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ニア軍曹は全てに使われ絶望する〜人造兵器の適合者の末路〜(旧題:愚かな望みの終焉〜ニア軍曹は縋りたい〜)  作者: 朝倉 ねり


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15 ジョーゼフ少尉

 あれから数週間が経った。

 なにも特筆することの無い数週間。


 やっと先日の傷が癒え、(わたくし)が兵士として復帰する目処が立った。

 そもそも普通の兵なら傷痍軍人として帰るよう手配されているほどの傷だったが、普通ではなかったために留め置かれただけなのだ。

 それだけC.H.Rの適合者は数が少ない。


 (わたくし)が内地の病床に留め置かれている間に、大きな知らせが一つ届いた。

 アレクサンドル大佐(殉死による一階級特進)が戦死したのだ。

 彼は塹壕で指揮をとっていた所を、突如として襲った散弾銃の凶弾に倒れた。


 それに伴って、アリオンに付けられる適合者も老境のジョーゼフ少尉に変わったそうだ。

 ()()アレクサンドルでも、運命のイタズラには勝てないのだな。とだけ思った。



 私がいなくてもマイロは遠く離れすぎないくらいの作戦には出ていたので、寝ているだけなのにさらに体力を奪われるという貴重な経験をしながらの療養になった。


 そうして寝て起きる生活を続けていたある日、思いもよらない訪問があった。


「やぁ、君がバルックハーゲン軍曹だね。」

 私の病室に、前線にいるはずのジョーゼフ少尉がやってきたのだ。

 彼とは一度だけ、作戦を立てる時に隣の席だったことがあるが、その時は話しかけるような雰囲気ではなかったし、私はただの一兵士だったから、話しかけられる身分でもなかった。


 あの時も、今のような穏やかな笑みを浮かべていた。昔の、しゃんとしていた頃のお婆様のような。


「…少尉。昇進おめでとうございます。このような姿で、失礼。」


 彼はもう予備役の年だろうに、未だにC.H.Rの適合役として前線に立っていた。

 彼の日に焼け、枯葉のようになった皮膚の下を流れる血液は、死ぬまで彼をC.H.Rの適合者という役目から離そうとはしないのだ。


「…いや、体が本調子ではないのだろう?そのままで十分だよ。」


 少尉は柔らかな声で返す。

 ああ、お祖母様、貴女を思い出してしまう。

 お父様が殺したお祖母様。

 みんなが殺したお祖母様。


 変な顔をしていたのだろう、ジョーゼフ少尉は少し困ったように眉を下げていた。

 それでも、私達の間にあるのは、心地よい沈黙なのだった。


「…アレクサンドル中佐、いえ大佐…ですね。彼が亡くなったと聞きました。」

「…ああ、散弾銃に当たってね。あまりに酷い状態だったから、彼の勲章と服…いや布の一部を家族に送り返すだけで精一杯だった。」


 ジョーゼフはその時を思い出したのか、目を伏せて鎮痛な面持ちになる。

 彼が処理したのか。

 彼ほどの階級であれば、そんなことしなくても良いだろうに。


「…そうですか。それに伴って、アリオンの適合者になったとも聞きました。」


 話の流れでそう言うと、ジョーゼフは一瞬目を見張り、シワだらけの手の甲を強く握りしめたのが見えた。

 穏やかな顔が崩れて、ただの怯えた老人が姿を表す。


「…私の命は、これで潰えるだろうね。」


「ですが、アリオンは最新型でしょう。…失礼しました。」


 無意識のうちに、怨みがましい声が出てしまった。彼は前線で死ぬことはあっても、それは敵に撃たれるからだ。

 断じて、私のように死因が体力を奪われたからなのか()()()()、分からなくなるなんてことはない。


 そう思うと、自然と言葉が固くなってしまうのだった。

 死にたいと願っていたのに、浅ましい私。嫌になる。


「…ああ、君はマイロの適合者だったね。旧型の彼の適合者からすれば、確かに私は恵まれている方なのだろう。…けれどもね、君。」


 皺の深い目尻をさらに押し込んで、ジョーゼフは静かに答える。


 ここまで生きてしまったから、なんであれ死ぬことが怖いのだ、と。

閲覧いただきありがとうございます。

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