8 回想(2)
そんな華とは裏腹に、私は今まで触れることもなかった世界の過酷さを身をもって知らされていた。
「お前は服もまともに着られないのか!死人以下だぞ!指導してやるから、100周走ってこい!…ああ、あのクソみたいな早歩きは走る、なんて言わないからな!」
ハハハッ!と下卑た笑い声が背中を殴りつける。
『生まれてから今まで「走る」なんて行為をしたことがなかった。それなのに、なぜあのような屈辱的なことを言われなければならないの』とあの時は本気で思っていたが、私のなけなしのプライドが、淑女としての矜持が必死に言葉を留めていた。
代わりに上官だろうとお構いなしに睨みつけ、何度も何度も殴られ、蹴られ、士官学校時代の私は体のいいサンドバッグだった。
雨水でぬかるんだ校庭に蹴り出され、泥水を啜らされ、意識がなくなるまでサッカーボールとして蹴られた。
私の取り柄はそれしかないのだと、何度も、何度も分かるまで暴力を振られた。
前歯が2本欠けた。
肋骨にヒビが入った。
瞼が開けられないほど腫れた。
髪の毛を毟られた。
指の骨を折られた。
そんなことがあるたびに私は「諦める」という選択肢を覚えた。
朝食を食べるのを諦めた。
殴られるのを諦めた。
蹴られるのも諦めた。
難癖をつけられて走らされるのも諦めた。
服を破られたのも諦めた。
父に言いつけるのも、母に泣きつくのも、全部、全部、何もかもを、諦めた。
そして先輩の卒業兼出征祝いとして輪姦された後、私は1度目の自殺未遂を起こした。
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