19 ニアという女
18話で終われなくて申し訳ないです。
描写が拙かったのがとても悔しいので、新たに話を増やしています。
わたくしは、ニア・バルックハーゲン。
バルックハーゲン大公家の三女。
流行りものが大好きなお父様と、宝石に目がないお母様、先日妾が1人増えたお兄様、国外に嫁がれたお姉様が2人いる、なんてことは無い普通の家族構成だ。
わたくしは美しい物が好き。
まず、自分の顔と体。
次に新しいドレスに宝石。
王都で上演される演劇とお菓子。統率のとれた使用人に、整えられた庭園。
わたくしほどでは無いけれど、それなりに美しい顔の紳士淑女に囲まれたお茶会。
わたくしの気に入らないものは全て、両親やわたくし付きの侍女がどうにかしてくれる。
ぬるま湯に浸かったような、愉しくて穏やかで、いつも通りの生活。
そんな生活は、新しい兵器の登場によって打ち砕かれた。
大公家に突然やってきた物々しい集団。
男の人ばかりで怖くて、お母様の部屋に逃げ込んだ。
「ねぇお母様、あの怖い方たちはどなたなの?」
葉巻をスパスパと吸っていたお母様は、わたくしが焦ったようにやってきたのを見て、驚いたように1人がけのソファから少しだけ体を持ち上げた。
「まあニア。走ったのかしら、そんなに汗をかいているなんて。はしたないわよ!」
「……ごめんなさい、お母様。でもわたくし、怖くて。今お父様とお兄様がお話ししている方々は誰なの?何をしに来たの?」
心臓がドクドクとうるさい。なんだか、酷く嫌な予感がした。
「……さあねぇ。お母様もよくは知らないのよ。でもなんだったかしら、新しい武器を作っただかなんだかの人間達らしいわ。大方、旦那様に権利を売りに来たんでしょ。」
「でも、それなら客間に通さないはずよ?いつもならお父様の執務室のはずなのに……」
「そんなに焦って、どうしたのニア?怖い夢でも見たのかしら。18にもなったのにいつまでも小さな子どものようではいけないわよ。」
「……申し訳ありません、お母様。少し気が動転していたみたい。もう大丈夫だわ。」
「あらそう?まぁ、貴女が何に焦っているのか分からないけれど、何かダメになることはないはずよ。安心なさい、うちは大公家なのだから。」
「そう、ね。……失礼しましたお母様。わたくしは部屋に戻りますわ。」
そうしてお母様の部屋から退出して自分の部屋に戻ってすぐ。
「お嬢様。旦那様がお呼びです。」
珍しく、家令がわたくしを呼びに来たのだ。
コンコン。
客間のドアをノックする。先程の人たちはもう帰ったのかしら。
「お嬢様、どうぞお入りください。」
中からドアを開けた侍従越しに沢山の男の人が見えて、反射的に体が固くなってしまった。
1度、深呼吸。
「……お父様、ニアが参りました。」
「おおニア!よく来たな、お前に話があるんだ。」
「……ええと、お父様。それは、この方たちに関すること?」
ちらりと横目でくたびれた研究者達を見る。彼らも、わたくしを見ていた。
「ああそうだ。……おい、説明してやれ。」
お父様がその中の1人に声をかける。分厚いメガネをかけた、青白い顔の男の人。
「は、はい!……ニア大公女。美しい貴方様に拝謁できたこと、恐悦至極にございます。…直答の許可を。」
「ええ、許すわ。」
なんだか、大袈裟な人だわ。少しおかしく思って微笑んだ。
すぐにそんな余裕が無くなるとも知らず。
「ありがとうございます。……単刀直入に申しますが、ニア様に民達の模範となって頂きたいのです。」
「……?」
こてり、と首を傾げたわたくしは悪くないと思う。
「私どもが新たに開発した兵器、名をC.H.Rと言って、とても強い兵器なのです。ですが、その兵器を使うには資格が必要でして……」
「わたくしにその資格があると?兵器なんて、見たことすらないのに?」
「ああいえ!お嬢様にそんなことはさせられません!そうではなくてですね、資格を得るためには少しだけ「血」が必要なのです。ですが、血を取られることに抵抗がある平民も多く……」
「……それは、危ないことなの?」
「いいえ!ほんの数滴で構わないのです。先程資格と申し上げましたが、実の所その兵器は適合した人間しか使えない代物なのです。血を調べて適合すれば兵器を扱える兵士として送り込めます。なので、お嬢様にはその血を取る部分を皆の前で見せて頂き、採血は安全で簡単な手段だと周知して頂ければ……その場ですぐに結果も出るので、時間も取らないということも!」
ああ、つまり研究者達は、わたくしの「大公女」という信頼できる地位を使って、わたくしを「採血は危なくないよ」という広告塔にしたい訳だ。
当主のお父様や次期当主のお兄様には万が一があってはいけないから任せられず、若くて美しく、民に人気のあるわたくしに白羽の矢が立ったということか。
「わたくしに、拒否権はないという事ね。」
「い、いえ、そのようなことは!……ですが、受けていただけると我々としても、大変有難く……」
もみ手をする研究者。
でも、お父様に呼ばれたということは、この時点で既に拒否権は無いということだ。わたくしに許されたのは肯定することだけ。
「……分かったわ。お前たちはわたくしに感謝する事ね。」
「……!ありがとうございます!感謝致しますお嬢様!」
この時、まさかわたくしに適合の兆候が現れるなんて誰も思っていなかったのだ。
数日後、沢山の観衆の前でわたくしは血を抜かれだ。
わたくしの仕事はこれで終わり。そう思ったのに。
薬品を付けたら色が変わった血を観衆の目の前で見られてしまって、「……て、適合者です!」と宣言された。
まさか。わたくしが!?
呆然としているうちに、噂はどんどん広まってしまう。
わたくしは、顔が広く知られていたから逃げられなくなった。
その上、『大公女様も戦争に行かれる!』というプロパガンダに使われて外堀を埋められていた。
あれよという間に「絶対数が少ないから」という理由で丸め込まれ兵士になることが確定し、士官学校への手続きが済んでいて、粗末な小部屋で寮生活をさせられることになったのだ。
これが、わたくしの人生の転落のはじまり。
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