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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第7章 野生児と炎雪の魔王

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第89話 全員無事で

「ダレンさん! 大丈夫ですか?」

 随分ずいぶんと大きくなったサラマンダーの背中の上で、右足の氷を溶かしていると、あわてた様子のロネリーがい上がって来た。

 サラマンダーの様子からさっするに、もう湖を冷やす必要は無いらしい。


「あぁ、俺は大丈夫だ。それより、フェニックスを奪われた。急いであのメアリーって悪魔を追わないと……」

「ちょっと、そんなに軽く流さないでください! 大丈夫じゃなかったらどうするんですか!?」


 そう言った彼女は、適当てきとうに伸ばしていた俺の足のそばひざを落とすと、両手で足をさすり始めた。

「ちょっ、ロネリー? 大丈夫だって。サラマンダーの体温で、ゆっくり溶け始めてるから」

「そうですか? なら、私の手でも温めた方が良いですよね?」

「やけに過保護になっちまったな、ロネリーも。それよりダレン、これからどうするよ」


 いつの間にか俺の頭の上にいたノームが、たずねて来る。

 当初の予定だと、フェニックスを取り返してから、調子を取り戻したサラマンダーが道を作ってくれる手はずになってたけど……。


 作戦会議の内容を思い出した俺は、サラマンダーの背中を軽く叩いて、声を掛けて見た。

「サラマンダー、調子はどうだ? もう元気は出たのか?」

「うん。もうすっかり元気だよ。それに、ここはとても暖かくて、居心地がいいんだ。ねぇダレン、もう少しここにいる事ってできないのかな?」

「それはできないチ!!」


 サラマンダーの呑気のんきな問いかけに答えたのは、頭上から降下してくるペポだ。

「ペポ、何かあったのか?」

「魔王軍が船を準備し始めたチ! すぐにここに敵が来るっチ!!」

「ダレン、ペポの言ってることは本当だゴブ! 急いで逃げないと、まずいゴブ!!」


 ペポの言葉に賛同を示しながら、サラマンダーの背中にい上がって来るベックスとケイブ。

 彼らに視線を向けた俺は、一つうなずいて見せた後、改めてサラマンダーに声を掛けた。


「だ、そうだ。急いで逃げよう」

「そうみたいだね。それじゃあ、皆、しっかりと掴まってね!! それとガーディ、アパルを頼んだよ!!」

「マカセロ!!」


 最後にサラマンダーの背中に飛び乗って来たガーディが、胸に抱いたアパルを見下ろしながら告げた。

 それと同時に、俺達の乗っている周辺のうろこが、大きく変化を始める。


 俺達を囲うように現れたその突起とっきは、彼の宣言した通り、掴まりやすい形状になった。

 座ったままうろこの突起を握りしめた俺は、しっかりと前を見据えながら叫ぶ。


「よしっ!! サラマンダー!! 一発ブチかましてやれ!!」

「任せて!!」


 俺の声に合わせて、短く叫んだサラマンダーは、その口を大きく開けたまま南の壁に向かって構えた。

 すると、彼の口元が煌々(こうこう)と輝き始める。

 光と共に、熱も徐々に上昇し始める。

 あまりの熱さに、その場にいるだけでも火傷やけどするんじゃないかと俺が思った瞬間。


 ドンッ、という重たい音と共に、アラマンダ―の口から光り輝く熱線ねっせんが放たれた。


「おわっ!!」

 はげしい揺れが俺達をおそう。

 まだ片足の自由がかない状態の俺は、ロネリーの助けを借りて、なんとか転がり落ちるのをことができた。


 真っ直ぐに放たれた熱線ねっせんが、南の壁を穿うがち、大地を振動しんどうさせているのが分かる。

 そんな熱線ねっせんがゆっくりと細くなり始めた時、サラマンダーは、急に首を上に向けた。


 当然、立ち消えそうになっていた熱線が、湖の天井にまで到達し、結果、多くの崩れた岩が、降ってくる。

「おい! サラマンダー! 何やってるんだ!?」

「何って、こうしておいた方が足止めになるだろうし、それに、島を渡る道はあった方が良いでしょ?」


 そう言ったサラマンダーは、もう一度光と熱を溜め込むと、今度は首を激しく上に動かしながら天井に向かって熱線を発射した。

 彼の放った熱線は、先ほどの熱線に削り取られた痕跡こんせきと平行の軌道きどうを描き、天井に2本の線を描く。


 そして、仕上げとばかりに3度目の熱線を放ったサラマンダーは、まるで細長い棒を切り出すように、天井の2本の線を何度もけずってゆく。

「よし、それじゃあみんな、ここから脱出するよ!!」

「おいおい、本当に大丈夫ゴブか!?」

「見るゴブゥ~! 天井が落ちて来るゴブゥ!!」

「みんなしっかり掴まるチ!!」


 言われずとも手に汗を握りながら、サラマンダーのうろこにしっかりと掴まっていた俺は、ロネリーが腕にギュッとしがみついてきたことに気づく。

 すぐに、そんな彼女の肩を抱き寄せながら、揺れる身体をサラマンダーの背中に押し付けた俺は、降って来る巨大な岩の塊に目を向けた。


 そしてついに、湖に落ちて来た巨大な岩の塊が、轟音ごうおんと共に大量の水しぶきを上げた。

 その瞬間、タイミングを見計らっていたかのように、サラマンダーが勢いよく走り出す。


 向かう先は一番初めに南の壁に空けた穴。

 その穴は太くまっすぐな熱線で穿うがたれただけあって、俺達を乗せたサラマンダーでも通れそうだ。


 四肢ししせわしなく動かし、沈みゆく岩の塊の上を跳び続けたサラマンダーは、難なく対岸に渡り切ってしまう。

 そんな俺達をむかつはずだった魔王軍の多くは、湖に生じた高波に襲われたことで、散り散りになってしまっていた。


「よし!! このまま外まで走るよ!! みんな、誰も落ちてないよね!?」

「大丈夫だ!! 全員いる!! そのまま進んでくれ!!」


 飛び散る水しぶきで全身ずぶ濡れになりながらも、何とかサラマンダーの問いに応えた俺は、大きく息を吐きながら背後を振り返る。

 そう言えば、メアリーの攻撃を受けたリューゲはどうなったんだろう?

 柱と一緒に湖の中に沈んでしまったんだろうか。


 そんなことを考えていると、ついにサラマンダーが出口へと足を踏み入れ、辺りが暗闇くらやみに飲まれる。

 少しずつ遠ざかっていく湖の光景に、俺は少しホッとしていた。


 フェニックスは救出できなかったけど、ロネリーは助けることができたし、色々と知ることもできた。

 これからどうするのかっていう課題は残ってるけど、少なくとも、俺達はもう何もできない子供なんかじゃない。


 だってそうだろ?

 世界を牛耳ぎゅうじってるっていう魔王の城から、全員無事で逃げ出せたんだし。


「外だ!!」

 真っ直ぐな暗い道を走りながら、サラマンダーが叫ぶ。

 やけに反響して聞こえた彼の声に釣られ、勢いよく前方に目を向けた俺は、ぽっかりと空いている穴から、外の様子を目にする。


 そうして、地面に空いた穴から勢いよく飛び出た俺達は、猛烈もうれつに吹き荒れる嵐の音を耳にしたのだった。

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