン。商業ギルドの受付嬢で、立派なモフ尻尾を持つ、犬人族と人間のハーフだ。
「そんな事言われても、お昼代無いから、食べるしかないじゃん。それに、干し肉最高よ?」
「こんな場所に露店だしてっ、売れる訳無いでしょ! もっと場所を考えなさいよ!」
ポポンがこんな場所と言う理由が、僕の背後に聳え立つ、何とも大きな建造物。
壁の高さは五メートル程で、その上に、棘付きの鉄線が巻かれた、何とも物々しい場所。
「一応ここって、名所じゃん」
「収容所を名所扱いしないの! ご飯ぐらい奢るからっ、早く片付けなさい!」
「ほんと? やっぱり辞めたは無しね? ささっと片付けるから、少し待ってて!」
ポポンが辞めたと言い出す前に、ささっと商品を鞄に直して、シートを丸めてそれも入れ、準備完了しました。
「……こう言うのは、相変わらず早いのね」
「ほらっ、ポポンの言う通り片付けたんだから、お昼ご飯お願いね?」
「分かってるわよっ」
「お母さんや、お肉が食べたいなぁ」
「私はリアスのお母さんじゃ無いっ!!」
お母さんじゃ無いって、言ってる割には、尻尾が嬉しそうに揺れてる。
(オカン属性……本当に付いてそうだよね)
そんな事を思いながら、尻尾振り振りのポポンの後に続き、ついでに尻尾をモフり、中央街へと足を運んだ。
商業国家バナチスタ首都、ナザーンは、三つの区画に分かれている。
海に面した、港街。
居住区や飲食店、雑貨が建ち並ぶ、中央街。
んで、僕が露店を出していた、ナーザンを守る為の色々が集まっている、守衛街。
(僕……中央街って、苦手なんだよねぇ)
「何か言った?」
「ポポンがお昼に、何を奢ってくれるのかなぁって、思ってただけだよ」
「リアスの好きな、ボアッシュのステーキだよ」
(ボアッシュのステーキっ、嫌な予感がする)
ボアッシュのステーキは、大好物だ。
ひと噛みする度に、口いっぱいに広がる肉汁と、さっぱりした香辛料の香りが合わさって、お金が有るなら、毎日でも食べたいくらいの大好物。
(でも、ポポンがそのお店を利用するって事は、多分そう言う事なんだろう……)
そう、ボアッシュのステーキは、高いのだ。
肉の切れ端でさえ、銀貨七枚もする、特別な日にしか、食べられないお肉。
ポポンの様な受付嬢が、おいそれと奢れる代物では無く、そこには、ある者の意思が、介在している。
「ポポン……若しかして、ギルド長から?」
「バレちゃった……リアスにお手紙渡すついでに、二人で食べて来なって、お小遣い貰っちゃったの。良く分かったね!」
(あのババアっ、毎度毎度あの手この手で、商談持って来やがってっ!!)
僕が中央街を苦手とする理由は、簡単。商業ギルドの本部が、居を構えて居るから。
露店、実店、何某らの取り引きをする場合は、必ず、商業ギルドに登録しなければならない。もしコレを怠ったら、あの棘鉄線の中へ、行ってらっしゃいになる。
勿論僕も、商業ギルドに登録している。
あのババアの、首輪付きでね。
「ほらっ、あそこのお店だよ」
「宿に……帰りたい」
「だーめっ! ちゃんと御手紙渡さないと、私がギルド長に叱られるんだから!」
(前の商談終わって、まだ二日よ? あのババアっ、僕を過労死させる気なの?)
嫌な顔を前面に出しながら、店に入り、ボアッシュのステーキを頼んで、ポポンから御手紙を受け取った。
その御手紙を懐に仕舞い、ステーキを待つ。
「ギルド長からの御手紙、今見ないの?」
「ポポン。今はお肉にっ、集中させてっ」
「何で泣きそうな顔!?」
(それはねポポン……毎度毎度金欠だからって、あのババアが持って来る商談がっ、大変だからだよっ!!)




