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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第8章 野生児と曇天に舞う羽

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第99話 曇天に舞う羽

「今聞いた話を整理すると、まずはその、霊峰れいほうアイオーンに行かなくちゃだね」

 ヴァンデンスの言葉を信じるかどうかは置いておくとして、サラマンダーの言葉に俺も賛同さんどうする。


 そもそもの話。霊峰れいほうアイオーンに行くのは当初の目的だったわけだ。

 当然、俺以外の皆も同じく賛同さんどうしているみたいで、少し黙り込んだ後に、ぽつぽつと話が進み始めた。


霊峰れいほうアイオーン……それって結局どこにあるチ?」

「ここから南東じゃよ。まぁ、まっすぐ南東に進むのはすすめんがな。一度、南のセルパンがわあとに向かうのがいい」


「セルパン川……?」

 どこかで聞いたことあるような無いような、そんな川の名前に俺が首をかしげていると、ヴァンデンスが続ける。


「あぁ、行けば分かるとは思うが、とてつもなく巨大な岩の橋が掛けられている場所のことじゃ」

「イワのハシ……」

「ガーディ、食い物じゃないからね?」

「ワ、ワカッテル!!」


 よだれを垂らすガーディと、たしなめるサラマンダー。

 そんな2人に微笑ほほえみをこぼすロネリーの背後で、ウンディーネが口を開いた。

「その橋を渡ったら、東に進めばいい。と言うことであろう?」

「物分かりが良いじょうさんだ。ほれ、もっとこっちに寄らんか?」

る訳が無かろう、たわけが……」

「つれないのぅ」


 教えてくれてる相手にしんらつだな……。

 なんて、当のウンディーネに直接言えるわけもなく、俺が苦笑いしていると、ペポが言う。


「ちょっと待つチ。霊峰れいほうアイオーンに行くのは良いチ。でも、フェニックスが居ないと意味が無いチ?」

「おぉ。そうじゃったそうじゃった。その話もせんとな」


 彼女の言葉で思い出したらしいヴァンデンスは、頭をボリボリときながら告げる。

「良いか? フェニックスとは不死鳥と呼ばれている幻獣げんじゅう。そのフェニックスが死んだとき、どうなると思う?」

「死んだら死んだままじゃないのか?」

「違う。フェニックスは死ぬと、火の中からよみがえるのじゃよ。だから不死鳥と呼ばれておる」

「火の中から……よみがえる」


 そのよみがえり方は、地底監獄ちていかんごくで見たフェニックスの能力と何か関係があるんだろうか?

 なんて俺が考えている間にも、話は進んでいく。


「そうじゃ、そして、このあたりにある火と言えば、北の魔王城付近だけ。まぁ、ウィーニッシュの城に無いとも言えんがな」

「……それはつまり、一度フェニックスを殺せってことでしょうか?」

「まぁ、そういうコトじゃな」


 ロネリーの問いとヴァンデンスの応答おうとうの後、一瞬いっしゅん訪れる沈黙ちんもく

 そんな気まずい空気を打ち消すように、ケイブが口を開いた。


「ってことは、誰かが魔王ウィーニッシュの浮遊城ふゆうじょう徹底的てっていてき破壊はかいする必要がありそうゴブゥ」

「その破壊にまぎれて、フェニックスを殺すってことか」

「それができるのは……」


 空に浮かんでいる城に、嵐の中をくぐりながら接近し、攻撃する。

 そんなことができるのは彼女達しか居ないだろう。

 そう考えた俺と同じように、自然と全員の視線がペポとシルフィに集まった。


「アタチ!? ま、まぁ、飛べるのはアタチだけってのは、分かってるチど」

「まぁ、細かな打ち合わせは余所よそでやってくれ」

 あせるペポがぼそぼそとつぶやいた時、まるで疲れたように大きなため息をいたヴァンデンスが、起こしていた上半身を仰向あおむけに寝せた。


 そして、寝たままの体勢で俺達に向かって告げる。

「悪いが、流石さすがのワシも、そろそろ限界が来てるみたいでな、最期さいごくらいは、この相棒と2人きりにさせてはくれないか?」

最期さいごって……」


 肩に止まるちょうのラックを指さしながら言うヴァンデンス。

 そんな彼に、冗談言うなよ、と言おうとした俺は、しかし、続く彼の言葉に一瞬(ほう)けてしまう。

「冗談などではないぞ? なにせ、ワシは気合きあい根性こんじょうで150年間、ただただ、お主らを待っておっただけじゃからな。そろそろ、役目もまっとうできたってもんじゃろう」


「……150!? ヴァンデンス、あんた一体何者なんだよ」

「最初に言ったじゃろう? しがない老人だ。ただ一つ、弟子の尻拭しりぬぐいをするためだけに生きながらえた、老骨ろうこつじゃよ」


 そう言ったヴァンデンスは、それ以上深く語ることなく、俺達をその場から追い払った。

 追い払われては仕方がないと、そのまま元来た道を戻り、ダンジョンの外に向かう。


 道中、サラマンダーのほのかなあかりに照らされるせま洞窟どうくつは、俺達に考える時間と環境を与えてくれた。

 そうして、ようやくダンジョンの縦穴たてあなに出た俺達は、直後、背後からせまり来る無数の音を耳にする。


 咄嗟とっさに振り返った俺達を追いこしていくように、飛び込んで来た無数のあざやかなちょうが、そのままダンジョンの縦穴を登って曇天どんてんへと向かう。

 そんな空を見上げた俺は、蝶におおわれた曇天が、一瞬だけ晴天せいてんに変化したのを目の当たりにした。


 これは、ヴァンデンスとラックが最期さいごに見せてくれた幻覚げんかくだろうか? それとも未来みらい


 今見た光景をまぶたに焼き付けながら、そっと目を伏せた俺は思う。

 この曇天どんてんに向かって飛んで行った無数の羽は、散って行ったんじゃない。

 あざやかにかろやかにすこやかに。そして楽しげに舞って行ったんだと。

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