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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第7章 野生児と炎雪の魔王

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第88話 奪い合い

 ドンッというにぶい音と共に、俺とガーディの足元の地面が大きく盛り上がる。

 直後、岩で出来た塔がせり上がり、俺達をリューゲとドレス女の元へと運んだ。


 俺は伸び出る柱から振り落とされないように、柱のふちにぎめる。

「ノーム! タイミングを見計らって、奴らの間に割り込めるか?」

「やってみる!」

「ガーディ、柱が奴らの間に割り込んだら、ドレスの女に飛び掛かれ。その時、氷に気を付けろよ」

「ワカッタ!」

「ノーム、ガーディがんだら、この柱から出来る限り沢山の枝を生やしてくれ」

「注文が多い奴だな。でもまぁ、仕方ねぇか!!」


 柱から顔だけ出していたノームは、そう言うと、再び岩の中にもぐり込んでいく。

 そうして、数秒後、急に伸びる速度を加速させた柱が、今にも衝突しょうとつしようとするリューゲと女の間に、割って入った。


「今だ!!」

 ガーディに向かって叫んだ俺は、ガーディとは正反対のリューゲのいる方へと飛び降りる。


 面食めんくらっている様子のリューゲの脳天に、りを入れようとする俺だが、なんなくかわされてしまった。

 小さく舌打ちしながら、気を取り直して下に注意を向け、柱から飛び出して来た岩の枝に着地した俺は、勢いを殺すことなく隣の枝へと跳び移る。


 そうして、柱を回り込みながら、急いで上に登った俺は、ガーディに組み付かれている女の姿を視界に入れた。

「このっ!! 離れなさい!!」

 女の腰元こしもとにしがみ付いているガーディは、彼女が身にまとっているドレスをズタズタにきながら、暴れている。

 対する女は、左手に持っている鳥かごにガーディが触れないように、腕を大きく振り上げていた。


 残りの右腕だけで、ガーディを振り払うことに苦戦しているらしい彼女を見て、俺は小さく呟く。

「よしっ!!」

 頭上に生えている枝に飛びつき、勢いをつけて女へと飛び掛かった俺は、そのまま鳥かごに両腕を伸ばす。


「なっ!?」

「頂いて行くぜ!! ガーディ! 撤収てっしゅうだ!!」

「ワカッタ!!」


 鳥かごをぶんどり、後は下に降りるだけ。

 女にしがみ付いていたガーディも、柱から生えている枝を駆使くしして降り始めている。

 あとは彼と同じように、俺も柱に沿って降りるだけだ。


 そう思って、ななめ後ろに居るはずの女を振り返った俺は、視界を舞う白い粒を目の当たりにする。

 舞っているのは氷の粒だろうか、熱気の充満しているこの地底湖の上空で、キラキラと輝いている。

 そんな冷気を全身からあふれさせている女の姿は、さっきまでとは打って変わっていた。


 頭頂部とうちょうぶにキツネのような大きな耳があり、腰元からはこれまたキツネのものと思われる大きな尻尾しっぽを生やしている。

 そんな彼女は、仮面の奥の鋭い目を俺に向け、静かに告げた。

わたくしを、このメアリーをコケにするつもりですの!?」

「やばっ!!」


 明らかにさっきまでとは雰囲気ふんいきの違う彼女から逃げるように、枝から枝に飛び降りながら、下を目指す。

 眼下がんかでは、少しずつ膨張ぼうちょうを始めているサラマンダーと、こちらを見上げているベックスとケイブの姿が見えた。


 助けを呼ぼうかと、口を開きかけた俺は、次の瞬間に大きな音を頭上に聞いた。

 咄嗟とっさに頭上を見上げた俺は、太い柱が真っ二つに折れ、ゆっくりとかたむきだしているのをの当たりにする。


「ノーム!! 援護えんごしてくれ!!」

「やってる!!」

 いつの間にか柱から顔を出して俺と一緒に下っていたノームが、叫ぶ。

 彼の言う通り、俺を追って降下して来る女に向けて、多くの岩の枝が差し向けられているけど、全て氷の槍で相殺されているようだ。


 そうこうしていると、にぶい音を立てながら柱が崩れ始め、黒い影がすぐ頭上へと迫りつつあった。

「このままじゃヤバい!!」

 叫びながら、下を見渡した俺は、湖の沸騰ふっとうが収まっていることに気が付く。

 その瞬間、深く考える事もなく、俺は柱を思い切りって、湖に向かってダイブした。

 これで、くずれる柱に巻き込まれることは無いだろう


 手にしていた鳥かごを胸に抱え、頭から水に飛び込む。

 その後の事なんて考えてない。

 きっと、皆が何とかしてくれるだろう。

 なんて思っていた俺は、しかし、水面から10メートル以上も上で、何者かに足をつかまれてしまう。


つかまえましたわ。悪い子にはバツが必要ですわね」

「なっ!?」

 足をつかんでいるのが、メアリーだと言うことを知った俺が、思い切りあばれようとした瞬間、右足に冷気が走る。


「がぁぁぁぁ!!」

 冷たさと同時に、一瞬走った痛み。

 その痛みにられるように右足を見た俺は、太ももから先が全て氷漬こおりづけになっているのをの当たりにする。


「さぁ、フェニックスを渡してください。これでも私は、慈悲じひぶかい女なのですよ? 素直すなおに渡すのであれば、楽に殺して差し上げますわ」

「くそっ。どうせ殺されるなら、渡してたまるもんか!!」

「やはり子供ですわね。あなた、自分が殺されたらどうなるのか、分かっていますの?」

 そう言ったメアリーが、空いている右手で俺の左手に触れようとした時、ロネリーの声が響いた。


「ダレンさん!!」

 直後、ものすごい速度で飛んで来た水弾が、メアリーのほおかすめる。

「どこをねらっていますの?」

「お前の頭だチ!!」

 余裕の表情で告げたメアリーの頭上から、いつの間にか飛び上がっていたらしいペポが急降下してくる。


 そんな彼女の翼の一撃は、メアリーの左腕を狙っていたらしく、俺は勢いよく宙に投げ出されてしまった。

 その反動で、俺は抱えていた鳥かごを落としてしまう。


「しまった……!!」

「よくやった小僧こぞう!!」

 俺が叫ぶと同時に、枝の影に惹削いでいたらしいリューゲが、鳥かごに向かって飛び出し、手を伸ばす。


 しかし、彼が鳥かごを手にすることは無かった。

「しつこい男は嫌われますわよ?」

 一瞬のすきに、鳥かごの元まで降りていたメアリーがそう言うと、その大きな尻尾しっぽをリューゲに向かって打ち付ける。


 完全に鳥かごにだけ目をやっていたらしいリューゲは、その一撃いちげきを真正面から受け、柱に打ち付けられた。

 しかも、腹部を岩の枝が貫通かんつうしてしまっている。


「ぐふっ……がはっ……」

「無様ですわね」

 勝ちほこった表情でそう言ったメアリーは、侮蔑ぶべつでもするような視線をリューゲに投げた後、落下する俺に目を向けてくる。


「くっ」

 鳥かごも奪われ、右足を氷漬けにされた俺は、そのまま落下を続けるしかない。

 どれだけ落ちたのか分からないけど、途中でペポに助けられた俺は、メアリーがどこかへと姿を消してしまったのを茫然ぼうぜんと眺めていた。


 完全に崩れてしまった柱が、湖を盛大せいだいに波立たせる。

 そして、ペポに連れられて島に降りた俺は、大きくなったサラマンダーの背中で右足の氷を溶かしたのだった。

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