12 意識回復
次の日、私達の軍は大敗を喫した。
そして前線を後退させたことで、あの花売りの娘達の村は壊滅した。
「村人は既に退避したあとだったが、敵軍が潜伏しているという情報があったことから一斉襲撃を敢行した」とか言う笑えるような状況報告が敵方から傍受出来た、と専らの噂だった。
あの村は奇襲を受けたのに。
あの村に軍需工場はなく、軍との接点は娘達だけだったと言うのに。
「あの村って第五部隊がいたんだったか?第五って確か補給だよな。悪魔だろ。」
「その通り、あいつらには人の心ってモンがないんだよ。まあC.H.R、しかも最新型ばっかだって話だろ?」
「俺らは人間なのに、あいつらはバケモンで来るの卑怯だろ」
「それに勝つのが楽しいんじゃあないか!」
「それはそうだけども…」
ここにきて少しずつ士気が下がっていた。
国のために戦うというご立派な大義名分は、前線という夢も希望もないところでは部屋の隅に捨てられたネズミの死骸も同然だった。
ここでは「死」の存在が信じられないほど濃く、否応でも意識せざるを得ない。
普段直視しないものを凝視した時、私達は何かしら変化するということをこの数年で嫌というほど理解出来てしまっていた。
そんな時だ。私がアレクサンドル中佐に呼ばれたのは。
「こんなことは言いたくないが、最近目に見えて兵士の士気が下がっているだろう。」
部屋に呼ばれた私は、後ろ手に組んだ手を多少組み替えながら神経質そうに眉毛をピクピクとさせている中佐と対面することになった。
「……」
これに対して返事はしなかった。
私の返答が彼の機嫌にどう影響するか分からなかったからだ。
「そこで、我々はC.H.Rの数を増やすことにした。近々、お前にも今日死んだ適合兵士のC.H.Rが割り当てられるだろう」
「イエス 、サー。」
それがまさか、死人のお下がりの旧型だなんて。
ふっと意識が浮上する。
どうやら痛み止めの副作用で眠っていたらしい。
仕切り越しにも外が暗いことが見てとれた。半日以上寝ていた、ということか。
「うっ」
水差しが欲しくて腕を上げた時、鈍い痛みが走った。
そしてその時に、仕切りの中に私以外の気配があることに気がついた。
「B」
暗い室内でも彼の蛇のような緑色の目は妖しく光っていた。
「B」
私が何も知らない令嬢だった頃に好きだった白キツネの毛皮よりも軽い気配のマイロは、にこやかに…いや、うっそりと笑っていた。
(真珠が溢れたような白い歯。)
彼らは機械なのに、どうして世間で魅力的といわれる造形にさせたのか。
研究者達の考えることは何も分からない。なんて一瞬考えてしまう。
「ま、ぃおど…の」
切れた唇に塗られた薬のせいで口全体がヒリヒリする。
何故、こんなにも緊張するのだろう。
「意識が回復して良かったよ。用のない貴女なら殺すところだったからね。」
私がひゅ、と息を呑んだ音が病室に生々しく響いた。
「……み、ぅを」
「ああ、水だね。俺が取ってあげよう」
そう言ってグラスに優雅な手つきで水を注いだマイロは、意外にも献身的な態度で私の体を起こし、グラスを手に持たせてくれた。
どうやら腕は折れていなかったらしい。
グラスを顔の前まで持ち上げてから気付いた。
持ち上げられる?それはよかった。
ガシャン!
腕をさらに上げて額。さらに側頭部に向かってグラスを叩きつける。
一瞬の無。そして、鮮血。
この時、私はさぞ歪んだ笑みを湛えていたことだろう。
(意識がなくなれば彼に殺してもらえる!)
マイロは目をみはり、私を凝視し、そしてつまらなさそうに目を外した。
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