第2話、パーティーメンバー募集
モテるスキルを与えよう、と、俺の祈りに神が応えてくれた!
やったぜ、俺!
と、言ったものの、単なる幻聴。勘違いかもしれない。とりあえず、本当にモテるスキルを授けられたなら、周囲の俺への反応にも変化があるだろう。それを見て判断しよう。
俺は教会を後にする。老シスターが、帰り際の俺に会釈をしてくれた。俺も会釈したが……特にいつもと同じだよな?
教会から冒険者ギルドまで歩いてみた。
ウルラート王国の王都カルムの街並みは、人が多くて昼間も盛んだ。すれ違う人々の反応を注意深く観察したものの、特に変化はない。
特別注目を集めることもなければ、知らない女の子に声を掛けられるなんてハプニングもなかった。
そして到着したカルム冒険者ギルド。王都にいる冒険者の大半が所属していて、ここで仕事を斡旋してもらう。
わざわざ冒険者が営業しなくても、ここに来れば仕事を探せるってわけだ。まあ、ランクによって仕事が割り振られるので、下級冒険者だといい仕事の早い者勝ち争奪戦がよく見られたりする。
冒険者って言えば、魔物を退治したりダンジョンを探索してお宝を探したりする、ちょっとカッコいいお仕事――ってイメージなんだが、そんなのは上級のエリート冒険者に限る。
駆け出しや下級の冒険者ってのは、金次第で仕事をやる何でも屋だ。魔物退治もあるが、商人の護衛だったり、魔物の目撃報告が本当かの確認だったり、はては町の警備スケットやネズミ退治や落とし物探しなんかもやったりする。
英雄に憧れた俺みたいな馬鹿を除けば、大体は実家の仕事が継げない次男以降とか、親がいない貧困層のガキとか、口減らしで追放された奴が冒険者になる。……ガキとか追放連中ってのは大抵、消耗品のように消えていくんだけどな。
俺も冒険者をやっている口だが、所属していたパーティーを追放されてソロになっちまった。
ざっと1階のギルドフロアを見渡す。……やはりいつもと変わらない。
そうだ、受付嬢に声を掛けよう! いつも依頼の手続きや報酬でやりとりするから、変化があればわかるかもしれない。
「こんちは」
「……こんにちは」
何か普通に返されてしまった。えーと、この受付嬢、何て名前だっけ? 何度か仕事のやりとりしたけど、そこまで親しくない。
「俺が誰だかわかる?」
「冒険者票をお願いします」
「……」
残念、向こうも俺の名前を知らなかった。
冒険者はランクに応じてそれぞれの冒険者票という小さなプレートを持っている。これが冒険者の証であり、身分証明に使われる。
「あー、ヴィゴ・コンタ・ティーノさん」
「コンタ・ディーノ。ティじゃない、ディ」
「そうですか、失礼しました」
謝罪してくれたが、お気持ち程度だった。くそぅ、何も変わってないじゃないか! 教会で聞こえた声みたいなのは、俺の勘違いかー?
「今日からソロになったそうですね。ひとりは大変ですけど、頑張ってください」
「お、おう……」
一瞬、優しい言葉を掛けられたので期待したら、生暖かい業務用スマイルを向けられた。
「……」
「何か?」
「別に」
仕方なく、掲示板のほうへ向かう。依頼探し――ではなく、パーティーメンバー募集の紙が貼られた方だ。
さすがに冒険者を続けるなら、ソロよりパーティーを組んでいた方がいい。もちろん、一言パーティーと言っても色々あるから、必ずしも募集に合うかどうかはわからんけれども。
と、そこにひとりの女戦士が立っていた。
亜麻色の長い髪、整った顔立ちに、スタイル抜群の美女。ただし、デカい。
胸も尻もデカく腰回りはほっそりしているが、そうでなく身長がだ。190センチ近くある大女である。武器はロングソードのようだが、彼女が持つと小さく見える。それだけデカいのだ。
確か、ルカって名前だった。美人だけど、これだけ大きいと男どもが萎縮しちゃって、敬遠されているって話だ。
このナリだからギルドじゃ、ちょくちょく見かけるけど、直接話したことはない。彼女、パーティーメンバーの募集を見ているのかな……?
俺は神様からモテるスキルを授けられた……ような気がする。
幻聴かどうか確かめるために周囲の反応を確かめようとしているのだが、今のところは特に変化がない。
本当に何もないのか? パーティーメンバー募集の貼り紙が貼られた掲示板の前に立って、俺は同じく貼り紙を眺めている、ルカの隣に立ってみた。
どうだ? モテる力を授かった俺が隣に立てば、自然と意識するだろう?
ルカが視線を一瞬、こちらに向けた。上から見下ろされるって、何か怖ぇな。視線が合いかけて、とっさに視線を貼り紙に戻す。
なに気まずくなってんだ、俺!? 畜生、大女だけど、ルカは美人だからな。俺の数少ない異性との交友経験を以てしても緊張してしまう。
そら、声を掛けろ。目ぇ逸らしちまったから、こっちからは気まずくていけない。声を掛けろ。掛けてくれーっ!
ちらっ……。
「あの……」
おっ。ルカがこちらを見ていた。自然と見下ろされる格好だが、小首を傾げている彼女は、それだけでも俺の心をかき乱した。
ルカは緊張したように、俺を見つめて、そして口を開いた。
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