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ニア軍曹は全てに使われ絶望する〜人造兵器の適合者の末路〜(旧題:愚かな望みの終焉〜ニア軍曹は縋りたい〜)  作者: 朝倉 ねり


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6 暗転と病室

 それからはこの世の地獄というほかなかった。


 アレクサンドル中佐は(わたくし)を両の拳で殴り続け、アリオンとマイロはそれを黙認していた。


「は、やく!…言え!…言えと…言っている、だろう!」


 私を殴る手を止めずに中佐は幾度となくこう言った。

 だが、私は呻き声の他は何も言わなかった。

 泣いて許しを乞えば、これからどういう扱いを受けるかは瞭然だったから。


 弱さを見せれば体のいいサンドバッグになる。

 昔士官学校で学んだことを思い出す。


 私が何も言わないことに苛立って中佐はまた殴る。

 私の片目は腫れ、全身がじんじん、ガンガンと痛みを訴えている。

 幼い頃から大事にしていた白い肌。


 士官学校に通わされてからは日に焼けて赤みが差し、荒れてしまった私の肌。


 今は()()紫色になっているのだろうか。


「ぅ…っあ゛、」


 仕上げとばかりに鳩尾に一発入れられる。霞んだ片目で見えたのは、上気した肌と振り乱した髪を持つ中佐と、みじろぎもしない人外2人だった。

 そして何より、アリオン以外は、笑みを浮かべていた。


(ああ、失敗してしまいました)

 変に反抗しすぎたから、アレクサンドル中佐にサンドバッグにされるかもしれない。


 そう思ったものの流石に意識を保っていられず、舌に血を感じながら私は意識を手放した。




 次に私が目を覚ましたのは、看護テントの隅の粗末なベッドの上だった。


「……ぁ、」


 上手く声が出ない。上手く手足を動かせない。


 もどかしさを抱えていると、衝立で見えなかったざわざわとした空間が、急にこちらに向かって口を開けた。


 見ると、看護婦のローラだった。


「ああ、起きてたんですね。治療してるんで動かないでください」


 おざなりな口調で私に安静を促す。


「はあ…あなた、馬鹿ですよ。あんまり深いことは知んないけど、アレクサンドル中佐に反抗したんですって?…もう作戦始まっちゃってますよ、軍曹。」

「…ぁ…れが、」

 言葉はほとんど声にならなかったが、ローラは正確に汲み取ったらしい。

「ああ、マイロ様ですよ。今回の指揮官は、マイロ様に急遽変更されたらしいんです。マイロ様は戦闘用の生命力が得られないから、戦場に出ない代わりに人間の兵士達を統率しているんですって。」


 痛みの走る顔を無視して、勝手に自嘲の笑みが浮かぶ。


 適合者に意識が無いと生命力の供給が出来ないことを忘れていた。

 結局要のマイロは出られなかったじゃないか。

 アレクサンドルのせいで。


「…そぅ」

「あたしもあなたにばっかり構ってられないんです、まだ始まったばっかりなのにもうたっくさん負傷者が出てるから。」


 この看護師は、ハキハキというよりは言葉を吐き捨てるように喋る。


「いつもの倍?…ううん、3倍くらい運ばれる人が多くって、運搬車もパンパンなんですから。」


 ここでローラは急に声を潜めて言う。


「…軍曹様が女なんて思っても見なかったんです。それでこれは、女同士のよしみで喋るんですけどね、文字通り人使いが荒い、って言うんでしょうかね、マイロ様は。人を大勢いるアリだとしか思ってないんでしょうよ」


 そんな調子で私にまくし立てながらも、仕事をこなしていくローラ。


 ローラは、うんざりするような忙しさを喋ることで解消しようとしている。

 どのみち私は喋れないし、私の世話を焼いてくれる彼女に下賜できるものは私に話を聞かせる権利くらいしかなかった。


 ああ、またこんなことを考えている。下賜、だなんて。好きなようにやらせる、させてあげる?べきだというのに。



 くだらないことを思考するしか出来ない時間。


 その間にローラはテキパキと私や運ばれてきた兵士達の怪我の治療をしていった。


 今まで侍女や上級メイドに身の回りの世話をさせることになんの抵抗もなかったのに、士官学校に行ってから考えが少し変わった。


 自分の身の回りの世話も出来ない私はとてつもない無能、なのだと。


 戦場では、良くも悪くも能力主義だ。

 使えるものは昇進する、使えないものから死んでゆく。

 必然、何かが強い者ばかり残っていくから、余計に能力主義が加速する。

 そんな中で侍女に任せきりにしていたから服すらまともに着れなかった私は、明らかに弱者だった。


「はーい、終わりましたよ。…貴女をここまで運んで来るよう指示を出したのは、アリオン様なんですよ、軍曹様。そうじゃなきゃ放っておかれたって言うんですからね」


 言外にアリオンに感謝しろと言う意味を含ませて、ローラはよっこいせと衝立を開閉して出ていった。

 どうやらアリオンに買収されているらしい。


(放置、されると思っていました)


 痛くて、痛くて、どうしようもなかった。

 ここまで酷い暴力は、ボタンが止められなくて遅刻していった時の士官学校時代以来だったかしら。


 なんて思ったけれどそれよりも。


 ただ、一つ。


 気絶する寸前に真っ白にスパークした視界は、私にある印象を残した。



 これ以上の力を加えられないと死ねない、と。

閲覧いただきありがとうございます。

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