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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第8章 野生児と曇天に舞う羽

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第97話 若かりし頃

 おじさんがダンジョンと呼んだ大穴には、壁面へきめん沿うような道が沢山作られていた。

 まるで、誰かがこの大穴の底に降りるために作ったような、そんな岩の道を歩きながら、俺は思わず下に目を落としてしまう。


「深いな……」

「そうですね。間違いなく、ロカ・アルボルの下に出来てた大穴よりも深いと思います」


 すぐ後ろを歩くロネリーの言葉に、うなずいて賛同さんどうしながら、先頭を歩くおじさんの背中に目を移す。

 こんなに細い道だってのに、フラフラと危なっかしく歩くおじさんは、見ているだけでおっかない。


 かく言う俺も、人のことを言っていられるほど余裕よゆうは無かった。

 今の俺は気絶したペポを背負っているんだから、落ちたりするわけにはいかない。

 つくられて長い年月が経っているせいか、崩れやすくなっている足元に注意しながら進む。


 それから程なくして、先頭のおじさんがようやく横穴の中に入っていくのを見た俺達が、一斉に胸を撫で下ろしたのは言うまでもないだろう。

「出来る事なら、もうこの道は通りたくないな」

「気持ちは分かりますけど、この先に出口があるんでしょうか?」

「ロネリー、そんな不安になるようなことを言わないでくれよ」

「何を言ってんだ、ダレン。オイラが居れば、そんな問題は問題にならないぜ」


 いつも通り俺の頭の上でそう言うノーム。

 それもそうだ、と俺が彼に賛同した時、前を歩いていたおじさんが狭い横穴から広い空間に入って行った。


 特に何も考えず、そのまま後について行った俺は、その空間の様子を見て、一度足を止めてしまう。

「ここは……もしかして、人が住んでたのか?」


 すっかりちてしまっているけど、この空間にはいくつもの建物が並んでいた。

 おまけに、外の様子からは考えられない程、多くの植物が生いしげっている。

 更に不思議なことに、この空間だけがやたらと明るい。


 天井を観察した俺は、所々に光を放つ岩が散りばめられていることに気が付いた。

 その岩を灯りとして暮らしていたらしい。

「不思議な場所ですね」


 感嘆かんたんの声を漏らすロネリー。

 彼女の後からこの場所に足を踏み入れたガーディやベックスとケイブらも、驚きを隠せていない。


 と、思わず足を止めてしまっていた俺達は、少し先でこちらを振り返っているおじさんに呼びかけられた。

「おい、もう少しだ。早く着いて来てくれ」

「ワカッタ!」


 横でガーディが返事するのを見ながら、背中のペポを背負い直した俺は、再び歩き出した。

 そうして、おじさんの言う通り少しだけ歩いたところで、俺達は1軒の家に辿り着く。


 他の建物に比べて、少しだけまともに見えるその家に入った俺達は、おじさんに通されるがままに、少しほこりっぽい居間へと通される。

 すると、そこには1人の老人が、長椅子の上に横たわっていた。


 何をするでもなく、ただ静かに呼吸を続けているその老人は、俺達を見たかと思うと、小さく手招きをする。

 一度、互いの顔を見合わせた俺達は、老人のそばに近寄った。


「よく来たなぁ。正直もう、待ちくたびれておった所じゃよ」

「待ちくたびれてた? ってことは、俺達を待ってたってことなのか?」

「そうじゃよ」


 プルプルと震える手で自身の顔を拭った老人は、少しだけ嬉しそうに表情を和らげる。

 すっかり抜け落ちている白髪や、せ細ってしまっている腕から察するに、彼は本当に長い間待ち続けていたらしい。


 どこか居たたまれない気持ちを抱きそうになった俺は、ふと、老人の傍に立っているおじさんに目を向けた。

「あの、俺達を待ってたって言ってるけど。このお爺さんは誰なんだ?」

「この爺さんの名は、ヴァンデンス。もはや自分で名乗ることもできなくなった、おいぼれだよ」


 どこか切なそうに告げるおじさんを見たロネリーが、何を思ったのか口を開き、ヴァンデンスに話しかけ始めた。

「ヴァンデンスさん。初めまして。私はロネリーです」

「おう、綺麗きれいな嬢ちゃんだ」

「ありがとうございます。一応、皆の紹介をしておきますね。彼がダレンで……」

「知っておるよ。ダレン、ロネリー、ペポ、アパル。ベックスとケイブに、ノームとウンディーネとシルフィとサラマンダー」


 少しかすれ気味ではあるものの、ヴァンデンスは見事に俺達の名前を言い当ててしまった。

 こんな老いぼれた爺さんが、どうして俺達のことを知ってるんだろう。


 なんてことを考える俺をからかうように、ヴァンデンスは悪戯いたずらっぽく告げた。

「ワシはなぁ、未来が見えるんじゃよ」

「未来が見える? そんなこと出来る人が居るのか?」

「彼が言っていることは本当だよ。ダレン。それに関しては、おじさんが保障しよう」


 疑問に思う俺をさとすように言うおじさん。

 彼の言葉を完全に信じることができなかった俺は、釈然しゃくぜんとしない気持ちを、言葉と態度にしてぶつけてみた。


「名前も教えてくれない人の言うことを信じろってか?」

「ふむ、それもそうだな。だけど、少年たちをここに案内するまで、おじさんは名乗ることさえできなかったんだよ。許してくれ」

「どういうコトだ?」


 おじさんの言うことが理解できないらしいガーディが、首をひねる。

 大丈夫だぞガーディ。俺も良く分かって無い。


 ここまで来ても誤魔化すつもりか?

 と、少しいきどおりながらも、おじさんへの追及を再開しようとした俺は、しかし、それ以上質問を投げることができなかった。


 なぜって?

 簡単な話だ。俺が質問をするよりも早く、おじさんが答えを口にしたからだ。


「おじさんは、ヴァンデンスのバディだ。名前はラック。よろしくな」

 そう言った次の瞬間、普通に立っていたはずのおじさんが、無数の蝶となって散らばっていく。


「なっ!?」

 何が起きたのか、一瞬分からなかった俺は、目の前をひらひらと舞う1匹の蝶を目の当たりにする。


 驚きのあまり絶句する俺達。

 そんな俺達を見て、微かに笑みを浮かべたヴァンデンスが、小さく告げたのだった。

「若かりし頃のわしの姿はどうじゃ? イケてるじゃろ?」

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