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第3話、魔剣を求めて


「あの……何かご用ですか?」


 ルカが不思議そうに首を傾げる。あれー……?


「いや、何でも……」


 何か思ってたのと違う反応がきて、俺は困惑する。神様、モテるスキルを授けてくれたのではなかったのか?


 途端に気まずさが込み上げる。どうしたものか、迷っているうちに一瞥したら、そこにルカの姿はなかった。行ってしまわれたか……。


 ちょっとは期待したんだけど、何もなしか。こりゃあ、完全に俺の錯覚だったかもしれないな。はぁ……。


 仕方なく、俺は募集の貼り紙を見比べ、パーティーを選ぶ。追放された『シャイン』のルーズも言っていたが、剣の腕はそこそこって自負がある。募集条件さえ間違えなければ、そう悪いことはないだろう……。


 ――などと思っていたら、大間違いだった。


『はあ? Dランク? ダメダメ、うちはCランク以上の奴を募集してんの!』

『えー、美人とは言わないけど、せめて女だよなぁ」

『……ふうん、あんた、冴えないわね。お断り』


 連敗記録を積み上げ中。王都の冒険者ギルドだぞ。これだけ人がいて、募集もあるのに、何でこうなる?


「いよぅ、ヴィゴ。お前、パーティーを追放されたってぇ?」


 顔見知りの冒険者に冷やかされた。顔つきの悪さに定評のある中堅冒険者のクレイだ。


「まあ、お前さんはあのピカピカパーティーには似合わん男だからな、仕方ねえよ」

「うるさいよ、おっさん」

「まあ、気ぃ落とすなってぇ。みっともねぇ比較をされなくて済むって思えば万々歳だろ」


 そうだぞー、と周りの男冒険者たちが同調した。


 知ってるぞ。お前ら別に俺を慰めようとか、励まそうとしているんじゃないってことは。 美少女のエルザやアルマと同じパーティーにいるってだけで、嫉妬しまくっていたむさ苦しい連中だ。俺が『シャイン』を追放されて、ざまあみろって思ってんだろ。


「くそっ、同情するなら、どこかパーティーを紹介するとか、入れてくれよ」

「残念だが、前衛は間に合ってる」


 クレイは肩で笑った。


「お前も美少女になって出直すんだな。それなら考えてやるぜ」


 ひゃっはっはー!――周りの男衆が大声で笑った。くそぅ。


「まあ、お前が悪い奴じゃねえのは知ってる」


 クレイが俺の肩を叩いた。


「王都には冒険者なんて腐るほどいる。そうなると付加価値のある者が優先される」


 見た目が格好いいとか、戦士なのに魔法が使えるとか、レア装備を持っているとか。


「聖剣……は難しいが、たとえば魔剣とかな」

「魔剣? そんなの、そうそうあるもんじゃないだろ」


 聖剣や魔剣は使い手を選ぶっていうし。そもそも簡単に手に入れば苦労しない。


「そういや、王都近くのカラコルム遺跡に魔剣があるって話があるぜ?」


 冒険者のひとりがそんなことを言った。


「台座に刺さってるんだが、誰にも抜けないってやつ」

「そうそう、夢見る駆け出しが挑戦して、やっぱり抜けないってやつぅ」

「ありゃ抜けねぇよ」


 ふくよかな体躯の若い冒険者は言った。


「ビクともしねえもん。巨人族が挑んでもやっぱり駄目だったってさ」

「……ま、そういう魔剣があるって話だ。お前も行ってきたらどうだ? もしかしたら、もしかするかもしれないぜ?」


 クレイは冗談なのか本気なのかわからない顔で言った。


「通過儀礼ってやつだ。お前も男を見せてこい」


 ……行ってみるか。



  ・  ・  ・



 魔剣があるという遺跡は、王都を出て東に行ったところにあるスウィーの森の中にある。


 ギルドで話を聞くまで忘れていたけど、そういえば何度か噂は聞いた覚えがあった。


 何でも大地を砕く力を持った魔剣であり、その力は一国の軍勢を一蹴したと伝えられている。


 時の勇者がその持ち主を倒し、魔剣はカラコルム遺跡――当時は神殿に封印された。


 まあ、千年も前の話らしい。本当のところはよくわからない。そんなおっかない力が本当にあるのか。遺跡は語っちゃくれない。


 今では台座に刺さったまま抜けない魔剣ってんで、ひとつ魔剣を手に入れてやろうってアホが挑戦にくるっていう観光地みたいな扱いになっている。


 そもそも本当に魔剣なのか? 暗獄剣だかって言われているけど、銘柄も怪しいしな。


 でもまあ、そんな抜けない魔剣とやらが抜けたら、凄くね?


 もちろん、抜ける保証は何一つない。だが魔剣とか聖剣ってのは適性ありきだ。ただの凡人と思えた奴が、実は素質があったって伝説は珍しくもない。


 ま、抜けなくて当然。そう思えば、失敗してもともとってやつだ。これで抜けたらラッキーである。


 うっすら靄が立ち込める森だった。遺跡までは古びた一本の道が整備されているから、そこから外れなければ迷うことはないって聞いた。千年前から存在している石畳の道。過去、何千、何万の人間がここを通ったんだろうなぁ。


 しばらく歩く。道の左右は森の木々が生い茂っているが、やはり靄のせいで薄気味悪い。


「――っと、これが遺跡か?」


 大きな岩とか、柱の一部が見えるが、神殿って形ではなかった。建物自体、過去に破壊されたみたいだ。苔とか生えて、遺跡風味は否が応でも感じるがな。


「……へぇ」


 台座があって、そこに剣が刺さっていた。伝説だと封印されてたって話だが、建物は崩れていて、野ざらしに近い形になっている。


「これが魔剣か」


 台座に刺さっている状態だが、そこまで大きいというわけでもない。俺のショートソードよりは太くて長くて重そう。


 魔剣というだけあってしっかりした作りで、汚れや埃は目立つが錆びついている様子はない。古代の技術、それとも魔法金属ってやつか。ガードの部分が炎を象っているのか、ちょっと凝っているかもしれない。


 台座に字が彫ってあるっぽいが読めなかった。俺はグリップを握ってみる。――っと!


 するん、と剣が抜けた。


「……はあっ!?」


 思わず声に出た。俺の右手に、魔剣と思われる剣があった。おいおいおい……! こんなあっさり抜けるもんなのかよ。拍子抜けである。俺、特に力も入れてないんだけど? 「騙されてるのかな……。それとも俺、魔剣に選ばれし者だったとか?」


 試しに振ってみる。ブン、と風を切る音が唸る。お、割といい感じじゃないか! ひと通り振ってみるが悪くない。


 ショートソードに比べると大きくて重いはずなのだが、さほど気にならない。むしろしっくりくる。


「しかし……伝説に聞こえる凄いパワーとかは別に感じないな」


 よくできたロングソードといった感じだ。庶民には目ん玉飛び出るくらいの大金だが、金さえ払えば買えそうな魔法金属製の剣のようにも思える。


「でもまあ、こいつを抜こうとした連中も結構いるみたいだし、見せればあいつらの鼻を明かしてやるくらいはできるかもしれんな」


 それでどこぞのパーティーに加われば、当面何とかなるだろう。


『……ぬるい』


 ん? 


『こやつ……ぜんぜん、力を感じない』


 女の、声……? 何か声がした! どこだ? 気配を感じないが周囲を見回す。誰かに見張られていたか?


『おう、声くらいは聞こえるか』


 もしかして、この『魔剣』か……?

ブクマ、評価、お待ちしております。

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