第93話 光の正体
翌朝、目が醒めた俺は、目の前に穏やかな寝息を立てるロネリーの顔があることに気が付いた。
「え?」
と呟いてみるけど、状況を理解できない。
よくよく観察してみると、殆ど密着しているような状態の俺とロネリー。
寝返りを打ったりしたせいか、彼女が身に纏っている服が、少しだけ乱れている。
当然、乱れている服からは綺麗な柔肌が覗いているわけで、俺は思わず……。
「って!! ダメだろ!!」
相変わらず曇っている空の下、静まり返っている朝を切り裂くように、俺は叫んだ。
同時に上半身を起こし、彼女の方に伸ばしかけていた手を引き戻した俺は、ため息と共に頭を抱える。
「はれ? ダレンさん……おはようございます」
「ダレン、朝からそんな大声出してどうしたんだい?」
「やっと起きたチ。ダレン、良い夢は見れたチ?」
寝ぼけ眼のロネリーとサラマンダーは、未だにボーっとしている。
対照的に俺をからかって来るペポは、今まで見張りの役割だったのか、岩の上から俺達を見下ろしてきていた。
そんな彼女たちの声を聞いた俺は、気を取り直すために立ち上がると、全身の筋肉を伸ばした。
うん、こうして身体を動かしていると、さっき感じた動揺も何もかも吹き飛んで行くな。
なんて思いながら体操をする俺に、ロネリーが声を掛けてくる。
「ダレンさん。立てないです。起こしてください」
「え? いや、ロネリー?」
「立てないです」
有無を言わさない彼女の言葉に、さっき以上に動揺した俺は、両手を広げている彼女の前にしゃがみ込んだ。
そして、抱き着くようにしてロネリーを抱え上げる。
フワッと、甘い香りがした。
「えへへ」
嬉しそうに笑う彼女の姿は、とてつもなく可愛い。
可愛いんだけど……。
「なぁ、ロネリー。みんなが見てるんだが」
「へ?」
俺の言葉を聞いて初めて、周りのことを思い出したらしい彼女は、慌てたように俺から離れると、膝を抱え込んで座ってしまった。
「ご、ごめんなさい」
「あはは、朝から仲良しだねぇ。なんだか僕も、元気を貰った気がするよ」
「どんな神経してるゴブ……」
「ベックス、オラ達はサラマンダーとは違って、もう子供じゃないってことゴブゥ」
視界の端でブツブツと言っているベックスとケイブ。
そんな2人をあえて無視した俺は、岩の上にいるペポに声を掛けた。
「ペポ、おはよう。見張りお疲れさん。異常は無かったか?」
「寝てるダレンとロネリーが、抱きしめ合ってたこと以外は、特に無かったチ」
「んな!?」
悪戯っぽく笑うペポ。
そんな彼女の言葉を周りの皆からの視線に耐えかねた俺は、ロネリーの隣に膝を抱え込んで座った。
人って、恥ずかしさで死ねるんだな。
「もう、2人ともそんなに落ち込まないでよ。ペポも、ベックスとケイブも、これ以上からかったりしないで。分かった?」
「仕方ないチ。サラマンダーに免じて、許してやるチ」
「そうゴブね」
「仕方がないゴブゥ」
そんなやり取りを背中で聞いていた俺の元に、ガーディがやってくる。
スヤスヤと眠るアパルを抱きかかえている彼は、少し不思議そうな表情で告げた。
「ダレンとロネリーは、どうしてオチコンデルんだ? オデ、チカラになるぞ!!」
「っぐ……」
間違いない、ガーディは本心からそう言ってる。
その彼の良心と純粋さが、今の俺には深く突き刺さった。
「ぷっ……ガーディ、やめてあげるチ。それ以上は、ロネリーが恥ずかしさで気絶するチ」
ペポの言葉にあまり納得はしていない様子のガーディは、それでもそれ以上の追及はやめてくれた。
まぁ、そんなこんながあって動揺しっぱなしの朝なわけだが、からかいが終わるまでノームは全く姿を見せなかった。
後で理由を聞いたところ、恥ずかしすぎて出ていけなかった。らしい。
これについて、俺が言える文句は無かった。
いつも通りのような、そうでないような、そんな朝を迎え、各々出発の準備を終えた俺達は、改めて目的地を話し合う。
って言っても、目的地は1つしかないけどな。
「フェニックスを助けに行く。反対する人はいないか?」
「アタチは賛成チ」
「ウチも異論は無いよ~」
「私もです。役目も大事ですけど、あんな酷い扱いを受けているのを、放っておけません」
「当然、ワラワもじゃ」
「そうだね。風雷の魔王ってのがどんな奴なのか知らないけど、無事ってワケにもいかないだろうし」
「俺達も反対意見は無いゴブ!」
「オデもだ!」
全員一致でフェニックスを助け出すことを目標に掲げたことで、自然と俺達の目的地は、空に浮かんでいる魔王城に決まった。
のだが、空に浮かんでる城には、どうやっていけば良いんだ?
取り敢えず、近づいてしまえば良いんじゃないか?
という考えのもと、俺達は塩の迷宮を南に向かって歩き出す。
それからどれくらいの時間が掛かっただろうか。
随分と長い距離を歩いたのに、一向に近づいているように見えない魔王城に、俺達が大きな疑問を抱き始めた頃。
何度も繰り返し響く音が、俺達に近づいて来た。
ドーン、ドーン、ドーン。
と、定期的に鳴る音の正体は、南の方を跳びながらやってくる人影だ。
すぐに塩の壁に身を隠した俺達は、その正体を観察しようとする。
何度も跳躍を繰り返しているその影は、時折僅かな光を反射してキラッと輝いた。
その光が何なのか、更に観察を続けようとした俺達は、しかし、思ってもみなかった声を聞くことになる。
「そこに隠れてる奴らは誰だぁ!! 出てこぉい!!」
大声で叫んだそいつは、今までの数倍は高く跳び上がり、そのまま俺達の頭上にまでやってくる。
そして、盛大な音と地響きを発生させて着地を決めたスキンヘッドの屈強な男が、壁に隠れている俺達を見て笑うのだった。




