20 sideマイロ
マイロ視点です。
彼が思考モデルを使った時だけのものなので、散文に近い。
ver.1.3.8製造番号RZ8-06。コードネーム:マイロ。俺はC.H.Rで、人間では無い。
ただ見た目が人間に近しいだけの『非人間』だ。
ver1.0から始まったC.H.Rは始め、軍事用に使われる意図は無かった。
最初は物好きな貴族の一声だったらしい。
『人間に限りなく近い人形が欲しい』
そう言った貴族の女は好みの人間の男を沢山侍らせていたが、だんだんと飽きてきたから趣向を変えたかったと言う。
趣味の延長で作られたver1.0プロトタイプは、プロトタイプとは思えないほど出来が良かった。
女は夜会にver1.0を連れていき、皆に自慢した。
『私は理想の男を手に入れた』と。
それを聞き付けた目ざとい人間が、軍事転用した。
人間の兵士に紛れて桁違いの戦闘力を持たせた人形を投入すれば、歩兵ばかりだと油断した敵方を壊滅状態に陥らせることが可能なのではないか、と。
そうして出来たのが、C.H.Rだ。
だから、最初期の名残でver1台のC.H.Rは「無駄」が多い。
元々「宝石電池」式だった人形に、戦闘力を積ませるために人間の生命力を使うことにしたのは良かったが、燃費が悪く排熱効率もあまり良くなかった。
人間に似せるに当たって貴族の女の趣味を流用したせいで造形に無駄なコストをかけ、人間が言う「美しい」顔になっている。
思考モデルも淡白ではなく一体一体に個性が与えられ、更に負荷が上がった。
かく言う俺も「皮肉げ」「攻撃的」が追加でインプットされている。
「私のことはB、もしくは第三軍曹と呼ぶといい。」
新しいマスターは小柄な女だった。
昔は俺のような「美しい」顔だったのかもしれないが、鼻は変な角度で折れていたし、口から覗く歯は欠けているものが多かった。目も濁っていて、「醜い」と人間には思われるだろうなという演算結果が出力された。
人間のように外見には興味がある、なんて思考はしていないのでBのことはただの苗床だと思うことにした。
女が殴られている。
アレクサンドルという小太りの人間に跨がれて、滅多打ちにされている。
彼女か必死に声を出さないように、呻き声を漏らさないようにしているのが俺には分かった。
さらに醜くなって意識を失った顔を見て、何故か「淫靡」だと出力される。
こんなにも醜いのに、「美しい」ような気がして。俺は笑みを浮かべることにした。
(面白い人間かもしれない。楽しみだな。)
楽しみだと思っていた気持ちはあっさりと覆された。
女は、色々なものに縋り始めたのだ。
俺は一人でうずくまって、必死に耐えて反抗するその姿が「強い」と思ったから興味を持ったのに。
泣く姿は酷く滑稽で。
ああ、この女はいつか殺そう。そう思った。
Bという女は結局「死」に縋り、「宗教」に縋り、あまつさえ俺に向ける気持ちを「恋心」だと誤認した。
弱い、弱すぎる!こんなのが俺のマスター?
苗床から認識を改めてやったのに、何故ウジ虫のように底辺を這いずり回ろうとするのだ、この女は?
あまりにもつまらない。俺が少し小突いただけで、驚くほど気が弱くなって「縋る」のを止めてしまう。縋るのならば徹底的にすればいいのに。中途半端にも程がある。
死にたいと言ったり、生きたいと言ったり。
俺の思考モデルが出した結論は、『この女は自分にしか興味がない。自分の感情に振り回されるのが好きなのだろう』というものだった。
そのことになんだか無性に腹が立ったから、生命力なんて二の次に女を、バルックハーゲンを撃った。
理由なんてない、ただ苛立っただけ。
女の最期の言葉は「なんで」。
(あんなに死にたい死にたいと言っていたから願いを叶えてやったのに、「何故」だなんて!)
やっぱり今回のマスターは、「いつ死んでもいい」訳ではない、傲慢な腑抜けだったのだ。
稼働が止まる前、最後にそう思った。
『新たな適合者が現れるまで、スリープモードに移行します。』
ここまで閲覧いただき、本当にありがとうございました。




