3 大公女
C.H.Rのマスター(適合者)というのは貴重な存在だ。
C.H.Rは、マスターの莫大な「生気」と引き換えに敵を一網打尽にし、戦果を挙げてくる物だが、生気があれば誰でも良いというわけではない。
詳しいことは研究者に聞かなければならないが、なんでも「適性」があるらしい。
血液採取による適性検査で分かる、と担当者に聞いた。
そして、件の「生気」をC.H.Rのエネルギーに変換する技術はver.を改めるごとに良くなり、最新型であるver.8のモデルでは、24時間の作戦目一杯動いても、削られる生気はたったの一食分らしい。
アリオンはそのタイプで、逆に私のC.H.Rであるマイロは、ver1.3といういわば古兵なのだった。
だから、変換効率の悪い彼が1時間動くためには、私の生気を12時間分奪わなければならなかった。
そして、生気が無くなれば適合者は死ぬし、C.H.Rは動かなくなるという訳だ。
なんと合理的なんだろう。
C.H.Rの中でも黎明期の機体のマスターである私を含めた者達は、そのあり方故に中々昇進できないものだ。
誰が好き好んで、短命が約束されている者に地位を与えるというのだろうか。
「戦場での命の価値は皆等しく軽い」とは言うものの、運が良ければ生き残れて手柄も挙げられる一兵卒と、大きな手柄の代償に長くは生きられない最初期C.H.Rのマスター。
どちらが昇進しやすいかと問われれば、間違いなく前者だ。
これが最新型、つまりはver.8台のマスターならばまた違ったのだ、私の上司であるアレクサンドル中佐のように。
それなのに、まだ若く実戦経験も僅かな私を軍曹という地位にまで押し上げているのは、ひとえに私の、私の家の「大公家」という地位だけだった。
(蛇蝎の若く嫌っていたと言うのに。)
けれど、あれほど毛嫌いしていた爵位のおかげで、私は少なくともこの戦場で『女』である限り意識せざるを得ない『貞操の危機』から身を守れるだけの上官という地位を手に入れた。
「皮肉だ」と自虐できるほどの後味の悪さは残っていなかったが。
それに、私がパスを繋いだのは“あの”マイロだ。マスターを生かさず殺さずのギリギリまで、秒単位で活動時間を管理し、歴代のマスターの死因は必ず「名誉ある戦死」だというあのマイロの。
部下の手前言う事はないが、この戦争が終わってほしくないと毎朝神に願っていた。
(私は敬虔なクリスチャン。
だというのに、無益な人殺しを肯定してしまうのは私のエゴで、罪だ。)
この戦争を生きて帰ることになれば、私に待っているのはまたあの飼い殺しの日々だ。
貴族の中でも最上位に位置する大公家の娘。それが私の地位であり、唯一の価値。
そしてその価値を無くそうとする者はいないから、私は貴族令嬢に戻って…修道院にでも入れられるのだろう。死ぬことも出来ずに。
生きて帰る勝算が高いと睨んでいるのは、“C.H.R適性”をもつ人間が少なく、「生かされる」だろうから。
それと、私の大公女という地位のせい。
植物状態になっても体がボロボロになっても、檻に戻されるくらいなら名誉ある死を。
C.H.R適性のある人間であることを示す書類が送られてきてからそう思うのに、さほど時間は掛からなかった。
このようなことを願えば悪魔が私を地獄へ連れていくだろうが、それでも構わない。
私が欲しいのは、楽園での永遠の生ではなく現在の自由なのだから。
彼は見た目こそ芸術品のように美しい人間だが、本質は兵器だ。道具を道具として使って何が悪いのだろう。ほら、彼自身も言っていただろう?「俺たちは兵器」だと。人を使って何かをなす事は私に、そして私達貴族にとって息をするようなものだろう?
だから、彼を私の死のために利用しようと何の問題もないのだと自らを叱咤しても、何故か心の奥底ある歯切れの悪さは拭えないままだった。
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