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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第8章 野生児と曇天に舞う羽

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第94話 渦中の男

 男が着地した衝撃しょうげきを物語るように、地面に無数のヒビが入った。

 それだけの激しい衝撃しょうげきだったのにも関わらず、ピンピンとしているスキンヘッドの男は、やはりただ者じゃなさそうだ。


 そんな男の特徴とくちょうを上げるとすれば3つ。

 1つはその頭だ。わずかな光さえも反射してしまう彼のスキンヘッドは、俺達を探すように周囲を見渡している今も、輝きを放っている。

 2つ目は、屈強くっきょうな身体だろうか。常にきたえ続けているのか、筋骨きんこつ隆々(りゅうりゅう)としたその立ち姿は、かなりの威圧感いあつかんともなっている。

 そして3つ目は、両手に装着そうちゃくされているガントレッド。形状はシンプルだが、その武骨ぶこつさからは、恐怖さえ感じれる。


 こいつは強そうだなぁ。

 観察した結果を心の中で呟いた俺が、とりあえず、この男の出方を見ようと思った時。

 俺達のわきを2人の影が駆け抜けていった。


 ベックスとケイブだ。

 咄嗟とっさに彼らを止めようとしたけど、もう遅い。


 壁から勢いよく飛び出した2人は、スキンヘッドの男に向かって話しかけ始める。

「ちょ、ちょっと待つゴブ! 俺達は魔王バーバリウスの配下だゴブ!」

「そうゴブゥ! 敵じゃないゴブゥ!!」


 こいつ相手にそんな言い訳が通用するのか?

 と、一瞬いっしゅんあせりをいだいた俺は、しかし、男の反応を聞いて胸をで下ろすことになる。


「んあ? なんでこんなところにあの野郎の子分が居るんだよ?」

「そ、それは、監獄かんごくから逃げ出した奴らが居るから、追いかけてる最中ゴブ!!」

「はっ! そう言うことか。やっぱりあの野郎の部下共は、出来損ないだらけみたいだなぁ」


 どうやらベックスとケイブの嘘を信じたらしい男は、まるで2人をあざけるような笑みを浮かべた後、話を続けた。

「で? その逃げ出した奴ってのは、どんな奴だ?」

「そ、それは」

「1人の男だゴブゥ! 見張りのすきいて、1人で逃げ出したゴブゥ」

「ほう? そいつは面白い話を聞いたもんだぜ」


 誤魔化ごまかすようなケイブの説明を聞いた男は、腕組みをしながらそう言った。

 何か含みのある言い方に、俺を含む皆が緊張感きんちょうかんいだいたのが分かる。

「ど、どういう意味ゴブ?」

「俺が聞いた話だとよぉ、4大精霊が大暴れして、逃げ出したって話だぜ?」


 得意げに笑いながら言った男は、顔を引きつらせているベックスに向かって告げた。

「俺はてっきり、お前らがそうだと思ってたんだがなぁ?」

「そ、そんなわけないゴブ!」

「そうゴブゥ! オラたち、見ての通りゴブリンだゴブゥ! 魔王様に逆らうはずがないゴブゥ」


 苦しい言い訳だ。

 やっぱり、この男に《《はったり》》は通じないだろう。

 と思った俺だったけど、事態じたいななめ上の方に進んでいく。


「まぁ、そんなことはどうでも良いんだけどなぁ。それより、お前らはその単独で逃げ出した奴を捕まえるんだろ? ってことは、俺の邪魔者じゃまものになるってワケだ」

「は? 何を言ってるゴブ?」

 本気でほうけたらしいベックスが、短く呟いた直後。

 スキンヘッドの男は両手のこぶしを握りしめて、身構えながら叫んだ。


「俺はなぁ、強い奴と戦いてぇんだよ。4大精霊だろうが、単独でテメェらから逃げ出した奴だろうが、知ったこっちゃねぇ。見つけてぶん殴って、力を試す。それだけだっ!!」

「ひぃぃ!!」


 体格に似合わず、俊敏しゅんびんな動きでベックスとケイブに殴りかかる男。

 咄嗟とっさ防御態勢ぼうぎょたいせいをとるケイブと、しりもちを付くベックス。

 今まさに両者がぶつかるという瞬間、間に割って入ったのは赤い髪をなびかせるガーディだった。


 激しく打ち込まれるはずだったスキンヘッドの男の拳を、両手で受け止めたガーディは、そのまま男を押し返してしまう。

 流石のスキンヘッドの男も、突然横やりを入れたガーディに驚いたらしい。

 一歩だけ後ずさりをした後、ガーディとつかみ合いの膠着状態こうちゃくじょうたいに落ち着いた。


「よくやったガーディ!! みんな、行くぞ!!」

「なんだ!? テメェら!!」

 ガーディとつかみ合いをしながらも、壁の影から飛び出した俺達をにらみ付けて来る男。


 そんな男を無視した俺達は、各々(おのおの)の行動を開始した。

 今回、俺とノームはあまり戦力にはならないかもしれない。

 と言うのも、この塩の迷宮は地面にも塩が浸透しんとうしているらしく、ノームの力が満足には発揮はっきできないらしい。

 当然、ワイルドの力も使えない。


 まぁ、完全に戦えないわけじゃないけど。

 そんな俺達よりも、もっと有利に戦いを進めることができる人物が居るわけで、今回は彼女たちに任せるのが最善さいぜんだろう。


「ペポ! シルフィ! 頼んだぞ!!」

「任せるチ!!」

 意気いき揚々(ようよう)と飛び上がっていく彼女達は、上空で吹き荒れている風に身を任せるように、宙を舞い始めた。


 風の大精霊であるシルフィにとって、絶えることなく吹き続ける嵐の中と言うのは、まさに自分のテリトリーだろう。


 ノームにとっての地中がそうであるように。

 ウンディーネにとっての水中がそうであるように。

 サラマンダーにとっての熱気の中がそうであるように。


 吹き荒れる空気中こそが、彼女の力の源だ。


「みんな! 吹き飛ばされないように、気を付けるチ!!」

 そう叫ぶペポに呼応するように、シルフィがみるみる内に巨大化していく。

 その姿は、以前カルト連峰れんぽうでイエティと戦った時に見たものよりも、何倍も大きい。


 上空の分厚ぶあつい雲までをも飲み込むように、周囲の大気を吸い込んでゆくシルフィの姿は、これから繰り出すであろう攻撃のすさまじさを物語っていた。

 この状況で、俺達ができることは限られている。

 当然、ペポとシルフィを最大限にサポートすることだ。


 ベックスとケイブがアパルを抱えて壁の奥に退避たいひしたのを見て取った俺は、皆に向かって告げる。

「ロネリー! サラマンダー! 3手に分かれるぞ! 奴をここから逃がすな!!」

「分かりました! 行くよ、ウンディーネ!」

「分かったよ!」

 スキンヘッドの男を取り囲むように手分けした俺達は、中心にいる男をにらみながら身構える。


 俺達がそうしている間も、ガーディと取っ組み合いをしていたスキンヘッドの男は、なぜか楽し気な表情を浮かべている。

「強い! 強いな! お前、名前を教えろ!!」

「ウルサイ!! ダマレ!!」


 名前を聞かれたことにいら立ちを見せるガーディ。

 それでもしつこく名前を聞こうとする男は、全く俺達の動きに気が付いていないらしい。

 このままだと、いつまでたってもガーディと取っ組み合いを続けそうだ。


 なんて、俺があきれながらそんなことを考えた時。

 上空にいたペポが、声を張り上げた。


「そろそろだチ!! ガーディ! 今すぐにそこから離れるチ!!」

「ガーディ!! すぐにそいつから離れろ!!」

 ペポと俺がそう叫ぶと、勢いよくきびすを返したガーディ。

 そのまま、すさまじい速度でサラマンダーの方へ走っていく。


 そうして、一人取り残されたスキンヘッドの男は、そこでようやく周囲の状況に気が付いたらしく、頭上を見上げた。

「ほう」

「喰らうチ!!」


 短く感嘆かんたんの声を漏らした男に向かって叫んだペポは、勢いよくシルフィを真下に向かってり落とした。

 その瞬間、大きく膨らんだシルフィが勢いよく落下を始めたかと思うと、重たい下降気流かこうきりゅうが発生する。


 直後、大量の空気をめ込んでいたシルフィが、スキンヘッドの男に向けて、口から風を放出し始めた。

 ズンッと、腹に響くような衝撃が、大気を伝わってくる。

 まるで、とてつもなく重たい何かがのしかかってくるような感覚におちいった俺は、しかし、それがまだ生易なまやさしいものだと思い知った。


 シルフィが狙い打ったスキンヘッドの男の足元の地面が、見る見るうちに陥没かんぼつしていったんだ。

 地面がへこむほどの風って、どんなだよ。

 すさまじく吹き付けて来る風を防ぐために、身をかがめた俺がそんなことを考えていた時。

 俺はそれを目にしてしまった。


 陥没かんぼつする地面の中心、まさに渦中かちゅうと言うべきスキンヘッドの男が、両足で立ち続けている。

 吹き付ける風に負けじと踏ん張る彼は、りきみながらも笑みを浮かべていた。


「まだ立ってられるのかよ……」

 顔を真っ赤にしながらも、立ち続けようとする彼の姿を見て、俺は思わず、そうつぶやいてしまうのだった。

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