5 矛先
私が敬礼を終えるかどうか、という辺りでアリオンのマスターであるアレクサンドル中佐がやってきたため、会議が始まった。
作戦会議と名づいてはいるものの、C.H.Rが全てやればいい。
人間の兵士達はC.H.Rが壊滅させた敵地の後処理
やC.H.Rが派遣できないところに向かわせる。
ということを確認するためだけの薄っぺらいものだ。
すぐに会議というのは建前の、無理ある作戦の押し付けが終わる。
無理ある、というのがあくまでも一般兵にとって、という注釈がつくことくらいは私も学んだ。
敵も味方もC.H.Rを使う。
C.H.Rの登場によって、戦争はヒトでは勝てない代物になってしまった。
強い武器にはより強い武器を。C.H.RにはC.H.Rを。
水の掛け合いのようなしつこさはまもなくぬかるんで、泥試合を生み出した。
「つまり、次の作戦の要はお前だぞ、第3軍曹」
アレクサンドル中佐がもったいぶった口調で言う。
次の作戦で重要なのがマイロだからだ。
マイロがしくじれば、我が軍は勝機を失う。
「心してかかります。我が軍の勝利のために。」
彼が気にいるであろう言葉を投げかける。
気に入られすぎては支障が出るから、ある程度に抑えながら。
まあ、最近の中佐の趣味は年若い兵士達だと聞いたから大丈夫だろう。
他人に気に入られるために何か行動を起こす、というのは久しくしなかった行動だった。
私の場合は逆に、気に入られようと必死に縋ってくる蠅を侍女達がはたき落とすのを、ぼうっと見ていただけだったから。
母や父にしかしたことのない行動を、見知らぬ他人にするというのは、中々に新鮮な気分だ。
「ねえ、B」
涼やかな低音が、私の脳を揺さぶった。マイロだ。
彼に目線を投げかけると、マイロは何を思ったのか、いつも貼り付けている笑みをさらに濃くした。
「まだ動きの硬い貴女には任せられないから、俺が貴方に命令を出す。貴方はそれに頷いて動くだけでいい。それでいいね?」
わずかに体が硬直する。
嫌悪感が胸から溢れ出してしまいそうだ。
私を認めない、だなんて。
「…ざけるな」
「うん?何か言ったかな?」
絶対に聞こえているはずなのに、彼は笑顔で聞き返す。
こんなに人間臭く作らなくて良かったのに。イライラする。
「……C.H.Rかつ実戦経験も豊富な貴方が言うのなら事実だろうが、あいにくと軍曹は私だ。その提案は受けかねる」
言外に、お前はただの道具でしかない。
そう滲ませる。
「ふーん、じゃあ俺は出ないよ」
誰も言葉を発さない耳の痛すぎる静寂。沈黙はのちの動きが大きければ大きいほど、決定的な空白を生み出す。
「そ、それは困るぞマイロ殿!!」
空白を突き破る中佐の大きな声。
「貴殿の力がなければ我が軍は……いや、バルックハーゲン!」
「…………はい。」
「貴様がそのような駄々をこねるからこんなことになったんだ!ゴタゴタ抜かしてないでさっさと受け入れろ!生意気な女だな!!」
「……それは、私の指揮が蔑ろにされるという話でしょうか」
「論点はそこじゃあないぞ!このノロマが!」
ビリビリと鼓膜が震える。
『もしかしたら、今がチャンスかもしれない。』
天使と悪魔が同時に囁いてくる。
先程戦場に出るまでは死ねないと思ったが、今のアレクサンドル中佐の覇気。
あれならば、死んでやっても良いかもしれない。
(無意識に出る傲慢な考え。)
(どこまで度を越せば、私は中佐が腰に佩いている、あのサーベルでめった斬りにされるのでしょうか)
中々了承しない私に苛立ったのか、中佐が拳を振り上げて猛然とこちらへやってくる。
「……ころされる。」
ほとんど吐息だけの言葉を吐く。
ニアの無意識に上がった口角を見たものはいなかった。
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