1話 貴方のお国はハウマッチ
僕の手には、一枚の硬貨。
金貨と言う物だ。
この国で、独り身ならば、一月は贅沢に暮らす事が出来るだろう、この硬貨。
(あっ、落としちゃったーっ)
コレを道端に落としたら、どうなるか。
それを見た者は、老若男女問わず、我先にと殴り合い、罵り合い、奪い合う。
たかだか硬貨一枚で、愚かな事だ。
確かに、その落ちている硬貨一枚で、価値有るモノと交換出来るけど、命を賭けて奪い合う程の価値など、その硬貨には無い。
そもそもが、国が無くなれば、そんなモノはただの鉱物であり、価値あるモノと、交換出来なくなってしまう。
そう思いながら歩いていたら、落とした硬貨が、コロコロと転がって来た。僕はそれを拾い、ゆっくりと懐へ仕舞う。
(お帰りなさい、硬貨さんっと)
それを見た者達は、何が起きたのかも分からず、ただ呆然としていた。
これが、この国の現状。
勿論、落とした硬貨を、親切にも渡して来る人が、居るかも知れない。でも、こんな国で、そんな事が出来るのは、ある意味どんな存在よりも、恐ろしい存在だろう。
(居たら居たで、面白そうだけど)
こんな国に、何をしに来たって? とっても面白くて、楽しい事をやりに来たんだ。
僕は商人だからね。
これでも結構、裏では有名なんだ。
表ではどうなのか? ただの貧乏商人だね。
お陰で、表の商いの補填をする為に、裏の商いを、せざる得無い状況さ。
商品が見当たら無いって? そんなモノは、全て鞄に入ってるよ。偶然手に入れた物だけど、これこそ正に、価値ある物だろうね。
(……脳内一人芝居乙)
異臭がする通りを抜け、豪華な屋敷が建ち並ぶ先に、一際目を惹く城の様な建造物。
(アレが、ラルラリマ城ねぇ)
門番に、身分証と紹介状を見せ、そのまま何事も無く、歩いて行く。
(徒歩徒歩健康、お腹が空いた)
さて、ここで問題です。遠くにお城が見えますが、僕は一体、何故そこに、向かっているでしょうか。ヒント、僕は他国の人間です。
(ヒントになって無いかな?)
そうこうして居る間に、城門に到着。
再度門番に、身分証と紹介状を見せ、今度はメイドさんに先導され、城の中の待合室へと、案内された。
城の中は、城下とは全くの真逆。
待合室ですら香が焚かれ、部屋の中の壺、絵画、燭台、壁紙、絨毯と、全てが一級品。
(これだけで、人生5回は、遊んで暮らせるなぁ。羨ましい生活してるね)
だからこそ、僕はこの国に来た。
僕は商人だから、勿論商売のお話だよ。
そろそろ理由を教えろ? 問題の答え合わせは、もう少しで出来ると思うよ。
(ほら、僕を呼びに、誰か来たね)
今度はメイドでは無く、槍を持った衛士に先導され、見事な扉の前に立たされる。
中世に良く有る、まるまる様おなーりーっと言う御決まり文言であろう。
『アースノー国商人っ! アグノリアス・オーラム嬢っ! 御到着に御座います!』
あっ、因みに僕は、女の子ですよ?
僕っ子属性付いてます。
商人ですから、ベストにズボンを履いているだけで、可愛い可愛い女の子です。
(っと、脳内芝居している場合じゃないか)
重たい扉が開き、ゆっくりと前へ進む。
両脇には、この国の膿と言うか癌と言うか、無駄に着飾った貴族達が、こちらに目を向けては、口元を隠し、笑って居る。
(地獄の縁へようこそ♪)
ここに集まった貴族達は、何故僕がここに来たのか、理由を知らされていないのだろう。
着ている服に価値は有るが、中身はただの、肥え太るしか脳が無い、価値無き肉団子達だ。
(ここら辺かな?)
王座の前で立ち止まり、右膝を床に付け、右手は背中へ回し、頭を下げる。
誰に頭を下げてるのかって? 勿論、この国で一番愚かな"王"にだよ。
『アグノリアス・オーラム嬢。頭を上げよ』
ゆっくりと頭を上げ、王座に腰掛ける、痩せ細った見窄らしい王を見る。
他の貴族達とは違い、見るからに苦労人と言った、風体の王ではあるが、あそこの膿や癌を増長させた、愚かな王であるのは間違い無い。
『何故、他国の者で有る筈のお主が、我の前へ現れたのだ。発言を許す、答えよ』
はいっ、ここで答え合わせ。
僕が何故、こんな国まで来たのでしょう。
その答えは簡単だよ。
だって僕は、商人だから。
「お初にお目にかかります。滅びゆく泥舟の王、パルシムス3世。つきましては、この国を買取りに、参りました」
(商材を、仕入れに来ました!)
滅びゆく小国を買い叩き、他国へ高値で売り付ける商人、アグノリアス・オーラム。またの名を、『国狩り姫』。
彼女に狙われた国は、僅か一月で崩壊し、大国に押し潰され、滅亡する。
小国であるパルシムスが、大国に呑まれたと言う情報が流れたのは、アグノリアスが謁見してから、丁度一月後の話であった。




