表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニア軍曹は全てに使われ絶望する〜人造兵器の適合者の末路〜(旧題:愚かな望みの終焉〜ニア軍曹は縋りたい〜)  作者: 朝倉 ねり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/20

17 復帰

 前線に復帰した私を、ジョーゼフ少尉は何事もなかったかのように歓待してくれた。


「良かった。戦場は万年人手不足だが、そう簡単に埋められるものではないからね。1人でも帰ってきてくれて良かった。」


 彼は皮肉を込めて言ったのだろうが、あまり笑える冗談ではなかった。


「申し訳ありません、サー。復帰が遅くなってしまって。」

「……マイロも君を待っているだろう。彼は自室にいるみたいだから、復帰の挨拶をしてきなさい。敵方も、それくらいの猶予はくれるだろうさ。」


 果たして彼は私を待っているのだろうか。

 いや、C.H.Rたるマイロに、感情らしい感情を求めても無駄だろう。

 彼は自身で宣告したように、「人ではない」のだから。

 人の真似をした、限りなく人に近いナニカ。



 廊下を歩く。

 以前はマイロの後ろを歩いていたことを思い出す。

 屈辱感に苛まれたのが遠い昔のようだ。


 (わたくし)はもう、自分を縛り付ける爵位やそれに付随する権力・敬意にあまり関心がなくなった。

 関心が無くなった、というのは変かもしれない。

 なんと言えばいいのか、そこまで目くじらを立てるほど敏感で無くなった、ということだ。


 あれだけ「死にたい」と思っていたのに、マイロに屈辱感を覚えたりC.H.R達に気味の悪さを感じたり、無意識に「生」に執着している自分に気づいたからだった。



 (しゅ)にも縋ったのに。


 今の私に残っているのは、いかに自分が理性的な思考ができなくなっていたのかという羞恥心と、後味の悪さだけだった。


 入院時にマイロにぶちまけたことも、今となっては恥ずかしく、今から彼に会いに行くのが憂鬱な要因の一つだった。


 それでも歩みは止めなかったから、すぐに彼の部屋の前に来てしまった。

 僅かに逡巡。

 しかしすぐに、3回ノックをする。


「入って構わないよ」


 ドア越しにくぐもった声が聞こえる。今まで気味悪さを感じていたあの無機質な声に何故か安堵してしまった。

 静かにドアノブを下げて、中に入る。


 マイロは硬いベッドに腰掛けていた。

 特に何をするでもなく、置物のようだった。

 とても精確に作られた陶器の人形に見えてしまうくらい、彼には生気というものがなかった。


 目が、私を一瞥する。

「復帰したんだね、B(ベー)。」


 極めて事務的な微笑み。

 彼の美しい上っ面の軽さは、昔使っていた枕の羽よりも軽そうだった。


「…ああ。明日から戦場に復帰する。貴方1人で戦場に出させてすまない。」

「構わないよ。俺はそっちの方が身軽だからね。…うん、俺の適合者は()()なかったみたいだね。」


 彼は目を細めてうっそりと笑う。


 そんな時だけは、彼にとっては残念なことに『人間らしい』表情だ。


「…ああ。貴方が病室に来た時、取り乱してすまなかった。」

 頭を下げる。頭を下げることに、もう抵抗はなくなった。

 プライドがなくなったのではなく、無駄なプライドを捨てただけ。多分。


 あの病室での生活で最終的に学んだのは「取捨選択をしなければ溢れてしまう」ということだった。


 絶望に打ちひしがれていた時、私は「絶望」という感情を捨てられなかった。

 神に縋ろうとした時、「私は救われる」とだけ思っていた。

 誰にも理解されないことを悲しんで、どうでもいいやと諦めて、全ての時で私は()()()()()()()()のだ。


「生」に執着しすぎた私は、生きることが辛くなるという自己矛盾に陥って抜け出せなくなった。


 そこから(ある意味で)救ってくれたのが、マイロでありジョーゼフ少尉だった。


 だからマイロには――勝手な自分の中の認識だけれど――頭が上がらなくなってしまった。

 彼が私を詰ったのは、詰ると言っても彼にとっては事実の列挙にすぎないし、確かに正論だったが、当時の私には強すぎる言葉達は私の目を覚ますのには十分だった。


「謝るのは、俺に罪悪感があるからかな?謝罪すればその気持ちを打ち消すことが出来るなんて、人間は単純だね。」

 相変わらず涼しい顔で濃い毒を吐く。

 彼は、もしかしたら人間が嫌いなのかもしれない。

 けれど、「嫌悪」という感情は往々にして研究しなければ生まれてこないものだ。

 私の人生より遥かに短い時間しか稼働していない彼がこれほどの毒舌なのには、何か理由があるのかもしれない。


「…貴方は、なぜそんなに毒を吐くの」

 あまりにも短絡。

 勝手に滑り落ちた言葉は、私が無責任に放り出してしまったから部屋に漂うことを余儀なくされた。



 私の問いに、マイロは珍しく表情筋を動かすことを躊躇ったように見えた。

 彼にとって表情とは、文字通り「表情」を表すためのものに過ぎないのだろう。

 彼の中に建前、なんて無駄な装飾はないのだ。


「貴女には毒に聞こえるんだね。」

 やっと動いたマイロの表情筋は、先ほどの沈黙などなかったかのように完璧な笑顔を貼り付けた。


「毒でないならなんなのか、(わたくし)には分からないわ」

 また、言葉が漏れる。理性が仕事を放棄して、まるで幼子のように舌ったらずな声が積み木のように積み上げられる。


「……ふぅん。マシになったんじゃないかな、B(ベー)。以前は浅ましくて醜くて、こんな肉塊が俺達を作ったなんて信じたくも無かったけれど。」


 まぁ、いいんじゃない。

 少なくとも貴女の以前の生き方は、俺にとって1番無視するに相応しいものだったよ。

閲覧いただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ