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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第8章 野生児と曇天に舞う羽

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第95話 覚束ない

 風を吐き出すシルフィが見る見るうちにちぢんでゆき、それにともなって、押しつぶすような上からの風が少しずつ弱まってゆく。

 普通なら、その時点で立っていられる人物なんていないはずだ。


 そんな俺の確信は、目の前に立つ男によってあっけなくくつがえされた。

「おいダレン、こいつ、マジで強そうだぜ」

「だな。今までの奴らとは格が違いそうだ」


 元の姿になったシルフィをペポが回収している中、いまだに陥没かんぼつした地面の上に立っているスキンヘッドの男を見ながら、俺とノームは言葉を交わした。

 両腕を大きく広げて、空をあおぎ見ている奴の視線の先には、間違いなくペポとシルフィが居る。


「オメェらもつえぇじゃねぇか!!」

 大層たいそううれしそうに笑みを浮かべながらそう叫んだ男は、体勢たいせいを低くしたかと思うと、両足に力をめ始めた。


 明らかに、何かをしようとしている。

 そう直感した俺は、先ほどこの男が現れた時の事を思い返しながら、皆に向かって叫んだ。


「跳ぶ気だ!! ペポ!! 気を付けろ!!」

「遅い!!」

 俺が叫ぶと同時に、力強く踏み込んだ男が、勢いよく跳びあがる。


 その跳躍力ちょうやくりょくは、もはや人間のそれではない。

 地面に大量のひび割れを作って、跳びあがった彼は、まっすぐにペポの元へと突っ込んでゆく。


「アタチに空中戦をいどむなんて、生意気チ!!」

 回収したシルフィを背中に乗せ、華麗かれいに宙を舞いながら男をむかったペポは、ひらりと男の突進をかわして見せた。


 その様子を見て、流石さすがのスキンヘッドの男もオルニス族相手に空中戦は無謀むぼうだったか。

 と俺が考えた直後、事態が一変いっぺんする。


「甘いぜ!!」

 自身の攻撃がかわされた瞬間、勢いよく体をひねった男はそう叫んだ。


 すると、いつの間にか男の腰から生えていた太い尻尾しっぽが、鋭く()()()()ペポに重い一撃いちげきを浴びせる。

「うっ!!」

 背中に叩きつけるようなその一撃を受け、気を失ってしまったのか、落下を始めるペポ。


「ペポ!!」

「私が受け止めます!!」

 咄嗟とっさに叫ぶ俺と、水を身にまといながらペポの落下地点に向かって走るロネリー。

 残りの俺達も、彼女の援護えんごに回ろうと一歩を踏み出した時、まるで俺達の動きを呼んでいたかのように、頭上からスキンヘッドの男が降って来た。


「させねぇよ!!」

 いまだに落下をしているペポよりも、先に落ちて来た男は、走っているロネリーに向かって突進を仕掛ける。


「ロネリー!!」

「アブナイ!!」

 俺と同時に叫んだガーディが、男の背中に飛び掛かるが、そんな彼をものともせずにロネリーの眼前におどり出る男。


 その剛腕ごうわんを大きく振りかぶった男は、容赦ようしゃなく拳の一撃を放った。

 重たく武骨ぶこつなガントレットの拳が、ロネリーの腹めがけて放たれる。


 ヤバい!!

 俺がそう思った時、2人の間にサラマンダーが割り込むのを俺は目の当たりにした。


「ぐぅ!!」

「きゃあ!!」

 サラマンダーのうろこと、ウンディーネの水。

 それらで拳の衝撃を和らげたにもかかわらず、サラマンダーとロネリーは勢いよく後方へと吹き飛ばされ、壁に衝突する。


「ロネリー!! サラマンダー!! くそ! ノーム! 行けるか?」

「やるしかねぇだろ!!」

 俺の呼びかけに応じるように、地面の中に飛び込んでいったノーム。


 すぐに足元を踏みつけた俺は、飛び出して来た岩の槍を手に取って、スキンヘッドの男に突っ込んでいく。

「ちょこまかとうぜぇやつだ!!」

 素早い動きでスキンヘッドの男を翻弄ほんろうしつつ、たくみに攻撃を仕掛けているガーディ。

 彼に対して苛立いらだちを見せる男は、大きく両腕を振り上げると、勢いよく振り下ろした。


 振り下ろされた奴の拳が、周囲の地面を粉々にくだいてしまう。

 その結果、男の周囲を駆けまわっていたガーディは、足元の安定を失い、大きく失速してしまった。


「ヤバッ!!」

「まだまだだぜっ!!」

 バランスを崩し、転倒しそうになっているガーディが、短く声を漏らした時。

 そのすきを待っていたかのように足を振り上げた男が、ガーディを踏みつけにしてしまう。


 くだけた地面の中に、うつぶせの状態で踏みつけられたガーディは、気絶してしまったのか動かない。

 それらを全て目にしていた俺が、強く歯を食いしばりながらも槍を構え、男に飛び掛かろうとした時。


 男のすぐ脇に、ペポが落ちてきた。

 そんな彼女が地面に落ちる直前、何を思ったのかスキンヘッドの男はペポを尻尾で受け止めると、そっと地面に降ろす。


「こいつは強ぇからなぁ。もっと楽しませてくれねぇと」

 そう言った男は、視線を上げて俺をにらみ付ける。


「残りはお前だけだぜ? さぁ、俺を楽しませてくれよ」

「この野郎!!」

 俺は槍のつかを強く握りしめ、勢いよく男に突進する。


 しかし、俺の攻撃は全くと言って良いほど通用しなかった。

 激しい突きも、ぐような斬撃ざんげきも、ノームとの連携れんけいも。

 防がれ、かわされ、打ちくだかれる。


 そしてついに、全身の疲労ひろうが限界にまで達した時、頃合いを狙ったかのように拳を構えた男は、躊躇ためらううことなく打ち込んでくる。

 槍で防御しようとしたけど、重く固い一撃を受け、あっけなく折れてしまう。


 そのまま、腹部に一撃を受けた俺は、後ろに吹っ飛んで地面を転がった後、仰向けのまま動けなくなった。

 身体に力が入らない。

 痛みと苦しみと熱が、腹から全身に広がっていく。


 男がゆっくりと俺の方に歩いてくる。

 このままだとまずい。


 そう思う俺の思考に、2つの声が飛び込んでくる。

「俺の名はアーゼンだ。お前らを打ち負かした男の名、覚えておけ」


 勝ちほこりながら告げるスキンヘッドの男アーゼン。

 そんな彼の言葉に被せるように聞こえてきたのは、ひどく頓狂とんきょうな言葉だ。

「お~い!! そこの禿げ頭~!! 酒は~、ヒック、無いのかぁ!?」

「なっ!? てめぇは!!」


 どこからともなく現れた男の声に、驚きを見せるアーゼン。

 何事かと、声のした方に視線を向けた俺は、フラフラと覚束おぼつかない足で歩く男の姿を見つけたのだった。

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