【一場面小説】ジョスイ物語 〜官兵衛、犬を陥とすノ中段
柴田勝家の使者として秀吉が朋友、前田利家がやって来た。これを調略せよと官兵衛に命じる秀吉。官兵衛は漢、犬千代を陥とすことが出来るのか。
「然り、大いにシカリ。」
我ら宿老が手を合わせて三法師様を護らないかん。新しい織田家を盛り立てる、いがみ合ってる場合じゃないデヨ。
前田利家ら柴田勝家の与力達がもたらした柴田と羽柴の和睦案、我が意を得たとばかり秀吉が頷く。金森長近と不破勝光は顔を見合わせて安堵の表情を浮かべる。前田利家は静かに秀吉の眼の奥を見つめている。
話は済んだと秀吉。ニッと笑い、さぁ酒じゃ、無礼講じゃと喚き立てる。ここからは秀吉の世界だ。十八番の猥談は利家はもう聞き飽きたが、愛妻の寧々さえ種にするどぎつい艶話はやはり気になる。
若い時分に利家は寧々に淡い思いを抱いていたのか、無関心ではいられない様子が微笑ましい。官兵衛は場の空気を創る秀吉の天才に舌を巻く。
茂助、伊右衛門!踊れ、踊らんかと囃し立てる秀吉。堀尾は照れくさくそうに立ち上がり、山内は待ってましたとばかりに腰を艶めかしくくねらせて皆の爆笑を誘う。懐かしい、皆が若かった尾張時代の宴が蘇る。
秀吉は金森、不破にも話を向け打ち解けた雰囲気を演出する。茶の湯は辛気臭いで苦手、いずれ法印殿に手解きしてもらうダキャ。不破はよう肥えたのぉ、親父殿はそこまで大きゅうなかったぞ、コラッ。
頃合いと見た秀吉が立ち上がる。犬、ワシは先に寝るデヨ。たんまり飲んでってチョ、そう前田に断ると秀吉は官兵衛に一瞥をくれ、宴席を後にした。
前田利家をどう調略するのか。官兵衛の胸中には秘策があった。
つづく