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地球最後の日に教室で鈴木君は裸踊りをした

作者: 缶バッチのアホ

登場人物がアホしかいない気がする……


1/21 誤字脱字の報告ありがとう御座います

「え~っと……雁長(かりなが)さん? いつからそこに?」


 僕はただ漠然とクラスメイト――雁長(かりなが)さんに尋ねた。あまりの事態に脳が混乱していて事態に追い付けないでいる。なにせ僕は今教室で()()()をしていたからだ。因みに机は全部端に寄せた、だって邪魔だったからね……。


「えっと、その……………………に、二十分ぐらい前かな?」

「ほぼ最初っからじゃん!?」


 そして僕は醜態を最初から見られていたという事に全力で頭を抱えて――雁長(かりなが)さんの()()()()()()()()に気付いて慌てて下半身を隠した。二十分近くも見られてたんだから今更? イヤそもそもなんで覗き見してたの!? ダメだ、頭が回らない……。


「っていうか、着替えたいからちょっと席外してくれる!? それからこっち見ないで!? 両手で目を隠しているように見えるけど、隙間が開いてるの分かってるんだからね!?」

「えっ!? あ、うん……」


 下半身の一部に視線が突き刺さる中、僕はなぜこうなったと内心で頭を抱えた。それからどこか残念そうに後ろを向く雁長(かりなが)さんを尻目に……じゃないっ!?


「そっちの窓ガラスに写ってるのも気付いてるからね!? それから手鏡もダメっ!」


 その言葉に慌ててか隣の教室に走り去っていった。実は凄いむっつりだった雁長(かりなが)さんを尻目にとても重い溜息を吐きながら項垂(うなだ)れた。結構憧れてたのにな~……。





 事の始まりは一ヶ月ぐらい前。なんでも地球に巨大な小惑星が落ちて来てこのままだと人類は滅びるとか、地球は終わりだとかニュースやテレビに連日報道された。確か太陽に隠れていたから直ぐには気付けなかったとか木星を素通りしてしまったとか……なんか偉い学者は偉そうに語ってた。

 当然各国は大慌てで様々な試み――ミサイルを撃つだとか色々試していたみたいだけど、小惑星の直径がとんでもない大きさっていう話で上手くいかなかった。


 それでも僕らが住む日本というのは世界でも類を見ない平和ボケで能天気の集まりだから、その内どこかの国が何とかするだろう……そんな思いで変わらない生活を送っていた。かくいう僕も当たり前のように高校へ通ってたし、父さんはいつも通り電車に揺られて会社に通ってた。


 でも中には利口な――現実をしっかり見ている人達もいたみたいで、会社や学校に来ないで好き勝手しているのも少数。中にはどこかに避難したっていうのも聞いた。

 実際学校へ来なくなった人達もいたし……。


 ただ僕達のような能天気の馬鹿が現実として受け止め始めたのは、小惑星が落ちるまで後二週間ぐらいを切った頃。

 夕方ぐらいに突然電子機器の類が動かなくなってしまったのだ。電磁波とか何とか線の影響でもあったのか機械が一切使えなくなってしまった。


 スマホは勿論の事テレビもラジオも使えないから、調べられないし本当の理由は僕も知らない。誰かがそう言ってたから……そういうものだと受け止めて涙を流した。

 だって、パソコンの中にあるエロゲー(お宝)オンラインゲーム(僕の大切な青春)を全て失ったんだから……何百時間と捧げて来たのに。


 かくして人類はあっけなく文明を失った。人間はいかにして機械に支えられていたか良く分かる日となった。失ってから大切なモノに気付くという話を聞くけどコレは中々にハードな体験だと思う。それから日本もついに治安が悪化して世紀末さながらに危なくなったし、母さんは父さんを迎えに行くってそれっきり返って来ない。


 ただ僕は外に出るのが怖くて家に籠城して気を紛らわすように、ある意味能天気に漫画を読み耽ていた。日が昇ったら起きて日が沈んだら寝るを繰り返して、健康的な生活を送ってなんとも言えない溜息を毎日吐いたりもした。


 けれどそれも長くは続かず……食料が尽きたから近くのコンビニに向かう事に。災害用の備蓄がもっと沢山あれば怖い想いをしなかったのにと、ここには居ない親に文句を言って気を紛らわして――直ぐにUターンとなった。

 なにせコンビニ前にガラの悪い連中がバットで殴り合いをしていたのである、多分食料の奪い合いでもしてたのかな?


 まぁ、直ぐ逃げた僕には関係ない――ないで欲しかったのにそいつ等の仲間に見付かって追い掛けられた。

 去り際に中指と似合ってないバンダナを馬鹿にしたのが多分ほんの少し良くなかった気がする……でも、そんな怒る事ないと思う。学ランにピンクのバンダナは流石にセンスが無いって……ソイツと一緒に居た奴もそんな顔してたし。

 Tシャツもどこで売ってたのって言いたくなるようなピンクと黄色の縞々(しましま)とか……ね。ダサって口にするのも仕方ない。


 お陰でそのセンスのない学ラン野郎に怯えながらの食料探しで日々を過ごした。車が乗り捨てられ立ち往生しているせいで自転車が仕えなかったのも痛かった。

 仕方が無いから初めは抵抗感もあったけど、近所の既に人が住んでいない所に忍び込んで缶詰とか頂戴して飢えをしのいだりもした……どうせもう少ししたら人類は滅ぶのに、お腹事情はいつまでもやるせない。


 だけどそんな生活ももう直ぐ無意味に……というのも肉眼で上空に小惑星が見えるようになったのだ。間違いなく地球に落ちて来ると実感させられて街中に諦念感が漂い始めた……。

 それから少しして偶然あのダサい学ラン野郎に出会ったけど、追い掛けられる事もなく謝られたので僕も謝った。まぁ、身に付けているペンダントがドクロに十字架と羽という所謂アレだったのでまた内心馬鹿にしたけどね。


 そうして地球最後の日まで僕はほぼずっと小惑星をただただ眺めていたのだけど、このまま何もせず死ぬのは嫌だと僕の中に大きな火が灯った。最期に何かしたいと思い立った僕は居ても立っても居られずに――夕方に学校に向かったのだ。

 かなり背伸びして必死に努力して入った有名な高校でそれなりの校風を誇る……今は何の関係もない場所に足を踏み入れて学校で最後の時を迎える事にした。


 僅かな食料と愛用の枕、最期の時を一緒迎えたい()()()()()をリュックに詰めてから学校に忍込み、僕以外誰もいない事に少しの物寂しさを覚えて青春を思い出しながら母校を懐かしんで巡回した。

 そして最後に自分の教室に付いた僕は一度自分の机に座って、どこか感慨深いと静かな時間を過ごして……全力ではっちゃけた。


 学校には最早誰も居ない、誰の視線も気にしなくて良い、自分を素直に曝け出しても咎められない、ありのままの姿でいようとおもむろに服をすべて脱いだ。

 机と椅子を端に寄せて準備を整えると、夕日を背に僕は身一つでワッショイと踊った。


 父の実家が地方の古い家でよく裸踊りのお祭りの手伝いをしてたからね……今現在は時代の流れの関係上(ふんどし)を巻いて踊るのだけど、折角だからと古来の伝統方の裸一貫で踊った。無我夢中で踊り狂った。

 学校という聖域で本来なら許されない格好で踊る……素晴らしい背徳感に一種の優越感に浸りながら僕はただただ踊り続けた。景気の良い掛け声と我ながらキレのある動きに自分で自分に酔いしれたりして。


 そんな僕の過失を挙げるとすれば、実は学校に人が居たという事。クラスメイトである雁長(かりなが)沙耶さんという僕とは別の世界の住人で、優等生という言葉がピッタリの人である。

 全国模試テストで四位になるような頭の良い人で運動も普通に出来る上、お(しと)やかで性格が良くスタイルも中々良い――何より優等生らしく眼鏡を掛けてる事が素晴らしい。眼鏡を際立てるように黒髪をサイドテールにしていてセンス良いよね。

 本当に眼鏡って素晴らしい……人類が生み出した偉大な発明だと思う。発明者が誰が分かってないのは本当に勿体ない、世界の偉大な人物として知られるべきなのに……。


 閑話休題、そんなクラスメイトの雁長(かりなが)沙耶さんが今現在、眼鏡とは別にもう一つのチャームポイントである赤いカチューシャを弄って僕の隣で椅子に座っている。少し距離があるけど視線だけはバッチリとある一ヵ所に向いていた……イヤ何やってるのかな?


「あ~……その? 雁長(かりなが)さん、久ぶりだね?」

「うん……久しぶりだよね鈴木君、二週間ぶり」

「確かにそこも僕の一部だけど、出来れば顔を向けて話して欲しいな~? イヤ残念そうな顔しないで? 凄い困るから」


 渋々というか名残惜しそうに、寂しそうで嫌々ながらもやっと僕と視線を――合わないね、うん。器用に目線だけ思いっきり下げてるし、イヤ僕が悪いんだろうけどさぁ? そんな悪かったっていうの?

 仕方が無いので愛用の枕で股間を隠すとやっとこっちを見て……イヤ頬を膨らませないで? 可愛いんだけど子供みたいに不満そうにしないで? 貴女もう直ぐ選挙権貰える年齢でしょ?


「……久しぶり鈴木君」

「ちょっと淡々に言わないで欲しいかなー? 僕そんな悪い事した?」

「……別に?」


 うわこの人面相臭いな……絶対思ってるって顔じゃん。優等生要素どこいった!? 余りの事態に思わずふと枕を退けてみると案の定というか顔がパーッと輝いた。眩しいくらいに笑顔だなこの人。

 だからかつい悪戯心が(うず)いて再び枕で隠すと頬を膨らませて……アレ実はこの人結構面白い? また同じように退けると喜ぶからつい十数回繰り返して遊んでいたら、雁長(かりなが)さんは獲物を狙う猫みたいに前のめりになっていた……アレ? コレ僕襲われるパターン?

 でも楽しくて続けちゃうんだけどね、こういう娯楽なんて久し振りだし。そうやって繰り返して……イヤ顔が近いな。そろそろ股間が()ぎ取られる?


「………………ふぎゃ!? な、何するの鈴木君!?」

「イヤだって物理的に危険を感じたし?」


 僕がやったのは愛用枕を雁長(かりなが)さんの顔に押し付けた事。勿論眼鏡愛好家として雁長(かりなが)さんの眼鏡を傷付けたりフレームを歪ませる事が無いよう全身全霊を持って安全に行った。紳士として当然の義務だからね。


「後そろそろ普通に会話しない? 僕は人生最後の日をもう少し文明的に過ごしたいんだ。なんだか猫を手懐けているみたいだよ?」

「……………………………………………………そ、そうだね。私も人とちゃんと会話をするのは久しぶりだし」


 今凄い葛藤あったよね? それって僕の股間は会話より重要なの?


「それでだけど……雁長(かりなが)さんは何で学校に? こんな地球最後の日に」

「私はその……折角だから悪い事をしに来たの」

「えっと、悪い事?」


 問い返すと神妙に頷かれた……どういう事だろう?


「私ってほらっ? 優等生ってよく言われてるし私自身も優等生として過ごして来たでしょう?」

「うんそうだね。昨日までは間違いなく優等生って言葉を体現した人物だと思ってたよ」

「今まで私はお母さんの言う通りに生きて来たの。ずっとお母さんの言葉を正しいと思って、ただ人形のように指示に従って自分の意思で何かをした事なんて何一つ無かった」


 雁長(かりなが)さんの人生の凄い話を聞かされているハズなのに……僕の言葉をスルーされた事が引っ掛かって今一つ話に集中できないよ。中々に良い性格しているよね?


「だけど小惑星が肉眼で見えるようになってから……お母さんは怒鳴り散らして家を出て行ってしまったの。それから何の指示与えられずどうすれば良いのか分からなくなって、ずっと考えてた」

「……もう直ぐ地球が滅ぶって実感させられるもんね」


 皆諦めムードになっちゃったもんね……僕は逆に暴走したけど。


「それからね? ふと思ったの、最期に自分の意思で何かやってみたいって。そう思ったら学校に自然と足が向いてね……悪い事をしてやろうと思ったの。小学校の時にクラスの子が悪戯をして笑ってたのを思い出してね?」

「成程……」


 漫画とか小説――特に散々やった泣きゲー要素のあるエロゲ―でそういう話は見て来たのに僕はダメだな~……良い言葉が全然思い付かない。感動要素と眼鏡っ娘を中心に選んでたハズなのに、気遣いが何も出来やしないよ。


「だから教室に来たらね……田中君と森永さんの相合傘を書いてやろうと思ったの」

「……うわショボっ。イヤ何ソレ?」


 ちょっと小ぶりな胸を張って腰に手を置き満面のドヤ顔で自慢をしてくる雁長(かりなが)さん……うん、思わず本音が出てしまった。イヤだってねぇ? というか何でその二人をチョイス? それと前置きとの温度差が酷いよ? 僕の感傷返して?


「えっ? 三日掛けて考えた悪い事なのに!?」

「もっと時間を有効に使おうよ!?」


 そんな事に三日も費やしたの!?


「えっと、じゃあ他には新品のチョークを半分に折ったりとか黒板消しをドアの間に挟んで……」

「レベルが低いよ!? ソレただの小学生!? さっき優等生って口にしてたのに悪戯に対しては間違い無く劣等性だよ!?」


 もう直ぐ地球滅ぶんだよ!? 絶対に悪戯を仕掛ける相手なんて教室に来ないじゃん……だって既に日が沈み掛けてるんだよ? 時刻は分からないけど後数時間で世界は終わるんだよ?


「なっ……じゃ、じゃあ鈴木君はどんな悪い事言えるの!?」

「え、僕……? 学校でやる悪い事と言ったら窓ガラスを割ったりとか、机や椅子を窓から落としたりと学校の備品を壊したりとか? 後は科学室の危ない薬品を使ったりする悪戯に放火するとか……イヤ何その表情? 本気で驚かないで? 」


 誰でも思い付きそうな事だよ? 雁長(かりなが)さんて悪戯の才能無いね、絶対。


「私の三日間が鈴木君の思い付きに負けた……」

「イヤイヤ待って!? そんなショック受けないで? むしろ僕の方がショックだよ? そのレベルで勝てると思わないでよ……」


 忸怩(じくじ)たる思いみたいな表情する事無いよね!? うーん……さてはこの人天然だな? 教科書通りの事しか出来ないタイプの。


「裸踊りしてた癖に……」

「ぐふっ!?」


 勝てないからって、禁止カード使って来たぞこの人!?


「で、でもそれなら隠れて覗いてた変態むっつりの雁長(かりなが)さんはどうなの!? 二十分も見てるし興味津々じゃん!」

「うぐっ……そ、それはもう言わない約束だよ!?」

「ずっと股間に視線を釘付けにしてた人が口にして良い台詞じゃないよね!?」 

「な、なら裸踊りしておきながら文明的な会話を求めるのも絶対におかしいよっ!?」

「ぶふっ!? そ、それはっ……!?」 


 スルーして貰えたと思ってたのに掘り返された!? そりゃ自分でも口にしといて無理があるかなとは思ったけどさぁ!? 抉るように掘り返さないでよ!?

 それでもなんとか口をモゴモゴさせて言い返そうとして――雁長(かりなが)さんの顔が見えなくなった。ふと我に返って窓を見ると完全に日が沈んで、唯一の明かりが消えてか凄い暗い。


「あっ……どうしよう?」

「大丈夫、ちょっと待ってて」


 記憶を頼りに手探りで目的のモノ――机の上に用意しておいたマッチを拾い上げる。懐中電灯さえも使えなくなってしまったからね……近所の仏壇から拝借してきたのだ。当然蝋燭(ろうそく)も用意してある、マッチを取り出してマッチ箱の側面に擦り付けると一発で火が付いた。ここ最近で使い慣れるようになったからなー……最初は何回も擦ったのに。


「鈴木君は凄いね、準備が良いよ。逆に私はダメだな……何も用意してない」

「ここで最期を迎えようと思ってたからね、色々持ってきたんだ」

「そっか………………もう普通に会話しよっか? ちょっと不毛だったし」

「うん、そうだね……」


 明らかに()()()()じゃないけど、指摘したら堂々巡りだなら僕もソレに乗ることにした。最期ぐらい綺麗で終わらせたいからね。


「鈴木君はどうして学校に? 家に居なくて良かったの?」

「母さんは父さんを迎えに行ってそれっきりだよ……父さんは機械が仕えなくなるまで普通に電車で会社に行ってたからね」


 溜息を吐くと僕は適当に椅子へ腰を下ろした。行ってらっしゃい……それが父さんと母さんとの最後の言葉になるとは思わなかったよ。


「だから暫くは家で過ごしてたんだけど、最期になって何かやりたくなってね?」

「だから裸――じゃなくて、さっきのアレを?」


 言い掛けてる言い掛けてる、隠しきれてないよ!? 濁してくれたのは嬉しいけどさぁ?


「誰も居ないと思ったからね……コレでも一応友達の家にも足を運んだりしたんだ。でも不在だったり最期を家族と一緒に過ごすって言われちゃったからね。後は……父さんの勤めてる会社なんてスマホが無いと場所が分からないし」

「あ~……地図のアプリって便利だもんね」


 本当に改めて文明の偉大さを理解させられる。最寄りの路線ぐらいはある程度分かるけど、東京や大阪の路線なんてスマホが無いと目的地まで辿り着ける気がしないからね……何あの蜘蛛の巣みたいなの、絶対おかしいよ。


「それでお泊りセットを持って学校に来たんだ。カーテンなら敷布団替わりになると思ってね? ただ枕が変わると寝れないからコレは自宅から持ってきたんだけど」

「そっか~……所でずっと気になってたんだけどこの祭壇みたいなのは?」

「コレの事? 眼鏡様の祭壇だよ」


 雁長(かりなが)さんが指摘をしたのは、僕が自宅から必死になって持ってきた眼鏡様を(まつ)る為のちょっとした僕の為の祭壇である。机の上の半分を占めて輝かしいオーラを放つ祭壇には素晴らしきかな僕が厳選した眼鏡様を飾り(たてまつ)ってある。

 先程の裸踊りも御神体の眼鏡様に捧げて必死に踊っていたのだ。眼鏡は良い、人類の叡智だよ。この祭壇の為に十万使ったけど惜しくはないね。


「え、えぇ~………………」

「素晴らしいだろう?」

「ソ、ソウダネ……」


 賛同してくれるなんて雁長(かりなが)さんは最高だよ、やはり素晴らしいモノは誰が見ても同じ評価をするものだね。思わず眼鏡様にウットリしてしまう。


「そ、それより……その、えっと後五時間ぐらいで小惑星が落ちて来るね」

「あれ、時間分かるの? 時計も全部止まってるのに」

「この時期だと五時ぐらいには日が沈むでしょ? 小惑星が地球に落ちて来るのは今日の午後十時半頃。太平洋の西寄りに落下して日本に津波が押し寄せてくるのは日付が変わる少し前、ニュースの内容は全部覚えてるよ」


 流石優等生……こんな時でも知的である、眼鏡を掛けているだけはあるね。


「そういえばそんな事テレビで言ってたね、随分昔の記憶だから忘れてたよ。そういや富士山の山頂に避難した人達もいるって言ったっけ?」

「富士山程度じゃ無理よ、今回墜ちて来るのはチクシュルーブ衝突体よりも規模が大きいんだから」

「ち、ちくしゅ……?」

「チクシュルーブ衝突体、白亜紀末期(6600万年前)に恐竜を滅ぼした数千万年に一度レベルの規模の巨大な小惑星よ。専門用語で惑星(プラネット)キラーだなんて言われてるわ」


 あ~……アレか、氷河期に入った切っ掛けの。そういえばクラスに居た恐竜好きが良く語ってた。


「直径は十キロから十五キロと言われてて、その時に生まれたクレーターは百七十七キロ。地球上の約七十五パーセントの生物が絶滅したと言われてるの。運よく津波を生き残れたとしても気候変動に耐えられないわ。核シェルターにでも避難してないと生き残れないわね」


 アメリカとかだと核シェルターが結構あるって言うし、向こうの人達なら生き残れるのかもね。


「というかその前に日本が沈没しそうだよね」

「そうね、間違いなく私達は死ぬよね……『2019OK』みたいになってくれれば嬉しいんだけど」

「え、何ソレ?」


 一体何の数字? なんでOKなのさ?


「2019年7月25日に直径百三十メートルの小惑星が地球にぶつかり掛けたのよ、しかもそれに気付いたのは前日。ブラジルのソニア天文台で観測されたの、月よりも地球に接近してのニアミスだったから当時は問題になったのよ?」

「そうなんだ……まぁ、隕石が落ちてきたら洒落にならないもんね」

「僅か十センチの隕石が落ちただけでも広島に落ちた原爆四つ分に匹敵するのよ? 『2019OK』がもし落ちてたら都市の一つは軽く滅んでたわ」


 全く知らなかった……というか絶対それOKじゃないだろ? 誰だよ名前つけた奴。


「他に有名なのだと『チェリャビンスク隕石』ね。2013年2月15日にロシアに落ちたものよ」

「あっ、そっちはニュースで見たから知ってるよ。三週間ぐらい前に昔の小惑星特集って事でチラッとだけどね」

「アレは直径十七メートルもあったのだけど、上空で複数の破片に分裂したからね……それでも被害は甚大だったけどね」


 白い煙の(わだち)の後はよく覚えてる、凄かったよな~……。


「………………よしっ、話題逸らせた。絶対触れちゃまずい話だよねアレ」

「んっ? 何か言った?」

「う、ううん。何でもないよ?」


 何か凄くやり遂げたような顔をしているけど、何かあったのかな? 良く分からないけど良い事があったみたいだ。流石眼鏡様、眼鏡様はほぼ全てを解決すると言っても過言じゃないね。

 そうして満足気に思っていると雁長(かりなが)さんは一度深呼吸して何かを決心して僕に向き直った。


「そ、そんな事よりも残り僅かな時間を有意義に過ごすべきだと思うの。私のとっても凄い悪い事についてっ!」

「え? いや、まだ諦めて無かったの?」


 なんか言い方の時点で既にダメそう……。


「鈴木君はもう既に踊ったでしょう!? でも私はまだ何もしてないもんっ!」

「なら窓ガラスでも割って来れば良いんじゃないかな?」


 なんかもう好きに悪い事してくれば良いんじゃないかな?


「そんなのダメだよっ! 鈴木君が考えたのを私が実行したら意味ないものっ! 私が考えて私が実行しないと鈴木君に負けちゃうもんっ!」

「え~……」


 そう言われてもねぇ~……? というか勝ち負けあるの?


「う~んと………………よしっ、提出物のプリントで紙飛行機を飛ばす事よっ! どうっ!?」

「いや……提出期限が近いプリントなんてあったっけ?」

「ほら、進路希望調査とかあるでしょう?」

「もう直ぐ世界が終わるのに? そもそも提出先の教員だっていないじゃん。変な所で真面目だよね」


 投げ槍気味にツッコミを入れると押し黙ってしまった。もうちょっと何か胸を誇れる悪戯を思いつかないの? イヤ悪戯事態に胸を張れるものじゃないけど……。


「なら、なら村上先生が金子先生と不倫しているのを言い触らすとか……どうっ!?」

「えっ? マジ!? あの先生達そんな事してたの!? どっちも既婚者なのに?」

「塾の帰りにたまたま見掛けてね、駅前の歓楽街から幸せそうに恋人繋ぎをしているのを見たの」


 世界の最後で随分と凄い話を知ってしまった……。


「でもそれって別に悪い事じゃなくない?」

「いいえ犯罪よ? 名誉毀損(きそん)罪や侮辱罪に該当するもの。告訴されたら逮捕もされるし最大で二十三日も拘束されるの」


 マジかー……不倫なんて悪い事なのに、周りにチクったら逆に訴えられるとは思わないよ普通。


「そっかー……で、満足出来た?」

「……………………………………………………………………全然、何か凄く虚しい」

「でしょうね」


 幾らここで口にしても僕と雁長(かりなが)さんだけで完結してしまうから、コレ以上広がらないんだよね。多分雁長(かりなが)さんが期待しているような展開にはならないよ。

 それから何やら唸って必死に考えているみたいだけど……コレ時間の無駄だよね? 僕ももう開き直って裸踊りの続きしようかな?


 そんな事を考えているといつの間にか蝋燭が尽き掛けていた。元々半分ぐらい消費してたけどこのタイプは一本で約三時間持つんじゃなかったっけ? うわっ……凄い時間を無駄にしている。うん、もう雁長(かりなが)さんを無視して踊ろう、そうしよう。

 そう思い取り敢えず蝋燭を新品に変えると、何やらモジモジしている雁長(かりなが)さんが僕の肩をチョンと叩いた。


「あっ……そのね? もう一つ、もう一つ悪い事してみたい事が出来たの。とっておきで凄くてビックリするような悪い事」

「また小学生レベルじゃないよね?」

「違うもんっ!? もっと凄い事だよっ! わ、私がやりたいのは……不純異性交際。その、ほら? 丁度私の目の前に男の人が居るでしょ?」


 あれ? なんか空気が変わった? なんだか身体がゾクッてするんだけど?


「えっ……と、雁長(かりなが)さん?」

「それに……ね? 私だけ鈴木君の裸を見たのも悪いでしょ? だから私も一緒に()()()をして……ね?」


 蝋燭の明りに照らされて雁長(かりなが)さんは色っぽく、情緒が……その? 眼鏡が輝いて蠱惑的で僕は抗うことが出来なかった。

 コレで断れる男は居ないと思う。





「コレが朝チュン……まさか経験できるとは思わなかったよ」


 朝日に照らされ隣で可愛くスヤスヤと寝ている()()の頭を撫でて、昨日の事を振り返り一つ大人になれたと……イヤなれたのかな? 徹頭徹尾(てっとうてつび)リードされたからね。

 優等生はエッチな事にも優等生で凄かった……お互い初めてだったのにビックリだよ。途中食事休憩も挟んだけど最期だからって僕は気絶するまで絞り尽くされた、優等生は体力も優等生で……ん? 最期?


「アレ? 日付変更前に津波が日本に押し寄せて来るんじゃなかったっけ? 今どう見ても朝十時ぐらいには明るいよね?」


 ()()を起こさないようにそっと起き上がって窓を確認すると外は平和そのもので……もしかして日付を間違えた? だとしたら滅茶苦茶恥ずかしいんだけど……いやでも小惑星は上空に見えないし、どういう事だろう?

 もしかして『2019OK』みたいに通り過ぎた? 廊下に出て反対側を確認しても何も無いし……もしかして奇跡でも起きた?


「んっ。おや、よう……? ()()?」

「おはよう()()……なんか小惑星通り過ぎたみたいだよ」

「通り……過ぎたんだ。うん、そっかー……通り過ぎたっ!?」


 寝ぼけてる()()も可愛かったけど、僕の言葉で完全に目が覚めたらしい。


「うん、朝日を迎えられてるでしょ? 後カーテンで身体隠してね? 色々見えてるから」

「本当だ……でも()()も丸見えだよね?」


 布団や敷布団代わりに学校のカーテンを使ったのだけど、生地が薄いから色々見えて困る。胸はやや控えめだけど結構スタイル良いよね()()って。因みに僕はもう色々諦めたというか吹っ切れた、昨日散々見られた上に大人の階段を昇っちゃったからね。


「そっか……私達助かったんだ。良かった」

「そうだね、本当に良かったよ。()()と一緒に過ごしてから死にたくないって凄い思ったから」

「私も……()()と一緒に居たいって凄い思ってた。だから嬉しい――」


 そう言って少し涙目な()()は煽情的で少しクラっと来た。イヤ昨日散々ハッスルしたじゃん僕!?


「――嬉しいから、また()()()()()()()? 昨日は俊君が先に気絶したから物足りないって思ってたの」

「えっ……()()さん? 雁長(かりなが)さん? ねえちょっと?」


 思わず後退(あとじ)さったのはしょうがないと思う、昨日も思ってたけど肉食獣の目をしてるんだもん。

 だけど優等生は獲物を追い掛ける事にも優等生だったから逃げられず……。解放されたのは夕方頃で力尽きた僕はまた気絶する事になった。








 木星を素通り――隕石とか小惑星の類は基本的に木星が受け止めてくれているそうです。もし木星が無かったら割と洒落にならない量が地球に落ちて来て、人類は文明を気付けなかったかもしれないと言われてるみたいですよ。



 裸踊り――字面だけを見ると色々と思う所がありますが、実はコレ元々は神事だったりします。

 内容は大きく分けて二つあり、一つ目は生まれて来た赤子と同じ裸体になる事で神に子供の無病息災と厄払いの儀式。

 二つ目は五穀豊穣や豊作・大漁祈願を願う為の儀式です。


 ただ女性の見物や撮影が問題になった事から(ふんどし)を着用するようケースが増えていったみたいです。因みに女性による裸踊りも過去にあったと研究者が唱えているとか……。



 で、実はこの短編には元ネタがありまして……作者が小学生低学年の時の話です。授業でレクリエーションに『いつどこゲーム』という多人数で遊ぶゲームをやったんですよ。

 コレは紙に『いつ?』『どこで?』『誰が?』『何をした?』という4つの項目を自由に書いて、適当な箱の中に入れるんです。

 その後教員(代表者)が紙を一枚引く事に項目を一つずつ読み上げて計4回、珍妙な文章を完成させるというルールになります。


 コレは変な事を書きこんだりしてネタに走ったりする人が居ると中々に盛り上がったりするのですが、よりによってゲームのラストで事が起こりました……。

 まぁ、タイトルで察するとは思いますが『地球最後の日に、教室で、作者君が、裸踊りをした』という文章が出来上がったんですよね。結果一人を除いて大爆笑でしたね、えぇ。


 特に『裸踊り』を書いた奴は英雄扱いされましたからね、賞賛の嵐で20年以上経ってもよ~~~~~く覚えてます。暫く教室で裸踊りすんなよと弄られましたし。

 まぁ、小説のネタにするぐらいには区切りは付いてますけどね。




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