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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第8章 野生児と曇天に舞う羽

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第90話 オーバーフロー

 どんよりとくもっている空と、遠くから聞こえる嵐の音が、俺達をむかえる。

 穴から飛び出ると同時に、みるみるちぢんでしまうサラマンダーの背中から、すぐに飛び降りた俺は、辺りの様子を見渡した。


「ここは……どんな場所なんだ?」

 思わず俺がそうつぶやいたのには理由がある。

 まず、あまり見たことのない白くて半透明はんとうめいな岩。

 その岩で出来た壁や柱、そして地面が辺り一面に広がっているんだ。


 まるで迷路の中に放り込まれたような、そんな状況。

 まったく予想もしていなかったその光景に、俺以外の皆も言葉を失っている。


「不思議な岩ですね……透明とうめいだけど、完全にけてるわけじゃないし」

「アタチも、こんな光景は見たことないチ……ちょっと、上から周りの様子を見て来るチ!!」

「ふぅ……あ~あ、ここはそんなにあたたかく無いなぁ。僕、やっぱりさっきの所が良かったなぁ」


 各々《おのおの》が感想を口にし、ペポが飛び立った直後、何を思ったのかガーディが、近くにあった白い岩にかじりついた。

「ちょ、ガーディ? って、そういえばウルハ族は鉱石こうせきってたな」

「ぶぇ……ダレン、このイワ、カライぞ」

からい? そんな岩があるのか?」


 近くに落ちていた白い石を拾った俺は、半信半疑はんしんはんぎで少しめてみる。

「うぇ……からいって言うか、塩辛しおからいな、なんだこれ」

「本当に塩みたいですね……それも、随分ずいぶんい」

「これ、ぜんぶ塩ゴブか!?」

「こんなところがあったなんて、オラ、知らなかったゴブゥ」

「塩かぁ……どうしてこんなところに塩があるんだろう……誰かが運んできたのかな?」


 口に残る塩辛しおからさを、唾液だえきと一緒に吐きだした俺は、口元を手の甲でぬぐう。

「ってことは、ここは塩で出来た迷路なのか? どうなってるんだよ」

 俺がそうつぶやいた時、偵察ていさつに向かっていたペポが上空から戻ってくる。

「戻ったチ! 辺り一面、この岩の壁があるだけっチ。でも、少し南にいったら、大きな岩があったチ」

「ペポ、驚くなよ。この白いの、岩じゃなくて塩らしいぜ」

「またまた、どうせノームのうそチ」

「それが本当なんですよ、ペポ」


 俺の頭の上で憤慨ふんがいしているノームを無視して、ロネリーに怪訝けげんそうな目を向けたペポは、近くの壁にくちばしを当てた。

 直後、驚きのあまり飛び上がったかと思うと、顔をしかめながら告げる。


「しょっぴぃ……」

「しょっぴぃ、ってなんだよ」

「う、うるさいチ!」

「おいペポ。オイラが言った通り本当に塩だったろ? なんか言うことがあるんじゃないのか?」

「ご、ごめんチ……」


 くちばしとがらせながら、しぶしぶ謝るペポ。

 そんな彼女を見て得意げに胸をったノーム。

 なんか、さっきまでのあわただしい感じが嘘みたいだな。


「それより、ここにずっといたら危ないんじゃないかな? 僕も元の姿に戻っちゃったし、魔王軍が追ってきたら、くのは大変だよね?」

 サラマンダーの言葉で我に返った俺達は、すぐに前進を始めた。


 まずは、ペポの言っていた南の大きな岩に向かう。

 塩の壁で出来た迷路は、非常に入り組んだ作りになっているけど、ノームとペポの案内があるんだ、迷うわけがない。


 程なくして、岩の元に辿り着いた俺達は、そのふもと休憩きゅうけいをとることにする。

 時間的にも、もう少しで日が暮れ始めるころだろう。

 まぁ、どんよりとした雲におおわれているせいで、正確な時間は分からないけど。


「それじゃあ、初めの見張りは俺がするよ。みんな、寝てくれ」

 そう言った俺は、皆が横になったのを確認した後、ノームと共に岩の上に上った。

 一応、後の人のためにノームが岩に沿った階段を作ってくれる。


 随分ずいぶんと大きな岩の上で、座ったまま周囲を見渡す。

 ペポが言ったとおり、このあたりはずっと塩の迷路が広がっているみたいだ。

「これは……抜けるのは大変そうだな」

「そうだな。オイラも流石に、塩をあやつることはできないしな」


 なんて、どうでも良いことを話していると、不意にロネリーが岩の上に上がってきた。

「ロネリー!? どうしたんだ? まだ交代には全然早いぞ?」

「あ、いいえ。交代じゃなくて、ただ、その……」


 なにやら口ごもるロネリーを見た俺は、頭の上のノームと顔を見合わせる。

「何か用でもあったか?」

「用とかは、無いんですけど。ただ、その、一緒に居たいなって思ったので……」

「あぁ……そ、そっか」


 そう言ったロネリーの顔を、俺は直視できなかった。

 いや、見ても多分、くもってるせいで薄暗くなってきてるから、はっきりは見えないんだろうけど。

 それでもなんか、恥ずかしい。


 なんてことを考えていると、当然のように俺の左隣に腰を下ろした彼女は、大きく息を吐く。

『あれ……これって何か話しかけるべきか?』


 なんて話しかけるべきだろう。って言うか、こんなところでロネリーは休めるのか?

 色々と頭の中を駆け巡る疑問とあせり。

 それらに俺が翻弄ほんろうされている間に、ロネリーが先に口を開く。


「ダレンさん。その、助けてくれてありがとうございます」

「ん? まぁ、そりゃぁな」

 少し口ごもった俺は、バーバリウスからロネリーを助けた時に言った自分の言葉を思い出し、一人、悶絶もんぜつする。


 そんな俺を見て、クスッと笑った彼女は、俺の左肩に頭をのせる。

「私、すごく嬉しかったです」

「俺だって、ロネリーが無事だって分かって、嬉しかったし、安心したぞ」

 言いながらも、俺は左肩に乗っている彼女の頭に意識を集中していた。


 サラサラな金髪から伝わってくる温もりと、甘い香りが、俺の頭を揺さぶってくる。

 なんか、変な気分だ。

 しばらく黙り込んだまま、空を見上げていた俺は、いつの間にかかすかな寝息が聞こえてくることに気が付いた。


「ロ……ロネリー?」

「……すぅ……すぅ」


 完全に寝てしまっているらしい。

 人の肩に身体を預けた状態で寝れるのはすごいな。

 なんて考えていると、突然彼女の背中から姿を現したウンディーネが、俺を見下ろしてくる。


「ウンディーネか。びっくりさせるなよ」

「すまん。それよりも、ダレン。よくやった」

「ん? 何の話だ?」

「ワラワは感動しておるのじゃ。そして、感謝もしておる」

「それって、ロネリーを助けた時も言ってたよな。オイラ、覚えてるぜ」


 頭の上でノームが言ったのを聞いて、俺は確かにウンディーネがそんなことを言ってたのを思い出す。

「そういえば、そうだな。でかしたぞ、とかなんとか。どういう意味なんだ?」


 俺の問いを聞いたウンディーネは、俺とノームの眼前にゆっくりと回り込んだかと思うと、説明し始めた。

「ダレン達がこのを助けに来てくれたおかげで、ワラワは覚醒かくせいできたのじゃ」

覚醒かくせい? え? まぁ、確かに。強くなったなとは思ってたけど」

「それってオイラのワイルドみたいなものなのか? ってことは、何かきっかけがあったのか」

「きっかけは、そうじゃな。ワラワの口から言うのはやめておこう。じゃがまぁ、なんとなく気づいておるであろう? このの変化に」

「それはまぁ……」


 確かに、ロネリーは色々と変わったと俺も思う。

 なんていうか、自分の気持ちとか感情とか、そう言った物を前面に出すようになったって言うか。

 れ出てるというか……。

 多分、ウンディーネが言ってるのは、そう言うことだ。


「変わったって言えば、ダレンもだけどな」

「は? 俺、何か変わったか?」

「変わっただろ。オイラはそう思うね」

「そうかなぁ」

「それはさておき、ダレン、ノーム。お主らに伝えておきたいことがある」


 俺とノームの会話に割り込んだウンディーネは、おもむろに腕を前に差し出した。

「ノーム、ワラワにれてみよ」

「ん? どうしてだ?」

れれば分かる。さぁ」


 首をかしげるノームは、しかし、うながされるままにウンディーネの腕に飛び降りた。

 そして、彼女の腕の中にすっぽりと入り込んでしまったノームは、直後、赤い帽子の姿から緑色の姿、つまりワイルドへと覚醒かくせいする。


「んなっ!?」

「ノーム!? どうしてワイルドに!?」

「これが、ワラワの覚醒かくせいの力、オーバーフローじゃ。」

「オーバーフロー? どういう力なんだ……よ!?」


 ウンディーネに力の詳細しょうさいを聞こうとした俺は、しかし、視界の端に見た光に気づき、茫然ぼうぜんとしてしまう。

 その光は、以前にも見たことのあるもので、岩の上の俺達のすぐ隣にただよっていた。


「記憶の種!?」

「おい、ここにこの光があるってことは、前継承者達もオイラ達と同じように、ここに来たってことだよな!?」

「そうみたいだな」


 ノームの言葉に賛同した俺は、眼前にいるウンディーネに目配めくばせをした後、隣にある光に手を伸ばした。

 そして、毎度のごとく、記憶の中へと入り込んでゆく。

 それは、今と同じように、どんよりと曇った夜の事だった。

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