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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第7章 野生児と炎雪の魔王

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第87話 メギツネ

 このまま、リューゲも倒せるんじゃないだろうか。

 頼もしく両隣りょうどなりに立つ仲間達を見た俺は、ふと、そんなことを考えた。

 だけど、床に手をつきながら橋を作っているノームのそばで、ぐったりと横になっているサラマンダーを見た俺は、考えを改める。


「今は、フェニックスを救出するのが優先だな」

「そうですね。こうしている内にも、魔王軍がフェニックスをどこかに隠してしまうかもしれません」

「その時は、アタチが先に飛んで行って、邪魔じゃまするチ!」

「それにしても……」


 遅いなぁと言いながら、ノームの方を振り返ろうとした俺は、すぐ足元からくだんのノームが飛び出して来たのを見て取った。

 勢いよく俺の頭の上に乗った彼は、胸を張りながら告げる。


「遅いとは言わせねぇ!! ばっちり準備完了だぜ!!」

「ノームさん! 待ってましたよ!!」

「遅かったなぁ~。ウチ、そろそろ眠たくなっちゃうところだったよ~」

「おいシルフィ!! オイラだって全力でやってたんだぞ!! って、そんな場合じゃねぇ!! みんな、急ぐぞ!! オイラに着いて来い!!」


 そう言ったノームは、再び床の中に飛び込んでゆく。

 すると、多くの魔物の頭上を走れるような岩の柱が、窓の方に向かって伸びていく。

「道ができたな! みんな、行こう!!」

「そうはさせない!! 全員、奴らを捕らえろ!! 絶対にフェニックスに近づけるな!!」


 走り出す俺達を追うために、いきおいよく飛び上がったリューゲが、魔物達に向けて号令ごうれいを出す。

 当然、俺達を取り囲んでいた魔物達は、先回りをしようと、ベックスとケイブの方へと向かい始めた。


「アタチが行くチ!!」

 すかさず、ベックスとケイブの援護えんごに飛んだペポとシルフィ。

 ロネリーとウンディーネとガーディは、俺の後ろを走りながら追って来るリューゲや魔物達へ攻撃こうげきを仕掛けている。


 となれば、俺がするべきことは1つだ。

「サラマンダー!! アパルをしっかりとつかんでろよ!!」

 ぐったりとしつつも、アパルを背中に乗せているガーディに声を掛けた俺は、ベックスとケイブの頭上を伸びる岩の柱から飛び降り、彼のそばすべり込んだ。


 そうして、サラマンダーごと背中に抱え上げた俺は、そのまま窓から地底湖ちていこの頭上に伸びる橋に向かって駆ける。

「ベックス、ケイブ!! もう良いぞ! 橋を渡れ!!」

「やっとゴブか!!」

「オラ、もうこれ以上は斧をれないゴブゥ~」


 あわてるように俺の後について走り出す2人。

 そんな2人と共に、橋の上に踏み出した俺は、足元から込み上げてくる熱気に、思わず顔をしかめた。


「熱気がすごいな……」

 眼下でぐつぐつと煮えたぎっている湖から立ち上ってくる湯気が、俺達を包み込む。

 そんなところにずっといれば、絶対に火傷やけどするだろう。

 なんてことを考えながら、橋の中腹まで駆けた頃、俺は、ふと背後を振り返った。


 ロネリーとペポが、遠距離から迎撃げいげきをしながら走っている。

 そんな2人の前を走るのは、イフリートと化したガーディ。

 おまけに、俺の足元には、岩の中を泳いでいるノームが居る。


『大丈夫だ。リューゲが追っては来ているけど、ペポとロネリーが足止めしてくれてるし、ガーディと俺ならすぐにヒュプノスを倒せるだろう。そうすれば、フェニックスを解放し、サラマンダーが調子を取り戻せる。少し計画は狂ったけど、何とかなるはずだ』


 自分を安心させるために、俺が心の中でそう呟いた瞬間。

 前方の島で俺達を警戒けいかいしていたはずのヒュプノス達が、動きを止めた。

 そしてさらに、今の今まで狂ったように熱気をまき散らしていたフェニックスの光が、フッと消える。


 何事かと、島に目を向けた俺は、島のほぼ真ん中に小さな鳥かごを持った1人の女性が立っていることに気が付く。

 見たことがないような豪奢ごうしゃな黄色いドレスを身にまとい、目元だけを隠すような仮面をつけている女性。


 背中に、リューゲと同じような黒い翼を持っている彼女は、ゆっくりとお辞儀じぎをしたかと思うと、口を開いた。

「お取込とりこちゅう申し訳ありませんが、こちらのフェニックスは私がいただいて行きますわ。それでは、ごきげんよう」

「なっ!?」


 一方的いっぽうてき宣言せんげんして、そのまま飛び去ってしまおうとするその女性に、俺が声を掛けようとした瞬間。

 黒い影が俺の視界の上端じょうたんを飛び去って行った。


「リューゲが抜けて行ったチ!!」

 背後から聞こえるペポの言葉から察するに、その影はリューゲだったんだろう。

 そんな影に負けないように、全力で加速した俺は、島の上空で2人の悪魔が衝突しょうとつするのを目の当たりにした。


「貴様!! このメギツネめが!! どこからここに入って来た!!」

「失礼な男ですこと。もう忘れてしまったのかしら? 私達の方が、あなた方よりも強いのですよ? それに、こんな子供の隠れ場所、隠れているにあたいしませんわ」

「この……貴様は我らが魔王を愚弄ぐろうするつもりか!!」

「当たり前でしょう? こんな子供相手に、みすみす大事なものを奪われそうな部下しかいない魔王など、取るに足りませんわ」


 言葉の応酬おうしゅうに合わせて、空中で激しく打ち合う悪魔たち。

 女は氷魔法を使うらしく、さすがのリューゲも苦戦くせんを強いられている。

 よく見れば、女が持っているフェニックスの入った鳥かごは、完全に凍ってしまっているらしい。


 どおりで、フェニックスの光が消えてしまったワケだ。

 って、そんなことを言っている場合じゃなくて、今はなんとか女からフェニックスを取り返す方法を見つけなくちゃいけない。


「ノーム!! ここからあいつらのところまで柱を伸ばせるか!?」

「ここは無理だ!! 周りの岩が足りねぇ!! 一旦島まで行けば、何とかなると思うぜ!!」


 ノームの指示通り、一旦橋を渡り終えた俺は、後ろから着いて来ていたガーディにサラマンダーとアパルを預けると、頭上で戦っているリューゲと女を見上げた。

 そうしている間に、ロネリーやペポ、ベックスとケイブも島へと到達する。


「ダレンさん、あれは何が起きてるんですか!?」

「あの女は何者チ!?」

「分からない、でも、リューゲと敵対してるみたいだった。推測だけど、もう一人の魔王の部下だと思う」

「あのオンナが、コイツラをやったのか?」


 そう言いながら氷漬こおりづけになっているヒュプノスを指さしたガーディ。

 彼にうなずいて見せた俺は、ヒュプノスを閉じ込めている氷を見ながら考えをめぐらせる。


 こんな熱気にあふれている場所で、図体のでかいヒュプノスを氷漬けに出来るのは、かなり脅威きょういだ。

 おまけに、その氷は全然解ける気配を見せない。


「かなり強そうだな」

「ダレン、どうするチ? もうすぐ橋を渡って魔王軍がここに来るチ」

「あぁ、そうだな。とりあえずノーム、橋を壊してくれ」

「んなっ!? 何!? オイラがせっかく作った橋を壊せって言うのか!? おいおい、本気かよ!!」

「なんでそこに愛着あいちゃくいてんだよ……」

「分かったよ、仕方ねぇなぁ」


 渋々(しぶしぶ)橋を壊すノーム。

 当然、崩れてゆく橋の上を渡っていた魔物達は、次々と高温の湖に落ちていった。

 これで追手が来ることは無いだろう。


「次は、ここからどうするかだな」

 未だに続く頭上の激しい戦闘を見上げた後、周囲を見渡した俺は、ふと、ガーディの背中に乗っていたサラマンダーの様子を見た。

 薄っすらと目を開けている彼は、さっきまでよりはグッタリしていない気がする

「サラマンダー、無事か?」

「う、うん。少しだけど、楽になった気がするよ。それに、体力も回復してきてる」

「本当ですか? と言うことはやっぱり、湿気がダメだったんですね」

「そうみたいだな」


 サラマンダーに回復の予兆が見られたことで、ホッと息を吐いた俺とロネリー。

 そんな俺達に、ペポが声を掛けてくる。

「とりあえず、アタチ達は風で湿気を飛ばせばいいチ?」

「はい、お願いします。私も予定通り、今からウンディーネと一緒に、湖に水を注ぎますね。ダレンさん、後はお願いします」

「あぁ。頼んだよ、2人とも」


 計画通りに動き出した2人にそう声を掛けた俺は、地面に降ろされたサラマンダーのそばに立ったまま、残りの3人と顔を見合わせた。

「で、俺達は何をするゴブ?」

「そうだな。橋を壊したから、やることなくなったな」

「なんとか、フェニックスを取り戻したいゴブゥ」

「オデ、あそこまでトビタイ」

「飛んで行くのは危ないだろ。でも、俺に考えがある。手伝ってくれるか? ガーディ」


 俺の言葉を聞いたガーディは、大きく頷いて見せた。

 そんな彼にうなずき返した俺は、その場にしゃがみ込んで、地面に手を添える。

「ノーム、ここなら大丈夫だよな?」

「あぁ、行けるぜ」

「よし、それじゃあ、いっちょデカいのを頼んだぜ」

「オイラに任せとけ!」

「ベックス、ケイブ、ちょっとの間、サラマンダーとアパルのこと、頼んだぞ」

「やっと休めるゴブゥ……」

「休むわけじゃないゴブ! しっかりしろケイブ!!」


 いつも通りのやり取りをするベックスたちを見て、思わず小さな笑みをこぼした俺は、気を取り直して、ガーディに声を掛けたのだった。

「ガーディ、準備は良いか?」

「モチロンだ!!」

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