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ニア軍曹は全てに使われ絶望する〜人造兵器の適合者の末路〜(旧題:愚かな望みの終焉〜ニア軍曹は縋りたい〜)  作者: 朝倉 ねり


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7 回想(1)

 これまでの人生で何回死を意識し、直視したことがあっただろうか。


 始まりは、前大公夫人であった祖母の死だった。


 祖母は(わたくし)が物心つく前に死んだ祖父の跡を継いだ父が仕切る大公家の中で、多大な影響力を持っていた。

 それこそ、宮廷住まいをしていて領地にほとんど帰れぬ父よりも、そして新たに女主人となった母よりも。親戚や使用人に対する影響は大きかっただろう。


 明らかに年の功であり、祖母がそれだけ苦労してきた長年の実績の成果だった。

 けれど、祖母が手にすべき当然の成果は、当主でないというだけで波紋を呼んだ。


 領内の部下達はどちらにつくか腹の探り合いをし、城内の使用人たちは前女主人の優れた手腕を当然、私の母にも期待した。


 父はそれに辟易したのだ。

 貴族らしく流行り物が好きな父は、最近流行りの香辛料だと偽り、最近流行りのアヘンを祖母の料理に少しずつ混ぜた。


 それからは早かった。かつて気丈だった祖母は、アヘンがないと活力が生まれない体になった。


 父は料理に混ぜるアヘンの量を少しずつ増やしていたが、祖母が「もっともっと」と言うので遂にはワインにも、葉巻にも入れられた。


 ハーブが好きで清涼感のあった祖母の部屋の空気は、一日中紫煙に溢れ、アヘンと煙の匂いが充満していた。


 麻薬というものは、初めは素晴らしい夢を見せてくれるとしても、すぅっと消えるから倍欲しくなる。

 部屋の隅に巣食うネズミのように、部屋の主人の知らぬ間に驚くほど増えるのだ。


 祖母が部屋から出ない日が、1ヶ月に一度から1週間の内の6日に増えるのに半年もかからなかった。


 その間に(わたくし)は何度か祖母の部屋に行ったが、あまりの煙の濃さと皮だけがふくよかだった名残を残している祖母の小さな体に幼いながら拒絶反応を起こし、それからは会いに行かなかった。



 次に祖母と出会ったのは、祖母が棺桶に入れられた時だった。私が会いに行かなくなってから2年が経っていた。

 葬儀場にいた人間の半数以上の顔には「やっとか」と書かれていた。


 枯れ木のような体になってから、魂が抜けるまで半年もかからないだろうと誰もが思っていたのに、2年もかかったからだった。


 棺に入った祖母は人間だった面影などほとんどなかった。

 この世の醜悪を集めたかのような顔体。


 それでも彼女は満ち足りたような表情で時を止めていたから、それだけが唯一昔の祖母を思い起こさせて、幼い私は泣いた。


 次は領内で流行った伝染病だ。

 下女たちがバタバタと死んだというのを上級メイドたちが噂していたのを、偶々聞いた。

 下女なんて普段関わらないから、すぐに忘れた。


 この2つはいずれも、私の意識では悪夢の続きのような感覚だった。



 そんな私の大きく意識を変えたのは士官学校だ。


 今までの「死」は己の周囲で完結していたが、戦争はそうはいかない。

 敵も味方も上官も一兵卒も、実力がなければ死ぬ。

 実力があっても、運が悪ければ死ぬ。 


 戦術は、父がしていたチェスのようだと思っていた私はあまりにも浅はかだったと知ることになるのもここだった。



 貴族令嬢としての私にとって戦争というのは、ドレスの流行にも、センセーショナルな不倫事件にも、綺麗な別荘地にも関係のないことであるという認識だった。

 関係のないことに頭を割く余裕があるのなら、今まで見たことのない斬新なアクセサリーを作らせて流行を掻っ攫うことの方が有意義だったし、そういう難しい話は男性がやればいいのだという無意識の風潮に呑まれていた。


 あの当時、その思考回路に疑問を持ったことも、ましてや不満を持ったことなど一度もなかった。


 昼に太陽があり、夜に月が出るのと同じくらい当たり前のことだったのだ。


 もう一つ、いわゆる活動家と呼ばれる女性たちは蔑視の対象だったというのも理由として挙げられるだろう。


 淑女だというのに白昼堂々許可も得ずに外に出て、街頭で声高に手を振り上げて演説している姿は、見ているだけでも大変恥ずかしいように思われたのだ。

 私がブティック帰りに見た時の彼女らは、政治の話を女にも振るよう要求していた。


「なんて恥知らずの女たちなんでしょう。あんなだから立派な伯爵様にも見捨てられて。」


 当時私の侍女をしていたメリンダはそう言って眉を顰めていた。


 私の周囲の人は皆そう言って顔を顰めたから、私も、あの女性たちは家の洗濯女中と同じ扱いなのだろうと思っていた。


 そんな漠然とした差別は、私が大公家の一族として『国民の見本』と煽てられてC.H.R適合検査を真っ先に受け、そして「適合した」と言われてから急に扱いが変わった。


 戦場に出ることになる私を、淑やかなままではいられなくなってしまった()()()()を認めるために、様々な美辞麗句が作られた。


 戦地で働く看護師は「白い妖精」、活動家の女性たちは「活力ある立派な女性」、そして女性兵士は「花形の職業」と言ったように。

閲覧いただきありがとうございます。

8話目が短いので、この後すぐ出します。

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