第138話、セカンドホーム
妖精の籠の中の様子を見に行くと、移植したドリアードの木がデンと立っていて、例の廃屋寸前だった建物が解体されていた。
その家だった周りには、新しい木材やら石材やらが積み上げられていて、おそらくそれらを使って家を立て直すのだろう。
「……何か増えてる」
帽子を被ったプチドワーフみたいなのが、木材を切ったり加工したりしている。フェアリーより一回り大きい翼を持つ妖精みたいなのが、木材を乾かしていて、水辺には人魚らしきものが家づくりの手伝いをしている。
「ヴィゴ様、お帰りなさい」
イラがにこりと出迎えた。……お帰り、は果たして正しいのかこの場合。
「どんな状況なんだ?」
アウラはここに第二のホームを作ると意気込んでいたが。
「ファウナさんの召喚術で、下級精霊さんを呼び出して、手伝ってもらっているところですね」
「へえ、召喚術か」
プチドワーフとかフェアリーの大型版とか人魚は、下級精霊なのか。精霊ということはあれか。ドワーフみたいなのがノーム、大型フェアリーはシルフ、人魚はウンディーネかな?
四大魔法属性の精霊とかで、名前くらいは割と有名ではある。……本物は見たことなかったけど。
その召喚術を使ったエルフのファウナは、アウラと何事か話し込んでいる。遠くから見ると、ファウナの横顔ってかなり儚げ美人だよな。
「ちなみに、あの建材はどこから?」
「木材はアウラさんですね。あの人が木を生成して、急成長させてます。石材はファウナさんです。召喚術で大岩を召喚しているんですよ」
「岩を召喚って……どこから?」
「さあ? わたしにはわからないです。アウラさん曰く、魔法で具現化しているものでは、とか言っていましたね」
「魔法ってことは、召喚術じゃないのでは?」
ふと思ったが、それを聞いたイラは首をかしげた。
「それが普通の魔法と違うんですよ」
「どう違う?」
「ふつう、魔法で岩を具現化すると、ある程度の時間で元の魔力に戻ってしまいます」
あ……。言われてみれば、大岩をぶつける魔法にしろ、岩の壁の魔法にしろ、一度出したら残り続けることなく、時間が経つと消滅する。魔力を岩に一時的に変換しているだけなので、時間経過で元に戻るのである。
「ファウナさんの召喚術の岩は、いわゆる固定化されているので、時間が経っても岩のままなんですよ」
「なるほど」
「ちなみに、普通の魔法でも固定化込みで具現化させれば、元の魔力に戻らずに岩のままで作ることができるそうです。アウラさんが、ニニヤちゃんに魔法の固定化を教えていました」
ほー。ちゃんと先生やってるんだな。俺はファウナを見やる。
「精霊を召喚して石材となる岩も召喚とか、魔法の類いだと思うけど、魔力の負担とか大丈夫なのかな?」
「ファウナさんはエルフですからね。人より魔力量が桁違いに多いそうですよ」
イラはそう言った。エルフは魔力量が人間より多いのか。知らんかった。
「ただ負担には違いないので、あまり無理はして欲しくないですよね」
「岩が欲しいなら、邪甲獣ダンジョンで回収した大岩がいっぱいあるから、それを使ったほうがいいんじゃないかな? ダイ様の収納庫にあるはずだ」
我の収納はゴミ入れではないぞ、って文句を言われたやつ。いつか役に立つこともあるだろうって、今がその時かもな。
ということで、俺はアウラとファウナのもとに行って声をかける。案の定、ここにクラン用ホームを作るという話だったので、ダンジョン天井を構成していた岩を提供すると言っておいた。
「いつか役に、なんて、役に立つことないパターンだけど、本当に役に立つのは珍しいわね」
アウラが、わざとらしくおどけて見せる一方、ファウナは淡々と頷いた。
「……建材の提供、ありがとうございます」
人形めいたお礼は、召喚術酷使で疲れていたりするのか? 素のような気もするがあまり無理はしないでほしい。
そこへ、リーリエが俺の横っ面にぶつかってきた。いてっ……。
「ヴィゴ、アレ! 見てみて!」
フェアリーの体当たりなど、大した痛みはないが――ええ、と何々……。彼女が指さした方を見れば。
「エエーッ!?」
アンジャ神殿地下の最下層で、魔王の欠片が取り付いて暴れた邪甲獣装甲製ゴーレムが動いているではないか!
「ヴィゴさーん!」
ゴーレムの上に乗っているのはマルモだった。それによく見たら胴体の上に黒スライム――ゴムが乗っていないか?
四角い箱形の胴体に、無骨な手足が2本ずつある邪甲獣装甲ゴーレムが、のしのしと歩いてくる。
「これどうしたの?」
「動かせるように、修理しました」
マルモが楽しそうに言った。
「正確には、修理というか、ゴムちゃんが動かせるようにしたというか」
ドワーフ少女は「ゴムちゃん、降りたい」と言うと、胴体の上に収まっている黒スライムが動いたように見えた。
するとゴーレムの右腕が足場になるように動き、その上にマルモが飛び乗ると、腕をそっと地面近くへ下げた。……へぇ、何かそうやってると、ゴムがこのゴーレムの頭で、体は胴体に収まっているようにも見えるな。
「関節などは、サタンアーマー・スライム素材を使ってるので、ゴムちゃんが制御できるようになっています。ゴーレム特有の関節が弱点などとはもう言わせません!」
サタンアーマー素材の間接なんて、聖剣以外無敵じゃん。それ以外の装甲は邪甲獣の装甲でしょ……。これどうやって倒すんだよ。
「そこはほれ、聖剣なり神聖剣の出番じゃよ」
ひょい、とオラクルが顔を覗かせた。あー、確かに。サタンアーマー素材は聖剣までは防げないんだもんな。
リーリエが、ゴーレム頭となってるゴムのそばに立って、ぽんぽんと触っている。
アウラが「へぇ」とゴーレムに感心している横で、ファウナが言った。
「……とても強そうですね」
「動きはそれほどですけど、パワーはありますよ!」
マルモは腕組みしながら、邪甲獣の装甲ゴーレムを見上げた。……ドワーフとエルフって種族的に仲がよくないって聞いたことがあるんだけど、マルモとファウナを見る限り、そういうのなさそうだな。
ファウナは、あまり喋らず淡々としているが、マルモに対しても他のメンバーと態度が違うということはないし、マルモも普通に接している。
仲がいいのはいいことだ、うん。
それにしても、ドワーフにエルフ、ドリアードに獣人、フェアリー、スライムに機械人形――? 魔剣や神聖剣まで含めていいかはわからないけど、リベルタは、バラエティーに富んでいるよな。
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