14 正論という名の刃
「はぁ…。貴女がそこまでつまらない人間だとは思ってなかったな。」
熱心に祈りを捧げる私を見て、マイロは嘆息し、笑みを消した鋭い眼光で私を見た。
「……失望したか?私は貴方と違ってただの人間だ。悩み、迷い、絶望もする。その過程で思想が変わることはよくあることだ。貴方はちょうどその瞬間を目撃しただけ。」
「ふふ。失望するほど貴女に興味も期待もしていなかったんだけど。大分自意識過剰なんだね。……貴女が言う『神』もそうなんじゃないかな?」
「やめて。」
私からまた奪うのか。
「そんなこと考えている暇があるんだったら、1つでも多く手柄を立てた方が良いでしょう?『神』なんて実態のないものより、余程有意義だと思わない?」
「やめてちょうだい。」
マイロの顔が見れない。
見たら全てが終わってしまう気がする。
「結局のところ貴女のそれって、被害者意識から来ているんだよね。どうすることもできず、受け入れている私は可哀想っていう。」
「抵抗もしないで負けた人間はただ蚊帳の外なだけだよ。ガラス越しに暴力を見て、さめざめと泣くんだ。『私ってなんて可哀想なんだろう!』」
「たとえ体に暴力を受けていたとしても、それじゃ他人事と同じじゃないか。…人間は自分さえ平気な顔で見捨てられるんだね。気持ち悪い。」
「黙りなさいっ!わたくしの言うことを聞けないと言うの!」
「そういうところだよ、愚かだね。……これだったら大人しく指揮を任せて、アリオンの流れ弾にでも当たらせるんだったな。」
正論という暴力は、時に他のどんな兵器よりも効果的に人間を破壊するのだ。
「もっと早く、こうしていれば良かったと言うの…」
「貴女が愚者というレッテルを貼られたまま死にたいんだったら、そうなんじゃないかな。」
マイロは淡々と獲物を追い詰める。
父が友人とチェスをしていた時の「カン」という音が聞こえてくるようだった。
「そ、それは…私は戦で死ねば名誉ある死だと…」
「どういうこと?人間はどんな『死』でも違いは無いと思うけど。死んだらウジが湧いて肉が腐るだけじゃないの?」
「そ、そうですが、世間体というものがあるのです」
「前線まで来てまだ世間体とか言っているの?……やっぱり馬鹿だね。次の作戦では最前線で突撃してもらおう。」
そうすれば、そのお気楽な脳みそごと粉微塵にしてくれるんじゃない?と頭に人差し指を置いてクルクルと回しながらマイロは言った。
「何か考えている暇があるんだったら、他にすることがあるでしょう?神とか死とか、つくづく人間が考えるものはくだらないね。」
「な、なら!私の人生で、一体何が私のものになると言うのよ!体はこの戦争と男どもに、生死は神の下に、今までの人生は両親と領民のために。神を信じる心さえもないと言うのなら、私はただの抜け殻だわ!」
「人間は死ぬことは出来るけど、生きない、という選択肢はない。貴女が死ねないって言うのだったら、俺たちは貴女を死ぬまで使い潰すだけだよ。」
抜け殻でも生きることは出来るのだから、それ以上求めてはいけない。
戦場は合理的。C.H.Rは戦争の道具。
とするならその論理は必然で、私にも納得のいくものであるのが腹立たしい。
神よ。私は先ほど得た真理を、ようやく手に入れた私だけの!真理を、もう手放さなくてはならないのでしょうか。
「それに俺たちに、貴女のことを考慮する必要ある?無いよね?俺のマスターなんだから、無駄死になんて許さないから、ね?」
マイロはそう言って、作り物めいた完璧な笑みで笑った。
私はもう何も言わなかった。
「私」の生を生きられないことに絶望して、3度自死に失敗し、それでもと思った縁の信仰も否定された。
もう何も、言う必要はないだろう。
1番愚かなのは、他人の意見にいちいち動揺していた自分だということは。
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