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4.思考の波

 僕は一週間の有休をとった。

 少しゆっくりするべきだと言う家族の言葉に従った結果だ。まぁ実際、休みを取るには上司の許可が必要になってくるわけだけど。そこは抜かりなし。姉がちゃんと事前連絡を入れてくれていた。何から何まで頭がさがる。

 結局のところ僕はまだ混乱しているみたいだ。冷静になれば、もっと色々考える事ができるはずなのに、それができなくなっている自分がいる。それだけ衝撃的だった出来事だったとも言える。


 あの日、ライアンとの家から出て行った日。


 悔しいという思いは無かった。

 裏切られたっていうのに、何故か憎いとは思わなかった。ただ、辛く悲しいだけだった。今頃、彼はどうなっているのか。ふとした時に思い出してしまう自分に腹が立った。本人同士の話し合いもないまま別れるなんてね。


 僕はライアン以外の人と恋人関係になった事が無いけど、これが世間一般の別れ方ではないと理解している。普通、こんな事はしないと思う。お互いの意思確認は大事だって思うんだけど……まぁ、向こうは貴族の跡取りだったしなぁ。色々と難しいのかもしれない。どちらにしても別れるしか道はないんだと、どこかで冷静に考えている自分がいる。

 それもしょうがない。

 だって僕には「子供」に相当する価値のある物を彼に提供することはできないのだから。


『子供なんていらないよ!』


『二人だけでいることに意味があるんだ』


『まぁ、ノアがどうしても子供が欲しいっていうんなら養子を迎えたらいいんだ』


『え?侯爵家?大丈夫だよ。分家もあるし、親戚が多いから問題ないよ』


 ライアンは、ああ言っていたけど侯爵家がそれに納得するかといえば難しい。

 特にライアンの親からしたら絶対に認められなかったはずだ。

 僕の家は姉が跡を継ぐことが最初から決まっていた。姉さんは僕より十歳年上で商売上手だ。義兄が婿入りしてくれて姉の補佐をしてくれている。姉夫婦には三人の甥っ子がいて、跡取りに困ることは無い。だけど、キング侯爵家はライアンひとり。一人っ子のライアンは跡取り息子として育てられてきた。爵位は継ぐが結婚はしないとなると親だけじゃない。親族一同から猛反対を受けた事だろう。だから、ずっとライアンは僕と侯爵家の人間を会わせようとしなかったんだろう。ははっ。本当に僕は馬鹿だな。こんな簡単なことに今になって気付くなんて。

 

「遅すぎるよね…………」


 自嘲気味に笑いながら窓の外を見ると雲一つない青空が広がっていた。握りしめていた指輪を眺めてからそっと箱に戻す。結局捨てられなかった。ライアンと二人で選んだペアリングは至ってシンプルなものだ。魔法薬師である僕の仕事の邪魔にならないように造られた指輪。裏に小さな宝石がついているだけのもの。ライアンとの家に置いてきても良かったのにできなかった。我ながら未練がましいな。

 はぁ〜あ。ため息しか出てこないや。

 今日一日、ぼんやりとしていたせいか屋敷の使用人たちが心配していた。明日は仕事だ。今日ぐらいゆっくりしようと思う。明日にはいつも通りの僕に戻るさ。


 生きていれば思い通りにならない事なんて山ほどある。理不尽な目にあう事だってある。僕は幸いにも今まで恵まれて過ごしてきた。だから失恋の一つや二つ、大した事では無いのかもしれない。

 

 ただ、初めての事に戸惑っているだけなんだ。

 きっとそうに違いない。

 うん、そうに違いないよ。

 僕は自分に言い聞かせた。






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