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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第8章 野生児と曇天に舞う羽

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第98話 策

 危機ききを救ってくれたおじさんが、ラックの作ったまぼろしだった。

 そんな驚きを胸に抱えたまま、俺達はしばし休息する。


 色々とヴァンデンスに聞きたいことはあったけど、それはペポ達が目をましてからにしよう。

 そんなヴァンデンスの提案ていあんんだ形だ。

 まぁ、正直俺も疲れてたし、ありがたい提案だってことは間違いない。


「で? 今はどういう状況チ?」

「それは僕も気になるなぁ」

 目をましたペポ達のそんな言葉で、ようやく話し合いが始まる。


「まぁ、色々あったわけだけど、簡単に言うと、このお爺さんが俺達を助けてくれたんだ」

「そう言うことだ、少年少女諸君、この老いぼれのことをしっかりと敬いなさい」

「そ、そうチ? 助かったチ。ありがとうチ」

「ありがとうございます。僕、もうダメかと思っちゃってたよ」


 ペポやサラマンダーに続いて、俺達は一通り礼を言った。

 サラマンダーの言う通り、ヴァンデンスが居なかったら本当に、俺達は皆捕まっていたかもしれない。もしくは殺されていた可能性だってある。

 命の恩人だ。


 得意げにニヤケて見せる老人の姿は少し気になるけど、意識的に気持ちを落ち着けた俺は、改めてヴァンデンスに声を掛けようとした。

 その時、割って入るようにロネリーが口火を切る。


「あの、色々と聞きたいことはあるのですが、まず初めに、あなたは何者ですか?」

「ん? 言ったじゃろ? ワシはお主らを待っておった、しがない老人じゃよ」

「そうじゃなくて、どうして私達のことを知ってたんですか? 私達を待ってたって、どういう意味ですか?」

「それを説明するためにはまず、これを言っておかねばならん」


 そこで言葉を区切ったヴァンデンスは、小さく咳払せきばらいをした後、キメ顔で告げた。

「ワシは未来を見れるんじゃよ」

「未来を見れる!? それは本当なんですか!?」


 ヴァンデンスは驚くサラマンダーの様子に満足したらしい。

 気分良さそうな顔で続きを話し始めた。

「本当じゃよ? それで、お主らがかの魔王達を解放するのを見たのじゃから」

「解放? 倒すとか、そんな話じゃないのか?」

「さぁ、ワシにもそんな細かなところまでは分からん」


 未来が見えるんじゃないのかよ。なんてことを言えるはずもない。

 ヴァンデンスがどこまで本気で言っているのか、正直、俺には判断できそうもないな。

 少なくとも、俺達にとって敵ってわけじゃなさそうだ。

「それでじゃ、お主らにワシが持っている情報をさずけようと思っておる」

「魔王について、何か知ってるんですか?」

「あぁ、色々と知っておるぞ。と言っても、ほとんどが風雷ふうらいの魔王ウィーニッシュのことについてじゃがな」

「僕たちが一番知りたいことだね」


 1つ咳ばらいをしたヴァンデンスは、どこか遠い目をしながら続ける。

「ウィーニッシュには4人の強力な配下はいかる。そのうちの1人が、アーゼンじゃ。あのスキンヘッドの男じゃな。それから、メアリーという氷使いの女と、ゲイリーという隠密おんみつけた男。そして、弓使いのマーニャじゃ」

「あの男以外に3人もるゴブか……」

手強てごわそうゴブゥ」


「さらに、あ奴らが拠点きょてんにしている浮遊城ふゆうじょうは、ウィーニッシュの思いのままに移動することができる。なにしろ、あの城をこの150年間浮かべ続けているのは、ウィーニッシュなのだからなぁ」

「150年間ずっと浮かべ続けてるチ!? 桁違けたちがいチ……」

「シルフィと同じように、風をあやつってるんでしょうか? だとしたら、よほどの使い手ですね」


「そうじゃな。じゃが、お主らが気を付けるべきなのはもっぱらアーゼンじゃろう。なにしろ、他の奴らはあまり好戦的こうせんてきではないからなぁ」

「そうなのか? それは、俺達的には好都合だけど」

「そうも言っておられんぞ? さっきも言ったじゃろう? あの城はウィーニッシュの思いのままに動いてしまう。つまり、攻め込むこと自体じたいむずかしいのじゃ」


 ヴァンデンスの言葉に、俺を含む全員が黙り込んでしまう。

 ただでさえ城への侵入が困難なのに、逃げられたら、フェニックスを助けに行くこともできない。

 どうしたらいいんだ?


 改めて、先行きの不透明ふとうめいさに気づかされた俺達。

 だけど、そんな俺達の様子を見たヴァンデンスは、安心しろとばかりに笑みを浮かべる。

あんずるな。さくが無いというワケでも無い」


 そう言った彼は、ゆっくり上半身を起こしたかと思うと、そっと俺を指さした。

「ダレンとノームは、霊峰れいほうアイオーンから海へ続くような川を作れ」

 続いて、彼の指がサラマンダーに向けられる。

「サラマンダーは、海へ流れた川の水を蒸発じょうはつさせよ」

 さらに、ペポに指先を向けた彼は続ける。

「ペポとシルフィは、蒸気を風に乗せて、世界中へ広げよ」


 最後に、腕を降ろしたヴァンデンスは、ロネリーとウンディーネに目を向け、告げた。

「この一連の媒体ばいたいを、お主達が生み出すのじゃ」

「あの、そんなことをして、何の意味が……」


 当然の疑問を口に出すロネリー。

 しかし、そんな彼女の言葉を遮るようにして、ヴァンデンスは言う。

「さすれば、あの方をよみがえらせるいしずえを作ることができるじゃろう」

「あの方?」

「そう、かつてお主らの代わりに、世界の均衡きんこうを保っていた女神、ミノーラ様じゃ」

「……女神!?」


 突拍子とっぴょうしの無い話に、思わず声を漏らした俺は、みょうに真剣な眼差まなざしのヴァンデンスに圧倒されてしまった。

 多分、彼は本気でその女神とやらをよみがえらせるつもりらしい。


 って言うか、よみがえらせるってどういうことだ?

 そもそも、どうしてヴァンデンスはそんなことを知ってるんだ?


 いて出てくる疑問を、俺が言葉にしようとした時。

 右肩にとまっているラックに視線を落としたヴァンデンスが、小さくつぶやいたのだった。

「言ったであろう? ワシは未来を見れるのじゃ」

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