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クリフトのたくらみと……

生徒たちが出払った廊下は静まり返り、ラナたち三人の足音だけが響く。オハイアリイがクリフト、と声を掛けるが、クリフトは振り返らない。

「どうしましたか、オハイアリイ様」

「あんな言い訳をしてどうしてわたくしたちを連れ出したの?」

ラナは頷いて同意を示すが、それはクリフトには伝わらない。クリフトはあの場に居合わせた。クリフトは頬をかく。

「いや、生徒と昼食を食べているのを学校長にバレるのはマズイですから」

「男子生徒から伝わるのではなくって? 相変わらず、言い訳の下手なこと」

クリフトはぴったりと足を止める。そしてゆっくりと振り返った。

「オハイアリイ様。ラナンキュラスちゃん」

「なんでしょうか?」

「なんですの、改まって」

クリフトは一歩一歩、二人に近づいてくる。後ずさるラナの背中をオハイアリイが止めた。その顔を仰ぎ見ると、目を伏せて軽く首を振る。逆光でよく見えない顔が綻ぶ気配がした。

「俺に協力してくれませんか?」

「は?」「え?」

「だから、俺に協力してくれませんかって」

クリフトはもう一度振り向いて手のひらをこちらに向けてくる。にじり寄ってきたことで近づいた距離がまた離れていく。

「いやあ。実は俺ね、学校長からじきじきにある命令を貰ってましてね」

「というと?」

「行方不明事件の調査ね」

その通り、とクリフトが指を鳴らす。オハイアリイは直ぐ側に掲示してある新聞をとんとんと叩いた。

「これを見せるためにわたくしたちをここに連れてきたのでしょう?」

ラナはオハイアリイの背中から顔を出し、新聞の見出しを読む。先日見た校内新聞ではなく、出版社が出しているものらしい。オハイアリイがそれを流暢に読み上げる。

「伯爵家に走る激震、令嬢令息連続失踪」

「箝口令もそううまくはいかないみたいで。かなりの量の手紙が送られてきました」

「今すぐ子供を返せというような?」

「いえ。どちらかといえば、早く事件を解決しろと」

「でもそれと私たちになんの関係が?」

クリフトはラナの問いに答えない。初歩的なことかとラナが思考を巡らせていると、オハイアリイの暖かな手がラナの頬に触れた。

「ラナ、あなたの入学基準は何だったかしら」

「学力特待生……あ」

「気づいたようですわね。クリフトは顔馴染みで気心知れたわたくしと共にいる貴方を頼りたいようですわよ」

「オハイアリイ様にご学友ができたことが嬉しくてつい」

クリフトの軽口にオハイアリイは半笑いで脛を蹴る。痛みにしゃがみこむクリフトを見下ろし、開いた扇を口元に当てた。

「甘く見るのも大概になさい。ランベルト卿に口添えしてあげてもいいのよ」

「ランベルト先生は勘弁してくださいよ」

知らない名前、ラナはオハイアリイに誰ですかと問う。それに答えたのはクリフト。

「ランベルト先生は俺の……ま、上司かな」

「上司なのに先生、と呼ぶのですね」

「ランベルト卿はクリフトがかつて所属していた騎士団の団長。曖昧な紹介はラナを困惑させるもとよ、慎みなさい」

はあいと気の抜けた返事とともにクリフトの頭がラナの頭より上に戻ってきた。オハイアリイはもう一度新聞の文字に手を沿わせる。

「学校長はこれ以上聖クロートニア大学校の評価を下げたくないのでしょう。ライバル校に生徒を取られる。だから比較的自由の身であるあなたに頼んだ。違いまして?」

「いいや、全く。流石オハイアリイ様、頭のキレは健在ですね。ということで俺に協力を」

「嫌ですわ」

オハイアリイはきっぱりとクリフトの提案を両断した。断られたクリフトは勿論、ラナも目を点にさせる。クリフトは慌ててオハイアリイに近づく。その手が空を彷徨っていた。

「なんでですか、オハイアリイ様! 断る理由なんかないでしょう!?」

「い、や、で、す、わ! 入学前に言いましたわよね。わたくしは平穏にこの学校で暮らしたいの!」

「いやいや! 俺と同じ学校にいる時点で平穏とか無理ですよ!」

「断言しないでくださる!?」

大声でオハイアリイとクリフトが言い合いを始めた。何度目だと呆れているうち廊下の向こうから生徒が歩いてくる気配がして、ラナは頭を抱えた。頭痛を誤魔化すように首を振って、新聞を読むために前かがみになる。行方不明者名簿は相変わらず、キースフィト、テイルズ、メルダ、クライドフォビンの名が並んでいる。そのまま視線を下に下げていくと、編集者の名前があった。

(ソルドンパート・トーイ……)

ラナの嫌な記憶が目覚めかけて、慌てて右肩を叩いて沈める。冷めた掌を擦りながら、ラナは新聞から目を背けた。オハイアリイとクリフトはまだ言い合いを続けている。

「こういうのって断るべきじゃないと思うんですけど!」

「わたくしは断っていいのよ、公爵令嬢だもの!」

「権力を傘にきた女はよくありません!」

「あーら貴方、公爵令嬢にこんな口聞いたなんて知れたら降格決定じゃないかしら!」

「ここは学校なんでね! 生徒は教師に従ってください!」

「それこそ権を傘に着ているんじゃなくって!?」

最早水掛け論になりつつあるその言い合いを止める術をラナは持たない。待つのみ。壁に寄りかかり待機の姿勢に入ったその時、目の前を美しい女子生徒が通り過ぎていく。ラナは息を呑んだ。真っ白な肌に美しい金髪、昼と夜の夜空を混ぜたような二種類の青が溶け合った瞳が、一瞬だけラナを捉える。そしてその瞳は言い合っている二人に向けられた。スローモーションのように遠ざかっていく生徒は、仁王立ちでオハイアリイに立ちはだかった。オハイアリイはその女の顔を見て心底嫌そうな表情を見せる。

「こんな場所で言い合いだなんて。みっともなくってよ、オハイアリイ・シュペルフレーク」


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